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納得する方法


 あたしは走る。ミラはモニカに任せて後ろへ全速力で走った。


 今は考えている暇はない。


 クールブロンにはめ込まれた魔石には魔力が充填されている。この模擬戦は今までのような遭遇的な戦いじゃない。3日間用意してきたんだ。走りながら身体の能力強化をする。


 ――あたしに向かって迫ってくる影。耳につけたピアス。褐色の肌をした男がすさまじい速さで踏み込んでくる。


「まずは貴方からやらせてもらいます」


 キース。強化したはずのあたしの速度を完全に超えている。モニカの魔力の渦の中でも冷静に行動できる彼は優秀な戦士だ。でもさ――止まる必要なんかないね!


「貴様の相手は私だ!」


 ニーナが蹴りを繰り出す。キースは落ち着いてそれをよける。流石だ。でも、足が止まった。あたしはクールブロンを構える。そして引き金を引いた。


「くっ……これは……!」


 弾丸がキースに直撃する。青い光は生命石の防御魔法が反応したんだ。彼は衝撃で後方に下がる。まだ、仕留めきれてない。


「先にいけ! マオ!」


 あたしは振り返らない。ニーナは下がった彼を追う。


 突破するのはアルフレートのいる場所だ。彼は剣を手にうろたえている、ごめん。容赦する暇はないよ。


「ラナ!」

「わかっているわよ。アクア!」


 ラナの水魔法がアルフレートを襲った。青い水がラナのかざす魔導書を中心にあふれ出し、彼にさっとする。


「ぼ、僕をなめるな」


 剣に魔力を通す。刀身が光り襲ってくる水流をはじいた。ほんの少し、ほんの少しだけ彼は安堵した顔をした――実戦経験が足らないよ! 


 あたしはクールブロンの魔石に手を当てる。右手にその魔力を取り出して素早く魔法を構築する。


 魔法陣は最小でいい。最速で構築できる魔法。今あるものを使えばいい。


「アクア・クリエイション!」


 ラナの生み出した水に魔力を再度纏わせる。形は剣がいい。はじかれて霧散した水が6本の水の剣に形を変える。水人形違って単純に動かせる。なんたって相手に振るうだけでいい。刀身の一部だけを攻撃力を加えるために強化する。


「ま、まって」

「待てない! ごめん!」


 あたしは右手を振ると水の剣がアルフレートを四方から切る。六つの斬撃が彼を襲い、すべてが直撃する。正直形だけの攻撃だけど、ぎょっとしてくれているなら当たる。


「ぐあっ。そ、そんな。ぼくが」


 防御魔法が光を放ち。彼の制服にはめ込まれた生命石がぱきんと割れる。その時あたしはひとつのことに気が付いた。でもそれはまだいい。


「行こう。ラナ! フェリシア!」


 3人で森に駆け込む。はあはあ。事前に用意した魔力をかなり使ってしまった。でも、時間はない。2人に向き直る。


「最初の取り決めの通りキースはニーナに任せるよ。モニカがああなったなら……あたしとラナでソフィアを探して倒す」

「……もう、この数十秒でいろいろありすぎて思考が追い付かないけど、わかったわよ」


 ラナが頷くのを見た。でもフェリシアは反応しない。呟いた。その表情は複雑だった。


「魔骸だと……? なぜ、あいつが、使える……?」


 魔族の体の中に眠り魔力を一気に放出してすべての力を引き出す『魔骸』は危険な術だ。その反面それを使える魔族は尊敬を受ける。魔王としての時代の幹部もみんな使えた。そしてその身を滅ぼした。力のすべてを放出するということは体への負担が相当に大きい。


 あたしは一度ぎゅっと胸を抑えた。モニカがあの力を使えるようになったのはあたしが魔力の循環を教えてしまったからだ。それをあの子が黙っていたのも……止めるってわかっていたからだ。


「フェリシア……。あの力は憧れるようなものじゃないよ」

「……」


 フェリシアの赤い瞳があたしに向けられる。胸倉を彼女に掴まれてあたしは少し足が浮く。


「貴様ら人間に何がわかる。あの力がどれだけ魔族にとって意味を持つのか……こんな。こんな遊びのような戦いで使うなど馬鹿げている……!」

「ちょ、ちょっと何をしてんのよ」


 ラナが間に入ろうとしくれるけど、魔族としてのフェリシアの力は強い。彼女はあたしをまっすぐ見ている。


「モニカは……あれはお前に入れ込んでいた! 言葉巧みにあれの甘さを利用して自分が有利になって満足か人間!」

「…………」

「なんとか言え!」


 あたしは、


 ここ数日のことが頭に浮かぶ、


 焚火の前で話をしたモニカの顔が思い浮かぶ。あの時にはすでに何か決意していたんだ。


 それはあたしは望んでいたわけじゃない。


 モニカがあんな力を使うことなんて本当に考えてもいなかった。


 でも、フェリシアの言う通り、この模擬戦の序盤のたぶんミラの考えた絶対の陣形を崩すしたことで流れが変わった……。あたし自身が一番利益を受けているっていうならそれは真実だ。


「フェリシアはまっすぐだね」

「なに……?」


 前から思っていた。フェリシアはその言葉に容赦がない。口は悪いけど常に中途半端に物事をゆがめて見ない。人間への純粋な怒りを持っているから、それを隠すこともない。今でもはっきりと言ってくれるのはモニカの気持ちがどうであれ『あたしが利用している現実』だ。それをちゃんと伝えてくれている。


 彼女の見たままのありのままを歪めることなく伝えてくれる。あたしがちゃんと受け止めるべき目の前のことを。


「モニカがあんな力を使えることも使うこともわからなかった。それでもフェリシアの言う通りだよ。あたしはこの戦いでモニカを頼る…………結局利用していることと変わらないよ。それでもあたしは止まるわけにはいかない。この戦いに勝つし、ミラとの決着もつける」


 あたしは彼女の魔族としての赤い瞳を見返す。


「だから今だけはフェリシアも力を貸してほしい。もし、この戦いの後にモニカの身になにかあれば……どんな報いも受けるよ」

「…………」


 フェリシアはあたしをにらむ。そして投げ捨てるようにあたしを離した。


「私は、私は『ザイラル』の一員だ。貴様らのような学生ではない……れっきとした戦士だ。私には魔族の要人を守る義務がある……あのギリアム様の娘であるモニカもその対象だ」


 右の掌を自分の額に当てるフェリシア。


「そうだ。これは任務だ。仕事だ……]


 たぶんこれは彼女なりに理由をちゃんと作ってくれているんだ。フェリシアはあたしをまた見た。


「人間。私は今からモニカさんを支援するために戻る。それは貴様が言っていた弓使いを倒すこと同じのはずだ……いいか。私が手伝うのはそれまでだ。仕事はそこまでだ」

「うん」

「……ああ、気に食わない。人間の中で一番お前が嫌いだ」


 フェリシアは吐き捨てるよう言って踵を返す。魔銃を担いで元来た道を戻っていく。


 ラナがあたしの横に来る。


「あいつ……よくわからないやつね」

「正直ないい子だよ」

「いい子って言えるあんたがすごいわ。はあ。それで? ソフィアがどこにいるのかどうやって探すの?」

「これだよ」


 あたしは自分の制服のにはめ込んだ『生命石』をさすった。防御魔法の刻まれた透明な石には魔力がある。おそらく先生の魔力かその刻まれた魔法に特殊な波長のようなものがある。それでクロコ先生たちは「遭難しても見つけられる」って言ってたんだ。


「ははあ、でもそんなの見つけられるなんて流石は知の勇者の末裔ね」

「うん。でもわかったからにはあたしもできるよ。たぶん」

「……ここにも化け物がいたわ」


 ひ、ひどい言い方だな。


 あたしは座り込んでクールブロンたてて地面に立てる。そして目を閉じた。魔力を粒子のようにあまり無駄にできないから本当に微小にあたりに散らす。いくつかの魔力の波長を感じる。強力なのはミラとモニカだこれは分かりやすい。


 戦闘さえしていてくれれば気が付ける。でも、ただ待機しているだけなら…………はは。


 この道の向こうの川のあたり、明らかに高まっている魔力がある。別に誰かと戦っているわけじゃない。これは呼んでいるんだ。あたしを。ソフィアはこちらが魔力で探ることに気が付いて向かってくるようにわざわざそうしている。


 どちらにせよソフィアとミラの二人を倒さないと片方だけでもあたしたちを全滅させる力がある。


「わかった。あっちだ」

「……あんたって魔力があれば無敵なのかもね」


 そんなことはないよ。無敵じゃなかったからこうなったんだ。


 それに準備はしておかないとね。あたしは手に魔力を込める。


 そしてひとひらの魔力の蝶が空を飛んでいく。


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