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模擬戦開始


  朝だ!


 クールブロンを担いで。ブーツのひもをしっかりと結ぶ。しっかりとポーチに入った弾丸の数も数える。十分にある。ぱんと自分のほほを叩いて気合も入れる。


 できるだけの準備はしたつもりだ。あとはやるだけなんだ。


「おはよう!」


 あたしはみんなに向かって手を挙げて挨拶をする。ラナが両耳に指を入れて「うるさい」と答えた。そ、そんなぁ。できるだけ気合を入れたのにさ。


 みんな揃っている。ラナは手に魔導書、ニーナはもともと何も持ってない。フェリシアはあたしと同じように魔銃をもっている。家から持ってきて返したやつ。


 それにモニカは大きなハルバードを手にしている。背を向けているのはあたしがミラじゃなくてソフィアをお願いしたからかな……。でもモニカはふいと振り向いていってくれた。


「マオ様おはようございます」


 なんだろう全然朗らかな表情をしている気がする……むしろいつもよりにこやかな気もする……うーん。


「おはよう!」


 開始はミセリアマウンテンの中腹。いつもフィールドワークでご飯を食べていたところ。ほかの生徒も集まって見送ってくれる。


「おお、準備はできたか?」


 クロコ先生がいた。


「それじゃあ始めるぞ。ちなみに向こうのパーティーはこの道をまっすぐに行った場所から行動を開始する。少し離れた場所からだからすぐに戦うってことにはならないだろう」


 山道を指で示すクロコ先生。あたしは頷く。要するにこの模擬戦は実際の冒険のように相手と不意に戦闘になるようなものだ。そういう意味では戦力がミラ達よりも低いあたしたちが先に相手を見つけないとだめだ。正面から戦うべきじゃない。


「うんいい――よ!?」


 襟をつかまれて引かれる。ラナだ。


「始まる前にあんたがちゃんとみんなに声をかけなさい。あんたがリーダーなんだから」

「そ、そうだね」


 あたしは一度振り向く。ラナとニーナとモニカ。それとやっぱり遠くにいるフェリシア。みんながあたしを見ている。なんだか恥ずかしい気がするけど、ちゃんと胸を張って言おう。


 息を吸う。目を閉じる。


 そしてみんなを見た。


「……あたしはさ、ミラと戦うなんて思ってもみなかった。でもさ、いろいろと考えたんだ。……あたしが旅をして、王都に来る時も、そのあともずっとミラに助けてもらっていたって思った。でもさ、ミラが何かに悩んでいることを見てたのにそれに踏み込もうとしたことがなかった」


 だから、簡単に「嫌いだ」なんて言ったんだろうか。本当、自分が嫌いだ。


「だからこの模擬戦に勝ってちゃんとどんなことでも受け止められるくらい強いってことミラに伝えたい。だからみんな力を貸してほしいんだ」


 あたしが頭を下げようとしたらラナがまた首をつかんだ。ぐえ。


「それがあんたの答え?」

「う、うん」

「……そう。どうするこいつのお願い」


 ニーナがちょっと笑った。


「今更聞くまでもないと思うけどな」


 モニカも言ってくれる。


「マオ様らしいかもしれませんね」


 フェリシアはふんと鼻を鳴らしてそっぽを向く。でも多分この子はこの中で一番真面目だ。なんとなく。前から少し思っていた。人の言えないことを容赦なく言ってくるのはたぶんそういう視野を持っているからだと思う。


「……? なんですか、その目は。気持ち悪い」


 フェリシアはそれだけ言った。仲良くなるのは遠そうだけど。


 ラナがあたしを離した。そして背中をたたいた。


「なんか気持ちよく言って、ほら」

「えっ? じゃ、じゃあ。勝つぞー!」


 おーって一人を除いて応えてくれる。



 生命石を制服に固定すると防御魔法が展開する。これでそう簡単には攻撃は通らない。武器も『刃引きの加護』をしているから大丈夫だ。あと、遭難しても場所がわかるらしい。


 それはつまりミラ達の手加減もないってことだ。山道を歩きながら警戒をしている。できるだけ木の陰とかを歩くようにしている。フェリシアは魔銃を持っているから一番後ろで警戒をしてくれる。魔力量の少ないあたしじゃそれは無理だ。


「マオ様。まずは高台に上りましょう……こっそり上から覗けば見つかりやすいかもしれません」


 モニカは手に地図を持っている。ここ数日周辺の地形は歩いて調べた。この道をまっすぐ行くと開けた場所に出る。ミラ達もどこにいるのかはわからないけど、あたしたちを見つけようとしているのは間違いない。鉢合わせだけはだ――


 空から人が落ちてくる。


 剣を構えた銀髪の少女。


 ミラだった。白い細い剣を手にしてあたしの前に着地する。黄金の瞳にあたしを映した。


「マオ様!」


 ミラがあたしに向けて剣をふるう。それをモニカがハルバードで防ぐ。剣と大斧がぶつかり火花を散らし。ミラが一撃で後方に離脱する。ふわりと、そう思えてしまうくらいに柔らかくミラは着地する。


 あたしたちの前に立つ姿は優雅だとすら思ってしまう。


 いつもの銀髪を一つに結んでゆらりと全員の前で構える。あっけにとられたあたしたちはモニカしか反応ができなかった。そうだ、最初からミラは『あたし』を取りに来た。


 ――こんなに早く?


 その疑問と同時にあたしは叫んだ。そしてあたしも立っていた場所から下がる。


「みんな! 矢が来る!」


 白い光を帯びた矢がさっきまであたしの立っていた場所をえぐる。破壊の伴う魔力を込めた矢はあの港町での戦いよりも強力になっている……!


「こいつら……本気ね」


 ラナが魔導書を開く。でもミラは追撃してこない。ただそこに構えている。


「おい、マオ」


 ニーナの声に後ろを振り向く。あたしたちが歩いてきていたはずの後ろに褐色の男がいた。キースだ。それに傍にアルフレートが剣を構えている。


 囲まれた……!?


 こんなに早く……?」


 どうやって!?


 はっとした。制服に固定された『生命石』を見る。そしてソフィアの顔を思い浮かべる。この石から発する微弱な魔力はチカサナやクロコ先生があたしたちを見つけてくれる……だったらソフィアがいればあたしたちを見つけられるかもしれない。


「ちっ」


 舌打ちするフェリシア。彼女は警戒していたはずだ。後方の2人に気が付かなかったなら最初から待ち伏せしてたんだ。通り過ぎた後、ミラが攻撃してから姿を現す……あたしたちがどこを歩いてくるかわからないとこんなことできない。


 ――もちろん推測にすぎない。最初から計算されていた……いやそんなこと考える場合じゃない!


 それよりもこの状況だ。


 ミラが動かないのは、あたしの次の行動を待っているからだ。


 前にミラと姿の見えない弓使い。後ろにキースとアルフレート。


「……!」


 あたしははっとした。全員で後ろに下がってキースたちを相手にすればミラに背を向けることになる。


 逆にミラに攻撃を集中すれば後方の2人に挟み撃ちにされる。もともとミラ1人でも難しいのに弓使いの支援を受けている彼女を突破するのは困難だ。


 戦力の分散もだめだ。中途半端にミラ、キース、アルフレートにそれぞれに攻撃を仕掛けたら……ミラはきっとまっすぐあたしを取りに来る……! 


 にらみ合いをしててもソフィアがどこにいるのかわからない以上全員固まっているあたしたちがまとめて魔法で吹き飛ばされる……いやもうその準備をされているかもしれない。周囲に大きな魔力はないけど……いつそうなるかわからない。


 あたしがどの動きをしてもミラはすべて有利な状況が作れる。


 この布陣……うぬぼれじゃなければあたしを倒すためのものだ!


「本気なんだね。ミラ」

「……」


 ミラは答えてはくれない。あたしはクールブロンを掴んだ。ここでやるしかない……! 全部ぶっ壊してでも前に進む。……それしかない。


「ラナ。モニカ! あたしに……あたしに魔力をありったけ頂戴!」


 あたしは手を伸ばす。でもモニカが前に出た。


「だめですよマオ様……それじゃあちゃんと勝てないじゃないですか」


 静かに言いながらミラの前にモニカが進む。彼女はハルバードを構える。


「も、モニカ!」


 ミラと弓使い2人相手にかなうわけがない。今はあたしに――モニカは振り向いてはくれない。


「マオ様。この前私と戦った時あなたは自分の身を投げ出すようなことをされましたね。……あんなことされて怖かったんですよ。だからこれは貴方への仕返しでもあります」


 モニカの体から赤い魔力がほとばしる。それはだんだんと大きくなる。異常なほどの量の魔力。ミラは表情を動かさない。


「な、なんだこれは」


 ニーナの驚く声、いやみんなも困惑している。


 赤い渦がモニカを中心にして収束していく。


 それはモニカの頭に一本の『角」として結晶化される。


 すさまじいほどの魔力を体に纏うそれは『魔骸』だ。魔族の奥の手、そして諸刃の剣。体の中の魔力をすべて放出して力に変える。ロイが一度使ったものと同じだ。


 モニカはハルバードを天に向けて構える。ハルバードにも魔力をまとわせる。そして地面にたたきつけた。


 地割れが起こる。地面が割れてミラの立っている場所まで衝撃波が巻き起こる。


 砂煙の中でモニカが叫んだ。


「マオ様! 今のうちです。ミラさんは……私が相手をします!」

「も、モニカ、だ、だめだよそんな力、っも、もしかしてあたしが魔力の使い方を教えたから……こんな」

「……」

 

 その時モニカは一度振り返った。優しいいつもの顔。でも赤い目がいつもよりも光っている。


「もともと言ってたじゃないですか。ミラさんは私に任せてくださいって。それにあの時の私もそんな気持ちでしたよ? さ、ミラさんの仲間達を倒してきてください。あの人に私たちは強いってわからせるんですよね?」


 微笑むモニカ。あたしはその顔に何も言えなかった。ただ、クールブロンを掴んで走り出す。


「さて、ミラさん。マオ様と戦いたいなら私を倒してみてください」


 モニカはハルバード片手で肩に担ぐ。


 砂煙の中で白い光がほとばしるのをあたしは見た、それはミラが放つ魔力の光だった。



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