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ニーナの修業


 モニカの体から流れてくる魔力を借りて『力の勇者』を形作る。手を握ってくれるくらいにモニカが近くにいるからワインレッドの髪がたまにくすぐったい。この魔法は常に魔力を水人形に供給しないと行けない。ソフィアやったように傀儡を強化しすぎるとすぐに魔力切れになる。


「……お前にガルガンティアの動きを学ぶ……?」


 ニーナはそう疑問を口にして一度ラナを見る。それからはあとため息をついて構えた。やっぱりあの日にラナと一緒にニーナは何かしたみたいだ。教えてくれないからわからないけど……。でも普通に考えたらあたしにガルガンティアのことを学ぶなんて面白くないはずだ。それでも付き合ってくれるみたいだからうれしい。


「一の術式――」

「あ! だめだめ」


 あたしは術式を構築しようとするニーナを止める。


「ニーナはこの前の影が薄くなる奴をやって!」

「その言い方をやめろ。……しかしなんで」

「大丈夫だから」

「……零の術式、無炎」


 ニーナの体の中へ魔力が収束していく。


「すごいです。影が薄くなりました……」


 モニカがぼそっと言ったので笑いそうになったけどあたしは笑わなかった。えらい……!


「おい、マオなんでにやけている」

「にやけてないよ!」


 危ない。それよりも本題だ。


「じゃあこの水人形で攻撃するからニーナはそれをよけたり反撃したりしてほしいな」

「前も言ったがこの状態じゃ戦闘は無理だ」

「そんなことはないよ。この人形は魔力の強化もなんにもしてないからただの水の塊だし」


 水人形を操る。ニーナは魔力を抑えたまま構える。


「それじゃーいくよ!」


 ニーナの顔に水人形の拳が当たる。


「ぎゅあ!」


 のけぞる。水がはじける。ニーナは怒った顔であたしを見る。


「お前。なんだこれ、速すぎるだろ!」

「大丈夫だって。ほら全然痛くないでしょ」

「地味に痛いんだよ!」


 仕切り直し。もう一度水人形とニーナと対峙させる。あたしは人形を操る左手を動かす。


 ニーナの顔に水人形の拳が当たる。


「ぎょわ!?」


 水がはじけてすごい恨めしそうな目でニーナがあたしを見てくる。


「お前……」

「だめだよニーナそれじゃ」

「速すぎると言っているだろうが。魔力での身体能力強化なしでよけられるわけがない」

「そんなことはないよ」


 あたしは魔法を解除する。ニーナの前に歩いていく。


「ニーナはね。素直でとってもいい子なんだけどさ」

「いきなりなんだ」

「素直すぎてダメなんだよ。こうやって攻撃が来たら避けようとしているからさ」

「何を言われているのかわからないんだが……」


 そうだな……。あたしは右手でニーナに殴りかかろうとした。


「何をするんだ!」


 ニーナはもちろん防御の姿勢をする。あたしは拳を握ったまま止まる。


「なんで防御したの?」

「なんでってお前が殴りかかってきたんだろうが」

「そんなことするつもりはないよ。でもニーナはあたしが殴る姿勢をしたから防御したんでしょ?」

「……そうだ」


 あたしは構えを取く。


「つまりさ。人間でも魔族でも動く前に事前の動作があるんだよ。わかりやすく言えば拳に力が入っているとか、重心が偏っているとか……魔法でも一緒だよ。魔力の流れで相手が何をしようとしているのか『何かする前に』わかるじゃん」

「わかるじゃん……といわれてもお前」

「相手が動いてからじゃ遅いんだよ。動く前に相手を上回ってないと」


 そうじゃなきゃあたしは、というか魔王だったころは戦えなかった。


「もちろん思いがけない攻撃に対しての反射は重要だけどさ。ニーナは相手の動きを待っているから初動というか純粋にスピード負けしていると勝てない。だからキースの攻撃をこの前は簡単にうけちゃったんだよ」

「…………」


 ニーナがじっとあたしを見てくる。な、なにさ。


「お前そんなことを考えながらいつも戦っていたのか?」

「え? そうだよ」

「……………むかつくやつだ」

「な、なんで!? ま、まあいいけどさ。あとニーナ。両手だして。水人形との戦いもそうだけどモニカとラナみたいに魔力の流れも練習してもらうよ」


 あたしはニーナが出してきた両手をぎゅって握る。術式「無炎」を解除したニーナの体に魔力が流れる。すごいぎこちない。川の流れのようにゆるやかに流れるのがいいんだけどニーナはなんていうか、すごく素直というか直線的だ。落ちて曲がってみたいな感じ……うーん。わかりにくいかな。


「……いくよ」


 あたしはニーナの体にあった流れに調整する。体に沿って魔力を流すと特に体術を使うニーナには効果的なはずだ。彼女はそれに合わせようとして魔力を動かそうとする。


「痛っ」


 ニーナが言った。ご、ごめん。でもあたしのやっていることに身をゆだねてほしい。……あまり普段とは違う魔力の流れに違和感を覚えて、多分無意識だけど慣れた方法に戻そうとするのもニーナらしい。そういえば船で一度ニーナの魔力は借りたことがあるけどあの時の記憶は彼女にはない。


「これ……難しいぞ」

「いやいいよニーナ今はあたしに任せて」

「……」


 う、うう。む、無駄なていこうをやめろぉ。魔力の流れが乱れる。あたしが調整しようとするのとニーナが戻そうとするので綱引きみたいになっている。


「に、ニーナ様。もう少し落ち着いてください」


 モニカもそばで応援してくれている。いつの間にかあたしとニーナは座り込んでいる。うう、うう。集中しよう。


「ニーナ。もう少し力を抜いていいよ」

「抜いている」

「抜いてないんだよ」

「……これはラナとモニカはすぐにできたんだな」

「……それは」

「私はやっぱり出来損ないということだな」


 そう言ってニーナが自嘲する。その顔がを見てあたしは悲しくなった。だから否定しよとす――


 ニーナの頭をラナがげんこつで軽く叩いた。


「ぎゃっ」

「あんたねぇ。いちいち落ち込んでんじゃないわよ。約束したでしょ?」


 ニーナが涙目でラナを見る。泣いているんじゃない。いきなり頭を叩かれて涙が出たんだと思う。


「……わかった」


 ニーナが目を閉じて魔力の流れに集中してくれた。正直なんだかわからないけど……あたしも彼女の手を握る。だんだんとよくなっていけばいいんだよ。それでいいとあたしは思う。ゆっくりでもさ。



 水人形の前にニーナが立つ。


 今度はラナの魔力を借りてあたしは魔法を使う。右手でラナの手を掴んで、左手で人形を操る。ニーナは両手を胸の前で構える。


「零の術式『無炎』」


 彼女の存在感が薄くなる。でもさっきよりも自然な気がする。


 魔力は体を常にめぐっている。あの術式はそれを抑えているだけ。でも魔力の流れをしっかりと調整して練習すればもともとの力は引き出すことができる。無理に魔法で身体能力を強化しなくても。


 じりとニーナが構える。あたしも『力の勇者』の傀儡を動かす。


 滝の流れる音だけが聞こえる。


 ニーナは集中していることがここからでもわかった。あたしは……水人形の重心を動かす。それは右こぶしでの打撃を『偽装』する動き。フェイントをいれてそして左足での蹴りを繰り出す――その一瞬にニーナが下がった。あたしの攻撃は空を切る。


「……はあ、はあ」


 ニーナがそれだけで膝に手をつく。汗をかいてる。あたしは魔法をとくと傀儡は水に戻った。


「やった! ニーナ」

「……まあ、少しだけわかった気がする」

「これでもっと激しくできるね!」

「簡単に言うな……先にお前から叩きのめした方がすっきりしそうだ」

 

 な、なんでさ。でも、あと少しの時間しかないからラナとモニカは魔力の流れを本当に自分のものにしてもらうし、ニーナは水人形相手に戦ってもらうよ。


 それにしても無理にほかの術式で強化すると動きに無理ができる。だから純粋な体の動きしかできない『無炎』を使ってもらったんだけど。もしかしてこの術式はもともと修行用だったんじゃないかな……? 魔力を使わず純粋に動きを洗練させるにはぴったりだよ。


 まあいいや!


「ニーナ! それじゃあ少し休んだらまた特訓だ!」

「…………」


 う、恨めしそうな目でみないでよ!


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