優しさはお芝居のように
あたしとミラは街を出る。単に村に帰るだけだけど、冒険者になるにしてもお父さんとお母さんにちゃんと話をしておかないといけないしね。正直言えばどういえばいいのか悩んでいるんだけど、えーい、当たって砕けろ!
「それにしてもなんでミラまで付いてくるの?」
「え? 迷惑だった?」
銀の鎧に聖剣を携えた女の子。あたしは特に武器とかないし、村まで来てくれるだけでも結構心強いんだけどさ、あ。ミラはあたしを心配しているんじゃないかな。魔王として勇者に守られても…………今更かな、ここは大きな心で行こう。
「いや別にいいけどさ。村に帰って冒険者になるって言ってくるだけよ」
「うん」
わかってるって感じでミラは短く答えた。頭の回転が早いんだけど、言葉が少なすぎてわかりにくいところがある。まあ、いいや。あたしは街の入り口に向かった。
今日もよく晴れているなぁ。それにしても昨日食べた「ピザ」は美味しかった。ああ、また食べたいなぁ。ああ、思い出すだけで……うわあ、あたしは袖で口元をふく。はしたない、はしたない。
朝に出て、村につくのはお昼くらいかな。あれ? 入り口に赤い髪の男が立っている。ガオだ。何しているんだろ。
「よっ、クソガキども」
ガオがあたしに手を挙げた。ミラは「おはようございます」と頭を下げているけど、あたしは「クソガキ」と言われてそんなことをしたくない。
「おはよ。く、くそ……冒険者」
やばい、なんか言い返してやろうとして全然うまく返せなかった、使い慣れてない言葉が恥ずかしがってしまった。ガオは苦笑してるし。
「やっぱクソガキだわお前」
「うっさいなぁ。あたしはマオって名前があるんだから、ちゃんと呼べ」
あたしは両手を腰にあてて抗議する。ガオは「わかったわかった」って手でまあまあってしてる。その時あたしがガオの腰に吊ってある剣に目が言った。あの黒狼との闘いで折れてしまったお父さんの形見だったはずだ。
柄の先は鞘に納められているけど、もう武器としては使えないはずだ。
「……その剣。ざ、残念だったね」
「あ? ああ、そうだな。まあ、武器なんてもんはいつか壊れるもんだ」
意外とガオは気にしてないように言う。いや、気にしてないはずないや。だってそれならあの時ミラに突っかかってくるはずないんだから。
「まあ、親父の剣はおれちまったからこれからは俺の剣を探すことにするさ。そん時はミラスティア」
「は、はい」
「もう一度立ち会え。今度は最初から全力でな」
「……わ、わかりました。全力でお相手します」
「おーこわ。大の男を吹っ飛ばす筋肉女だからな」
ミラスティアは顔を赤くしてむっとしている。
「ち、違います! 魔力で体を強化すれば誰だってできるもん!!」
「もん?」
あたしは思わず気になった語尾を真似した。何となくだよ。
「え、ちが、いまのもんっていうのは、あの。言い間違えです」
それだけ言ってミラはそっぽを向いた。
「二人は意地悪です!!」
魔王ですから。
「冒険者はそれくらいじゃねぇとやっていけねぇの」
あたしとガオは目を合わせて、ニヤリとしてしまった。
「まあいいや、クソガキとミラスティア。ほらよ」
袋を二つ渡してきた。重い、何これ。
「報酬だよ。中には金貨が入っているからな」
き、金貨!! あたし久々に見る。何百年ぶりだろうか。要するにこれはモンスター退治の山分け分だろう。ミラにはあたしから手渡す。ミラはあんまりうれしそうじゃない。
「もともと用事はそれだけだ、昨日ギルドマスターからだって俺の宿に報酬が届けられたんだ。クソガキも村に帰るだろうから、入り口で待ってただけだ。あーねみ。俺は帰って寝るぜ、じゃあな」
ガオはあっさりそう言って立ち去ろうとする。ただ、一度立ち止まった。
「おい、マオ。冒険者になるっての、頑張れや」
「……うん」
「またな」
それで本当に行ってしまった。またどこかで会えるかな。
☆
村に戻るとおもったよりも簡単にあたしの冒険者になることは許してもらえた。
お父さんとお母さんが反対すると思っていただけに意外だったんだけど……どうやらミラの「剣の勇者」というのが強く働いたのかもしれない。いや、別にミラがあたしを売り込んだとかというよりもお父さんやお母さんが勝手に期待した、みたい。
村長のところにも挨拶に行って、みんなにも挨拶をした。
「任せときなさい。きっと村を豊かにして見せるからさ」
なんて、胸を叩いたりして回ってたら、頭撫でてくるやついるし、パンをくれるし、んん。子供扱いするなぁ。
その日はあたしの家にミラも泊まった。お父さんとお母さんとロダとミラとあたしで他愛のない話をして、普通に過ごしていった。街から持って帰ってきたクッキーはみんなで食べた。
旅たちの準備も何もないよ。あたし何にももってないし。
朝にはいつも通りに起きて日課の鶏の世話をする。
あたしは鶏の囲いの中で箒を動かしながら、コケコケ言っているこいつらもなんかかわいいな、と思ってしまった。気の迷いってやつね
鶏を一羽抱きしめて、ぎゅっとする。
村を出る時にはなんか村人総出で出てこられてあたしは恥ずかしかった。ミラはなんかニコニコしているし、お父さんとお母さんには「行ってきます」は言えたからよかったんだけどさ……お金は殆どお父さんに渡した。学費がって言っていたからちょっとあたしがもらったけど。
☆
「ああー疲れたー」
あたしは山道ではあーと大きなため息をついた。こういうのが村社会っていうのね。肩が凝ってないか心配であたしは自分の左肩を揉んでみるとぷにぷにしてる。
「…………」
ミラは何を思っているのか無言であたしのことを見ている。歩きながら今まで思っていたことを口にして聞いてみた。
「ミラって無口だよね」
「そ、そうかな。でもお父様からあまり無駄話をするのははしたないと教えていただいたからかな……」
「ふーん。ミラって好きなものとかあるの?」
「好きなもの? うーん、あんまり聞かれたことがないけど。読書とか剣の修行は好きだよ」
そっかー。優等生って言葉がほんと似合うなぁ。ミラは風に揺れる銀髪を手で押さえている。それからぽつりぽつりと言う。
「みんな、いい人だね」
「そりゃあね」
異存はないよ。そうだね。あたしが次の言葉を待っているとミラは黙々とついてきている。言葉みじかっ! 突っ込んでやろうかと思ったら、がさごそと近くの茂みが動いた。
弟のロダが出てきた。目をキラキラさせながらあたしに近寄ってくる。
「姉ちゃん。冒険者になるってやっぱすげぇよ! しかも勇者様のお供の!!」
「いや、お供じゃないし」
「俺もいつか冒険者になろうかな!」
キラキラの瞳で話聞いてない弟の頭にチョップして。それからなでなでする。
「じゃ、お姉ちゃん行くからね。お父さんとお母さんをよろしくね。たのむよ」
「うん! いってらっしゃい!!」
あたしはそれだけでつかつか道を急ぐ。
「ね、ねえマオ」
後ろからミラの呼び止める声がする。
「弟君が……」
知ってるよ、どうせ後ろで泣いてんでしょ。
あたしは振り返らないよ。
帰らないわけじゃないんだから。くそ、村のみんなもお父さんもお母さんもロダも全員嘘つきだ。
別にこの村に帰ってこないわけじゃないんだから。寂しそうな顔しているのバレバレで笑うのやめてほしい。
あたしは…………さびしくなんかないよ。みんなもあたしを見習えばいいのに。
☆
「おや、帰ってきていたんですね」
緑の狸に会いにギルドに行くとイオスがニコニコして向かい入れてくれた。タイミングが良すぎるのがすごい怪しい。
「いやいや、偶然ですよ」
あたしは何も言ってないのに勝手に心の中を見透かしたように言うこの狸。美少年で穏やかな顔つきをしているけど、腹の中真っ黒とあたしにはわかる。
ミラがイオスに丁寧にあいさつをする。こんな奴にそこまですることないのに。
「こら、マオ」
「な、なによ」
「ギルドマスターへの礼儀だよ」
礼儀? 何それ、こいつは……ってミラじとーって見てくるのやめてよ。ぐぐぐ、ぐぎぎぎ。
「こんにちは、ギルドマスター」
あたしは頭を下げた。ぐぎぎぎぎ。イオスは穏やかな声で言う。
「うん、よく挨拶できたね。えらいよ」
ぐうぅあうあぁああ!!?? 余りの怒りにあたしは我を忘れそうになった。こいつ絶対あたしが怒るポイントをわざと踏んできてる! その証拠に満足そうな笑顔をしているし。
「それはそうとミラスティアさんとマオさん、学園に行くんだね。馬車を出す日までもう少し待っててほしい。ミラスティアさんは知っていると思うけど、馬車で港町まで行って船に乗るからね。先に港町まで行っても仕方ない」
イオスはそれよりもと続けて。
「マオさんには渡したいものが2つあるから上のギルドマスターの部屋まで来てほしい」
イオスがそういうのであたしは黙って後ろをついていく。いつかぎったんぎたんにしてやるこいつ。
ギルドマスターの部屋に来るのは2回目。一昨日座ったソファの間にあるテーブルには長い木の箱があった。造りはしっかりしてる。
「さあ、かけてくれ」
ソファに座って向かい側に座るようにイオスが手で示す。あたしは黙って座る。
「どうやら嫌われているようだね」
楽しげに言うことかな? それ。
「まあいいだろう、渡したいもののひとつはこれだよ。開けよう」
イオスは木の箱を開ける。
そこには長い筒のようなものが入っていた、何これ? 魔石がはめ込まれている黒い金属の長い棒ということは魔術に使うロッドかな。でもなんか先っぽに穴が開いているみたい。
イオスが手に持つ、持ち手が少し湾曲しているしなんか引っかける場所がある。
「なにそれ」
「これはね。魔銃という新しい武器ですよ」
何それ? あたしは首を傾げた。




