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特訓をしよう!


 うう、なかなか乾かない。調子に乗って水遊びをしてしまったことを後悔したけど……でも楽しかった。ニーナとモニカもどっかで服を乾かしているはず。


 山の麓にあるちょうどよい大きな岩の上で日向ぼっこしながら服を乾くのを待っていると遠くから馬のひづめの音がする。山のふもとから街道を見ると小さな影が2つ走ってくる。


 栗色の大きな馬が走ってくる。跨っているのは長身の男性だった。藍色のコートを着た茶髪のその人はクロコ先生だ! 


 いや! 来るな! 今来てもらったら困るよ!


「ラナ!」

「なによ」

「あれ!」

「誰か来るわね。……って、わっ。なによ」


 あたしはラナの後ろに隠れる。シャツがまだ乾いてないから! おねがいっ。ラナは少し呆れたような顔をしてからわかったって言ってくれた。


 そうこうしているうちにクロコ先生がやってきた。手綱を引いて馬が止める


「いや、お前ら早すぎるだろ……なんでいるんだ?」

「えっと、いろいろありまして」


 ラナが説明に困っている。空をぶっ飛んできたなんてどういえば良いのかわからない。


「あとそっちはなんで隠れてんだ?」


 き、気にしないでね。


「こいつもいろいろとありまして」

「なんだそれ」


 クロコ先生が馬から降りて首をかしげる。できればどっか行ってほしい。


「まあ、いいさ。明日までにということだから今いても何の問題もない。今日の寝床とかは確保したのか?」


 そういってクロコ先生が近づいてきそうになった。う、うう。


 でも近づいてこない。なぜか固まって遠くを見ている。口を開けて驚愕の顔をしている。その視線の先を見ると青い髪の女性が逆にクロコ先生へ走ってくる。リリス先生だ。


「おーい!」

「……な、なんであの災害級の魔物が!?」


 リリス先生を災害級の魔物とか言ってる。でも、そのリリス先生はクロコ先生に抱き着いた。


「クロコにいちゃん~」

「うわ、離れろ、こら」


 そのまま押し倒して体を抱き着く……え? なに。どういうこと? そういう関係なのラナ?


「わ、私に聞かれてもわかんないわよ」


 あたしとラナは目の前で抱き合う大人二人に恥ずかしくなって、でも目を離せない……。リリス先生が手を上げる。その手の先には液体の入ったボトル、


「やっぱ酒を持ってたね」

「お、お前。いきなり現れて、酒を強奪するな。返せ! それ飲みかけだぞ!」

「へへへ。おりゃ」

「げっっ」


 リリス先生はクロコ先生を蹴飛ばした!! ひっど!!! そのままボトルを開けてぐびぐび飲むと空になったボトルをクロコ先生に投げた。


「じゃ!」


 そのまま逃げていく。なんなのあの人。


「てめぇ、待て! 子供のころはまともだっただろうが!!! ていうかなんでいるんだ!」


 それをクロコ先生が追いかけていく……。あ、あわただしいね。


「あんた。あのリリス先生の授業を受けるなんて命知らずね」

「あたしもそう思う」


 ラナに寄りかかりながら頷く。そうしているとまた馬のいななきが聞こえる。見ればまた誰か近づいてくる。今度はフェリックスの生徒のようだった。短く切った赤い髪の彼は馬上から身をひるがえして地に降り立つ……ととのった顔立ちの少年はアルフレートだ。


 そういえば影は2つあった。


 ……あたしはラナの後ろに隠れる。


「遠くから見えたがやはり君か」


 ラナが目で「だれこいつ」って聞いてくるから「別の授業で一緒になった子」と答える。とりあえずどっか行ってほしい。いまは。


「なんで君は隠れているんだ? ……まあいい。マオ、君に言っておくことがある」

「あ、あとじゃだめ?」

「後回しにする意味はない。君とミラスティアさんが模擬戦をすると聞いて、彼女のパーティーに僕も参加させてもらうように頼んだ」


 ……そうなんだ。じゃあ、アルフレートが4人目。


「ウルバン先生の授業の模擬戦では不覚にも君にしてやられたが……今度はそうはいかない。あれは僕の実力ではないことを思い知らせてあげよう。それと……とりあえず前に来たらどうだ?」


 アルフレートが近づいてくる。ラナが手を振った。


「あ、あ。今はこいつダメなのよ。あとで話を聞くわ」

「あの時は妙な制限をつけられた戦いだったからな。今回は全力で戦える。それに怖気ついたか。しかし僕も男だ。やられたままにはならない」

「いや、だから。こいつ今ダメだって」

「そもそも君は誰だ。邪魔だからどきたまえ」


 そういってラナの肩を掴んだアルフレート。


「だめって言ってんでしょ! このあほ!!」

「はひん!」


 ラナの蹴りがアルフレートの横腹に入る。す、すごい情けない声をあげた。そのまま草むらに転がるアルフレート。でもすぐに体制を整えて剣の柄に手をかける。ラナも両手を組んで睨む。


「き、貴様何をするんだ」

「だめって言ってんでしょ。こいつ服が濡れて透けてんのよ!! あとにしなさいよ後に! 変態!」

「なに? へ、へんたい?」


 アルフレートが困惑しながらあたしを見てくる。な、なんか恥ずかしいからラナの後ろに隠れる。肩越しから赤毛の彼を見る。あたしをぼーってアルフレートが見てくる。


「……わいい」


 彼がなんかぼそっと言ったけどよく聞き取れない。……ハッとした顔でアルフレートが立ち上がる。


「い、いいだろう、宣戦布告は終わった。君には後悔してもらう。いいか? あと僕は変態じゃない。間違えるな。行くぞサラマンダー!」


 サラマンダーってのはたぶん馬のこと。アルフレートは馬にまたがって街道を逆走していく。なんで? 混乱してない?


「あんたの周りは大変なのばっかりね」

「それ、ラナも含まれてない?」

「……………」


 痛いっ! 脛を蹴るのはなしだよ!



 服が渇いてみんなで荷物の整理をする。


 とりあえず食料とかの確認をしてそれぞれ武器の手入れとかをする。でも武器はあたしとモニカしか持ってない。ラナは魔導書を開いて、ニーナはそれを見ている。


 クールブロンを布で拭って手入れする。正直綺麗にしても武器としての手入れになっているかはわからないけど……。魔銃なんて誰も持ってないし、どうやって手入れすればいいのかよくわからないから掃除だけしている。


「おっそれが噂のへんてこな武器?」

「リリス先生……?」


 クールブロンを抱いて守る。


「なんで警戒してんの?」

「胸に聞いて!」

「ん? ないじゃん」


 あたしの首から下を見ながらリリス先生が言う。そうじゃないし!


「大丈夫だってみるだけみるだけ」


 しぶしぶクールブロンをリリス先生に見せる。彼女は座ってクールブロンを手で撫でながら引き金を引いたり、レバーを引いたりしている。


「これ、ここに弾を入れて魔石に込めた魔力で撃ちだすって構造だっけ?」

「うん。よくわかるね」

「みたらわかるでしょ? ふーん。じゃあ、弱点が多くあるよね」

 

 みたらわかるかな……? でもリリス先生は真剣な顔でクールブロンを観察する。両手で持って構えてみたりする。


「まず連射ができないよね。いちいち弾を込めて撃ったら籠めなおさないといけない。戦闘中にこれを使うのはスキが大きいでしょ」

「うん」

「それに籠めることのできるものは小さ目ね。これなら強力な魔法を使ったり、弓に魔力を込めた方が威力はあるわね」

「……まあ、それもうん」

「……ふーん。これ連射できて、威力も改善できれば……あ」


 リリス先生が止まった。


「やばいわこれ」

「何が?」

「この武器やばいわ。そうか、これ作ったやつやばい。例えば……あ、やめとこ。口に出したらまずい気もするし。それよりもこの文様は魔法陣を展開させるためのものね」

「き、気になるんだけど」

「魔力を効率よく運用して魔方陣を展開する文様かぁ。これは装飾をした人の技術がすごいね。いや。まてよ……。これ……ま、いいか、今度調べよ」


 リリス先生があたしを無視する。


「これは……展開した魔法陣で周辺の魔力を魔石に吸収することができるかな?」

「ほんと、見ただけでよくわかるね」

「見ればわかるでしょ?」


 そうかなぁ。この人とんでもなく頭がいいのかもしれない。


「でもこんなの使ったら模擬戦じゃ使えないわね。『刃引きの加護』を無効化しちゃうし。あ、いったんこの文様を無効化することがしてあげようか? お金は……」

「お願いします!!」


 モニカ!? 急に出てきて何さ!?


「リリス先生! ぜひお願いします。その武器の特性を無効化してくれるならお金も私払います!」

「ちょ、ちょっモニカ」

「マオ様は黙っていてください。模擬戦……模擬戦だけですから!」

「だめだって」


 リリス先生からクールブロンを取って抱きしめる。


「ど、どうなるかわかんないじゃん」

「マオ様が無茶をするかもしれません! 私の時そうだったじゃないですか!」

「そ、それはそうだけどさぁ」


 わ、わかった。モニカがずいと顔を寄せてくる。じとーって見てくる。うう、やったことが返ってきている気はする



「ごめんって、あんなことはもうしないから。それに模擬戦ではあれは使わないよ!」

「……約束ですよマオ様」

「は、はい」


 リリス先生が「ちっ」って舌打ちしている。絶対お金をむしり取る気だったよ。


「よくわかんないけど。実際ほとんど時間はないんだから、対策を考えないとね」


 ラナが話した。


「さっきのアルフレートが4人目として、後は誰が来るかしら」

「多分さ、わかるよ」

「マオ。心当たりがあるの?」

「うん。ソフィアと前に一緒にいた弓使いの女の子が来ると思う。エルって言われてた人」

「あー」


 ラナは知っているみたいだ。


「あいつも強いわよ。私の同期だけど」

「そうなんだ先輩なんだね。でも強いのは知ってる」

「なにそれ……もしかして戦ったことでもあるの?」

「うん」


 港町で襲撃された。その話をするとラナもモニカもはぁとため息をついてニーナは目をそらした。


「あんたってさ、ほんとイベントごとが多いわね」

「好きで襲撃されているんじゃないよ!」


 まったく……でも、そうだ。実際のところあたしたちとミラのパーティーじゃ、素の力に差がある。アルフレートはともかくとしてほか4人は純粋にあたしたちのそれぞれの力を上回っているところが多い。


 ミラは純粋に強い。それはソフィアも同じだ。キースはニーナを圧倒したし、エル……さん? は遠距離から正確に射撃をしてくる。2度目の戦いで前の戦法が通じるとは思えない。


 だから考えがある。あたしはクールブロンを横に置く。そぉってリリス先生が奪おうとしてくるのを手ではじく。


「みんなに相談があるんだ」


 みんながあたしを見る。あたしは腕を組んでニヤッとする。


「3人のを底上げする方法がある。だからあたしに任せてほしい」


 


 



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