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王都の外


  旅に出る準備をする。


 ラナがベッドの上に必要なものを並べていく。少しの着替えと小さなナイフ、三日分の食料としてカラス麦の詰まった小袋がいくつか、それに調味料とかコップとか歯ブラシとか……いろいろ。


 村から出たときは何にもなかったから荷物はむしろ軽かったけど野宿をするとすればそうはいかないし。


「毛布とか持っていくべきかな」

「そうね、あとこれお古だけどあんたにあげるわ」


 そういうとラナは奥から古い背負う革のバッグを持ってきた、小さ目だけどあたしにはぴったりだった。


「二人で荷物を分配してもいいからあんたは食料とか詰めておいて」


 荷物を詰めていくとすぐに満杯になった。そうか旅をするとこんな感じで荷物って大変なんだ。ラナはあたしより少し大きなバッグに毛布を括り付けている。それから一冊の本を中に入れた。


「それは?」

「魔導書よ。まあ、多少役に立つでしょ。それと水筒と……いつもおもうけど魔法で無限に入れることができれば楽なのにね」

「あー」


 そうだね。そういうのがあれば楽だろうな。……うーん。そういえば魔族の魔法に召喚術というのがある。どこかから異形の何かを連れてくる魔法だけど……あれを応用できないかな。こっちに連れてくるんじゃなくて、こっちから荷物を送って保管したり。


 いや、今はやめておこう。召喚術なんて失敗したら異形の魔物みたいに厄介な存在を呼び出しかねない。それにあたしはあれは使ったことなんてほとんどないしね。以前にヴァイゼンが『シャドウ』を呼んでいるのに驚いたくらいだし。


「よし」


 ラナが荷物をまとめて背負った。あたしも「よし」と何となく言う。クールブロンとそしてもう一丁の魔銃も袋に入れた。結構重いな。


「それじゃあ忘れ物はないわね。ニーナとモニカは王都の門のあたりで待ち合わせにしているからいくわよ」


 外に出る。しばらく家を空けるのは……ほとんど初めてかもしれない。よく考えるとずっとこの家に帰ってきている。正直さ、愛着がある。


 ここでみんなといろんなことを話したり……だいたりなんか食べてたりした気がする。いつも楽しい思い出のある場所……またここでミラとも話したいな。


 ラナがドアを閉めようとする前に少し待ってもらって、誰もいない部屋の中に「いってきます」って何となく言ってみる。


「何やってんの?」

「いいじゃんべつに」


 がちゃんって鍵を閉める。久しぶりの王都の外だ。



「いや、魔族はちょっと」


 馬車に乗せてもらおうと交渉したら全然つかまらない。ミセリアマウンテンは街道を沿っていくってことだった。だからそこに行く商人の馬車に便乗させてもらおうと思ったら、モニカとフェリシアをみると誰も乗せてくれなかった。


 モニカも荷物を背負っているけど、手にはもっと大きなハルバードを鞘に入れて持っている。すごく目立つ。


「うう、すみませんマオ様。私たちはよかったら歩いていきます」

「モニカが悪いんじゃないじゃん。でもみんなケチだよね」


 フェリシアは黙って両手を組んでいる。憮然とした表情なのは明らかに乗り気じゃないみたいだった。


「それにしてもどうする。歩いていける距離かどうかはよくわからないが……。ミセリアマウンテンまで明日には到着しなければいけないのだろう」


 ニーナが地図を手に言った。その地図はクロコ先生がみんなに配ったものだ。街道をどう行けば着くのかが書いている。授業でも言ってたけど冒険者になるんだからこういうのも勉強の一環なんだろう。


 もともと馬車に5人乗せてもらうってのも大変なのかも。商人の馬車は空きスペースが当然少ないから。ばらばらに行かないといけないのかな。


「モニカさんのお姉さんなら魔物を使役できるのですけどね」


 フェリシアが冷笑とともにそういう。お姉さんがいるってそういえばモニカ言ってたな……。いや、たぶんだけどあたしの知り合いなんだろうけど。モニカはそれを聞いてむっとした。


「そうですね。フェリシアはそういう明らかに相手の言われたくないことをあえて口にするのをやめた方がいいと思いますよ」

「はあ……? 何を勘違いしているんですか、私はただ――むぎゅ」


 フェリシアの頭を誰かが抑えた。長身の男性……ウルバン先生だった。


「みんな揃っているね。フェリシアがちゃんと僕に場所を教えないから少し探したよ」

「…………とりあえず頭から手を放してください」

「おっとごめんごめん、フェリちゃん」

「ふぇり……ふぇりちゃん!? や、やめろ!!!」


 フェリシアがウルバン先生に大声で抗議するけど、ウルバン先生は両耳をふさいで耳が遠くなったとかしゃあしゃあと言っている。


「まあ、マオ君たちはここで困るかもしれないと思ってね。知り合いに少し乗り物を頼んでいたんだよ」


 ……ウルバン先生。あたしは思わずお礼を言った。


「ありがとう」

「いやいや、全然お礼には及ばないよ。後悔するかもしれないから」

「こうかい?」


 ……うっ、酒の匂いがする。なんだろういきなりだ。


あたしが振り向くとそこには一人の女性が立っていた、絵に描いたように酒に酔っている感じだった。ふらふらで手に酒瓶を持っている。


 死んだ顔をした青い髪の女性。おなかを出した奇妙な服装。シャツは体のラインを張り付いて、ズボンは深い緑の色にブーツ。片方だけ結った髪……リリス・ガイコ先生! すでに嫌な予感がする。


「ひっく、わたしのぉ、ゴーレムをぶっ壊したマオちゃんこんにちわ」

「こ、こんにちは。あれはし、仕方なかったんだよ」

「仕方なかったぁ?」


 リリス先生が顔を近づけ来る。酒くさ!!


「その仕方ないで私はしゃっきんだけがのこったんですけどすごいへんさいにこまっていて今酒がてばなせないじょうきょうになっているのですがどうすればいいんですか? ねえ? どうすればいいんですか」


 う、うう。怖い。ごめん、たぶんほとんど自業自得だと思う。


「まあまあ、リリス先生。さっき言った通りこの子たちの手助けをしてくれたらちゃんと僕が報酬をお支払いしますよ」

「……いいれしょう」


 呂律が回ってないけど……。あ! でもなんでウルバン先生がお金払うんだ! おかしいよ。っていいかけてウルバン先生が手であたしを制する。


「何にも言わなくていいから。ほら。馬車に乗せてもらえないのは僕の二人の弟子の問題だろう、だったら僕がちゃんとしてあげるのが筋だよ」


 ……ウルバン先生。でも、でもさ、なんでそれでリリス先生連れてくるの……? 絶対面倒なことになるよ……?


 感謝と困惑のないまぜになった気持ちをあたしは初めて味わった気がする。ラナとニーナが近づいてきて。


「おい、大丈夫か?」

「初めて会ったけどあのリリスって先生噂通りに変人ね」


 大丈夫とは全く思わないけど……。


「たぶん僕の息子のクロコから言われていると思うけど、マオ君たちが全員束になってもミラスティア君には敵わないよ」


 ……! あたしは振り返った。


「それでもやらないといけないんだよ」

「そうでしょ。だから明日の昼までに到着するなんて遅いんだよ。先に着いて準備をしておきなさい」

「……そ、そうかもしれないけどでもさ、どうやってつけばいいの?」

「それはね。このリリス先生がちゃんと考えているよ、この子は昔私と一緒に海の向こうに行ったことがあるから、その時に一度だけ使ったことのある者があるんだ。しかし、その時は小さくて天才少女って言われてて、かわいかったんだけどなぁ」

「げっぷ」


 かわいくなくなったよね。昔のことは知らないけど間違いない。


「そこの赤毛の女の子」

「え? 私ですか、ウルバン先生」

「そうそう君はたぶん魔法が得意でしょ。風の魔法は使える?」

「は、はあ。それなりに」

「それじゃあ頼もしい」


 なんだろう。怖い。


 とりあえずあたしたちは王都の門をくぐる。そういえば海から来たから初めてだ、石造りの大きな門。毎日大勢の人が入っては出ていく、今も大きな馬車とすれ違ったりした。


 門を出た。


 広い草原が広がっている。遠くの山が見えた。


 青い空の下、どこまでも世界は広がっているように感じる。少しだけ見とれていると背中をとんと叩かれた。


「マオ様。どうかされましたか?」

「ううん。なんでもないよ」


 みんなは先に行っている。あたしも歩きだそうとしてモニカが言った。


「先に言っておきたいことがあります」

「どうしたの」

「この中でミラさんとわずかでも打ち合えるのはたぶん私です。……ですからマオ様、ミラさんとの模擬戦では私をミラさんとぶつけてください」

「…………それは」


 モニカの力は分かっている。頼りになることもわかる。でも劣勢だったとはいえ仮面の男と戦えたミラとの技量にはきっと大きな差がある。あたしは頷くことができなかった。モニカもそれを感じたのか悔しそうにする。


「モニカ……あのさ」

「……いえ。突然すみませんでした」


 それだけで鞘に入ったハルバードを手にモニカは前に走り出す。ミラと正面から撃ち合うのは多分無理だ。……あたし以外。


 魔力さえ十分にあればミラとの対峙は可能だ。でもそれをどうすればいいのか考えはあるけど何となく嫌だ。……ウルバン先生の言う通りさっさと行ってもっと考えて準備するべきかも。


 丘の上の立った。


 黒いへんてこな置物があった。大きくてまるで羽を広げたような形をした像? 土台があってその上に載っている。なんだろうこれ。


 それを聞こうとしたらリリス先生がぶつぶつぶつぶつぶつぶつぶつ言いながら地面に図形とかよくわからない数式を書いていく。何を書いているのかわからないけどたぶん魔法の公式ではない。あ、いや魔法の紋章も一部描いている。


 真剣そのものの表情はさっきまで酔っぱらっていたとは思えない。ウルバン先生は両手を組んでうんうんとなんか頷いている。


「よし」


 リリス先生が立ち上がった。振り向く。


「ウルバンおじいちゃん。ここでの魔石の支払いはおじいちゃん持ちだからね」

「もちろんリリちゃん」

「よし。あとお小遣いもちょうだい」

「出来次第だねぇ」


 あたしたちは困惑している。急に親し気に話し始めた二人もそうだけど、それよりも何をしようとしているんだろうか。ていうか何をさせられるんだろう。


 この鳥みたいな形をした巨大な像はなんだろう。リリス先生はその像をポンポンと手で叩く。


「これ、鳥型のゴーレム。昔遭難した時に作った」


 鳥型のゴーレム……?!



修行回……修行回をかきます

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