未熟な2人
ミラにすごい怪しまれたから慌てて仮面を外そうとした! フードも取る……前にミラに手を掴まれた、すごい速さだ。うえ。あれ? 空を飛んでいる。
「マオ様!」
「えっ!? マオ!?」
遠くで声が聞こえる。こ、これ空中に投げられた!? どーんって床に叩きつけられて……うん、意外と柔らかい。ベッドの上に投げられたみたいだった。でも少し痛いし、どーんって大きな音もしてしまった。
仮面を取る。
「ちがうちがう。あたしあたし!」
必死に自分をアピールする。不審者じゃない……いや不審者かもしれないけどさ! でもなんか盗もうとかそういうのじゃないよ。ミラはあたしの顔を見てうってうろたえた様子だった。
「ま、マオ? なんでここに。それにそっちは……もしかしてモニカ?」
そりゃあいきなり現れたら驚くし、怪しさいっぱいだったからね。あたしはベッドから降りた。不審者にもけがをさせないようにちゃんと柔らかい場所に落そうとするミラの優しさがなかったらアブなかったかもしれない。
……正直最初の動きが見えなかった。ウルバン先生に言われたようにあたしは相手の重心とかみてなんとなく次の行動が分かるんだけど、ミラの動きについていけなかった。油断していたかなぁ。ううん。そんなこと今はどうでもいいや。
「突然ごめんミラ。どうしても相談しないといけないことがあってさ」
「そう……だん?」
その時どたばたと外から音がした。誰かが走ってくる。
『ミラスティア様! 先ほど大きな音がしましたが!? なにかありましたか?』
その声に一番慌てたのはミラだった。あたしとモニカを交互に見てくる。あわわって口を開けている。あたしたちもどうしようって慌てる。
ミラがあたしとモニカの手を掴んだ。そのままクローゼットの中に押し込む。かけられた服が顔にかかる。ばたーんってクローゼットを閉められる。モニカが「むぎゅっ?」って奇妙な声をだした。
外から声がする。ミラが女の人……たぶんメイドさんと話している。
「そ、そのなんでもありません。お、大きな猫がいたので驚いて」
『猫ですか!? お屋敷の中に……?』
「ど、どこからか迷い込んだんだと思います。窓から逃がしましたからもう、大丈夫です」
『そうですか……』
ゆっくりとドアを閉める音と鍵をかけるおとがした。「ふう」ってミラの安堵のため息。
あたしたちはそっとクローゼットを開ける。するとミラが困ったような顔で言った。
「……とりあえず落ち着いて話をしよ?」
ミラの声はいつも通り優しかった。
☆
あたしたちはベッドに腰かけて、ミラは椅子に座る。
「本当なら何か飲み物とかがあったほうがいいかもしれないけど……。マオ……それにモニカもいきなりどうしたの?」
どうしたのって聞かれてあたしはどう返そうか考えた。さっき言った通りに相談事があるのは間違いない。イオスとのことはミラの意見を聞きたい。でも……その前に聞きたいことがある。最近なんであまり会えなかったのかなって。大した意味がなければそれでいい、でもラナの予想通りなら……
そんなことを考えていると言葉に詰まってしまう。どっちから先に話を始めるべきか考えてしまう。そんなあたしを見かねてか、仮面を外したモニカが言ってくれた。
「……ミラ様にマオ様が会いたいと言われて、失礼ながらこんな形で来ました」
「会いたい……」
ミラが言った。
「ごめんねマオ。最近、ラナとの家に行けてなかったからね」
その時作ったような笑顔をしたことがあたしにはわかった。なんとなく寂しそうな顔。……最初にあたしの故郷で出会ったときのように人に合わせるような顔。それをあたしにした。
むっとした。すごくミラからみたら理不尽かもしれないけど、あたしに気を遣ったのがわかった! それがどうしようもなく嫌だった。
「ミラ」
語気が強くなったのかミラも驚いた顔をする。
「何か隠しているね」
「……そ、そんなことないよ」
ミラはすごく頭がよくて優秀だ。でも心が綺麗だから嘘はすごく苦手だって知っている。じーっと黙ってあたしが見るとミラは黙ったまま目を泳がせている。
「もしかしてあたしの退学しろって言われている話とか?」
それでミラがはっとした。あたしを見て言う。
「知っているの? マオ」
その言い方変だよね。そのままあたしはカマをかけるか迷った……「知っている」と言えばきっとこのままミラは話してくれるかもしれない。でもそれは騙すようで嫌だった。だからはっきり言った。
「いや全然。あたしのことを誰か偉い人がやめさせようとしているってことだけ聞いているんだ」
「………………」
「今日来たのは本当はその話をしたかったわけじゃないけど。ミラも何か知っているの?」
「………………」
ミラは悩んでいるってわかるように苦しそうな表情をした。でも最後にはあたしのことをまっすぐ見た。
「ごめんマオ……それは……それはね。アイスバーグ家からの……圧力……なの」
消え入りそうな声で教えてくれた。剣の勇者の家「アイスバーグ」はミラの一族。つまりラナの予想は的中していたってことだ。ミラにそこまで言われてないけどきっと「お父さん」がやったってところまで当たっているんだろうな。
あたしは両手を組んだ。どう答えればいいだろう。
その前にモニカは「なんでですか?」っと聞いた。ミラが言う。
「…………マオと私が……一緒に居るから」
前に高い建物の上でミラと話をしたことを思い出した。ミラは「お父さん」のことをすごく気にしていること覚えている。そうか、そうだね。
ミラはそのまま続けた。
「マオがみんなとあれだけ頑張って学園に入学したけど……入学式の時のこともあって、マオが……その……ごめん、その……私の……友人として……ふ、ふさわしくない……って」
言葉を紡ぐのがすごくつらそうだった。ミラはそれでも顔を上げた。
「で、でもね。大丈夫だよ。わ、私がお父さんとちゃんと……ちゃんと話をしてそんなことはやめてもらおうって思うから。だから、もう少し待っててほしい」
縋るような表情は許しをあたしに求めているように見えた。その顔をあたしはまっすぐに見るのがつらかった。でもさ、そんなことを言う「お父さん」がそう簡単に話を聞いてくれるわけがないって思う。……前の「私」がそうだったから。
あたしはミラにくっついていることで利益を得ているって言われている。そのために付き合っているってのも聞いたことがある。世間体を気にする人ならきっとあたしのことは今すぐにでも排除したいだろうってわかる。
「ミラ」
びくって体を震わせてミラが反応する。あたしは言った。
「何かさ、交換条件みたいなことを出されてない? あたしに対する圧力をやめる代わりにさ」
「…………」
こんどこそミラは衝撃を受けたように息をのんだ。彼女は言った。
「マオと二度と付き合わないようって」
「……!」
あたしは言いようのない不快さを覚えた。見たこともないミラの「お父さん」に対してすごくいろんなことを言ってやりたいって思った。……もしもミラがあたしを嫌いになって離れていくなら、すごく悲しいけれどそれは仕方ないないことだ。でもそうじゃない。
「だからマオたちの前に行けなかったの。ごめん……こんなこと言うのはすごく嫌で、会わないままで離れていくつもりだった……。中途半端にするとお父さんが何をするかわからない……から」
あたしが何かを言おうとする前に、
「ふざけないでください……」
あたしとミラがはっとするとモニカが肩を震わせながら怒っている。そうわかるくらいに険しい表情をしていた。
「ミラ様……失礼ながらですが……勝手に悩んで勝手にいなくなろうなんてすごく……相手からすればすごく理不尽で……納得ができないものです。私は……逆の立場になって初めてわかりました」
モニカが立ち上がる。ミラが驚いて目を見開く。
「すごく今……自己嫌悪で嫌になっています!」
「え……自己嫌悪? ……モニカ……?」
「そうですよ! 私もつい先日にそんなことをしました! 魔族である私がマオ様と一緒に居たらきっとよくないって勝手に悩んでひどいことをしたんです!! ああーもう!」
モニカは頭を両手で押さえる。
「いろいろいろいろ言っていますけど、ミラ様が一人で勝手に思い込んでいるだけじゃないですか!」
「……! そんなことない」
ミラも立ち上がった。
「私は……私はちゃんと考えて……悩んだ。モニカこそ何もわからないのに……! 決めつけて話さないでよ」
「悩んだって言わないとわからないんですよ! 相手のことを思っているなんて、そんなの、そんなのを言い訳に勝手にいなくなろうなんて逃げているだけです! ……私はそれが全然わかってなかったから……マオ様と直接決闘まがいのことまでしたんですよっ」
モニカ……。ミラは一歩下がりそうになった。だけどモニカを睨むように言う。
「そんなの……決闘なんて意味ないよ……。そもそもマオが私に勝てるわけない。そんなことで話が決まるなら悩んだりしない。みんなに相談して意味のある話じゃないよ」
かちん。
頭のどこかで音が鳴った気がする。ミラの力がすごいっては分かる。でもさ、なんでかすごい頭にきた。
「それどういうことさ!」
口が先に動いた。ミラとモニカとあたしは無言でにらみ合いをする。ミラは言う。
「……言葉の通りだよ。マオがすごいのは分かる。でも、純粋に戦って私に勝つなんてできない。それに……これはそんな話じゃない。モニカと何があったか知らないけど、私だって悩んだの。それなのに……勝手なことばかり言って。私と一緒に居るとマオはきっと良くないことが起こるよ」
……爆発しそうな感情がある。あたしはそれを必死に抑えている。なんでだろうか、ほかの人だったらきっと流すこともできるのに……。落ち着け、落ち着けあたし。ここで本当に冷静さを失ったらだめだ。よし。落ち着いて話をしよう。
ミラはお父さんとのことで板挟みになっているんだ。
だからすごく悩んでいる、だから辛いはずだ。
そうだよ、ミラは出会ってからずっと優しい。あたしはそれを知っている。
「勝手なこと言ってんのはミラじゃん!」
あれ? 勝手に言葉がでる。おかしい。おかしいよ。
ミラはそれを聞いて顔を少し赤くして怒った。
「そんなことはないよ。でも私の家のことをマオ達に相談して何の意味があるの?」
「そんなこと言ってくれなきゃわかんないじゃん!」
「言ったって意味ないよ!」
「言ってくれないと嫌だよ!」
「意味が分からないよ!」
全然思っているはずとは別のことをあたしは叫んでいる。違う、こういうことが言いたいんじゃないはずだ。どう言えば伝わる?
「相談してくれないってさ、自分が優秀だからってあたしを下に見ているんじゃないの」
違う、絶対これが言いたかったわけじゃない。
ミラは肩を震わせている。
「私は、私は好きで人よりもできるわけじゃない……」
ミラの声は小さい、でもはっきりと言った。
「子供のころからみんながやっていることが、当たり前にできるって言われて、褒められても、私の周りでできないって怒られる子がいて……ずっと、ずっと嫌だった。マオまでそんなこと言うの?」
ミラが顔を上げる。
「マオみたいに……『昔のこと』を全部忘れて楽しく生きれるならいいよね」
!
落ち着け。両手に入れた力を緩めるんだ。あたしに突き刺さったその「言葉」に支配されるな。
「ミラなんて嫌いだ」
…………あたしは何を言っているだろう。
ミラもあたしの顔を睨むように険しい表情のまま、あたしたちはにらみ合う。
「話は聞かせてもらいましたよ」
ハッとした。部屋の窓枠に立つ人影、仮面をつけたフェリックスの学生。キリカだった。
「よっと。お二人さんは首尾よく出会えたようですが、いやー人間関係とはむずかしいものですねぇ。きしし」
仮面を外してキリカは笑う。今そういう態度はすごくむかつくからやめてほしい。
「そう睨まないでくださいよ。マオさん。それにミラスティアさんは久しぶりですねぇ」
キリカがミラに言った。知り合いだった? ミラは彼女も睨んだ。
「何をしているんですかチカサナさん」
え? チカサナ?
「きしし、マオさん。モニカさん。すみませんねえ。かわいいかわいい美少女キリカちゃんは仮の姿」
きししと笑いながらその場でくるりと彼女は回転する。そしてポーズを取った。
「その正体はSランク冒険者兼フェリックスの先生を務めるチカサナちゃんでした。きしし。あ、キリカちゃんの名前はモニカちゃんの名前を借りたから似てただけです」
は、はあ? そういえばチカサナって先生の授業を受ける予定になっていた。それにSランク冒険者って……。
「まーまー。いろいろ言いたいこともあるでしょうが、マオさん私の授業を受けるはずでしたね。私の講義ってなんでしたっけ?」
「え? えっと確か、えーと『パーティーの戦い方』だったかな」
「そうそう、ちょーどいいじゃないですかぁ」
キリカ――いやチカサナがにやっと笑う。
「マオさんとミラスティアさんでそれぞれパーティーを組んで、模擬戦やっちゃいましょう! きしし。5対5くらいがちょーどいいですかね」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
「何を待つんですかマオさん。まー喧嘩なんてものは行きつくところまで行ってもらって、そしてさっさと我々に対しマオさんがどーするのかを決めてほしいんですよね。ねえ、ミラスティアさん。マオさんと戦ってみませんか」
ミラが言う。
「……かまいませんよ。マオには負けませんから」
あたしは反射的に言ってしまう。両手を組んでミラと対峙する。
「そううまくいかないよ。あたしが勝つし」
チカサナはそんな姿を見てきししとあの笑いをする。
「いいですねぇ。とりあえず場所と時間は改めて決めましょう。ただし、5人の人選はお任せしますよ。そうですねぇ。私の授業の単位は上げられませんが、学園の中にいる人ならだれを連れてきてもいいですよ、ああ、先生とか連れてこないでくださいね。そりゃあ反則です」
遠くからどたどたと物音がする。
『怪盗モニカニアンが屋敷に入ったぞ!』
『ミラスティア様の部屋だ』
警備の人たちだ。チカサナは「おっと、もう時間がありませんね」と窓に足をかける。
「それじゃあ明日以降楽しみにしてますよ。あ、マオさんとモニカさんは勝手に逃げてくださいね。そんじゃ」
チカサナはそう言って飛び降りる。
「マオ様とにかく逃げましょう。私につかまって下さればチカサナさんと同じように逃げられます」
「う、うん」
逃げるときあたしは一度だけミラを見た。彼女は顔をそむけた。
心が痛いって思った。
「負けないからさ!」
ただ、そうあたしは口にした。
☆
「はぁー」
貴族街を抜けてやっと帰ってきた。つ、疲れた。ここ最近毎日疲れている気がする。そういえばお昼はソフィアとやりあって、ニーナが逃げて、ラナが追いかけていって、バーベキューして、ミラの家に侵入して……い、忙しい。
「早く帰って寝よう」
「……マオ様」
「モニカ……」
そういえばさ、
「ごめんモニカ。こんなことに突き合わせちゃってさ。ミラと喧嘩しちゃった」
「いいえ。私こそ途中で取り乱してしまいました」
モニカはあたし隣で優しく笑う。
「でもマオ様にとってミラ様は特別なんですね」
「……え?」
なんであの喧嘩の後にそんなことを思うんだろう。
「だって、マオ様は私の時はずっと優しかったのに、ミラ様には遠慮なくいろんなことを言っているんですから」
「……言いたかったことなんてないよ。ああ、すごい言ったらだめなことばっかりな気がする。結局ミラも悩んでくれているってわかっているのに、あたしがわからずやだからあんな風になっちゃったんだ」
「……そうかもしれませんけど」
そうかもって言われるとグサッとくる、ま、まあ仕方ないけどさ。
「それでもマオ様はきっとあの人には対等でいて欲しいんだろうなって」
「い、いやそれじゃあ、あたしがミラ以外を対等に見てないみたいじゃんか」
「あ、こういう言い方したらそうなっちゃいますね。そういうつもりで言ったんじゃないです」
モニカがくすりとする。
「難しいですね。言葉ってわかりにくくて」
「それは……わかる」
今日は特に。
モニカはくるりと後ろを向く。
「いえいえ、マオ様は分かっておられません。うらやましいなってわからないと思います」
え? あたしはその意味を聞こうとした。ただその前にモニカは振り向いた。
「でもマオ様。私は怒っています。あの時、ミラ様……ミラさんに言ったことは嘘じゃないです! 本当に戦うなら私もやります!」
「う、うん。頼もしいよ」
「はい。……たぶんあの人もわかっていると思いますよ。だから――」
モニカが言う。
「思いっきりぶちのめしてやりましょう!」
読んでいただきありがとうございます。
この小説はマオの視点で書いているのでミラ・モニカの心理描写がないので彼女たちがどう考えているか想像していただけると嬉しいです。




