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ガルガンティアの確執


 学園の校舎の影、階段で少し休んだ。ニーナはまだ苦しそうにしていたけど、うつむいたまましゃべらない。ラナとあたしはどうしようかと話をしていた。


「それにしてもポーラ先生はあれなことしてきたし、ソフィアは喧嘩売ってくるし……あのなんだけっけ、キースってやつからもいざこざがあって、あんたの周りはほんと退屈しないわね」

「す、好きでそうなっているんじゃないし……」

「わかっているわよ。ああーでもソフィアの奴にやられたのはむかつく、あいつ先輩をなんだと思ってんのよ。いつか模擬戦みたいなことがあったらコテンパンにしてやる……!」


 ラナは元気だ。それでほっとした。


「……すまなかったな」

「ニーナ。大丈夫?」


 やっと声を出したニーナ。でもその表情は辛そうだった。体が痛いというよりも。彼女はよろよろと立ち上がった。


「お前たちの見た通り、私はガルガンティアと言っても落ちこぼれだ」

「……さっきも言ったけどさ、ニーナはそんなことはないよ」

「マオ、お前にはわからない」


 ニーナがあたしを見た。


「私たち『力の勇者』の子孫であるガルガンティアは一族を多く持っている。貴族位を持っている私の家とは別に分家、傍流は多い。ただ聖甲を継承しているのはあくまで本家だった。……父上が倒れるまではな」


 耳につけたピアス。それをニーナは手で触る。


「当然、ミラやソフィアのように私が継がないといけないという時に一族の叔父から異議があった。一族の象徴である聖甲は実力のあるものが所有するべきだと、いや――」


 ニーナは自嘲するように笑った。


「少なくとも才能がある者に継がせるべきと言った」


 つまりはそれ、一族の中で『ニナレイア・フォン・ガルガンティア』が才能がないと言われたってこと……? 


「そして一族の中で若い者を集めて競わせる大会が開かれた。私はその中で……」


 ニーナは頭を抱える。


「誰よりも弱かった……。聖甲を継承するなんて冗談でも言えないほど才能がなかった……」

「……ニーナ」

「もともと冒険者になるなんてどうでもよかった。ここに来たのは故郷に居たくなかったからだ。……その大会ではヴォルグが全員を倒して聖甲を継承した……。あいつは私に言った『弱いやつにこれは渡せない、いつでも取りに来い』と。あいつは私が、私がそんなことできないことを知っているんだ!」


 両肩を掴まれた。ニーナはあたしを見る。


「才能がなくてもどんな困難にもまっすぐ立ち向かえるお前と私は違う!! キースのことも、安い同情はやめてくれ!!」

「同情なんてしてないよ」

「……っ」


 突き飛ばされてラナが受け止めてくれる。ニーナは無言で睨んで、踵を返して走っていく。


「ああ、もう。まだいろいろとあったってことね」

「ラナ」

「とりあえずあんたは家に帰っておきなさいよ。ニーナは私が追いかけてあげるから」

「でも、あたしも」

「あんたねぇ。実は自分はすごいことできますってさっき見せたんだからあいつもいろいろと複雑なのよ。わかる?」

「……」

「ま、心配するんじゃないわよ。早くいかないと見失っちゃうでしょ」


 ラナが走っていく。一度振り返って。


「今日はもう何もトラブル増やすんじゃないわよ」

「……そんなこと言われても」


☆☆


 まっすぐ帰るのはなんだか気が乗らなかった。


 散歩がてらに王都を歩いていく。


『マオちゃーん』


 Fランクの依頼の時に知り合った人が声をかけてくる。あたしはそれに手を振って返したり、なぜか袋に入った野菜をもらってしまったり……。


 わんわん!


 犬が寄ってきてなめてくる。よく散歩した子たちだ。くすぐったいし。かわいい、なでなで。猫もやってくる。


 王都の整った街並みをあるていく。道は馬車が走ってもびくともしない石造り。そういえばたまに村の近くで馬車が泥に車輪を取られている人がいたらみんなで助けに行ったりしたなぁ。


 不意にイオスの話を思い出した。立ち止まって振り返ると大勢の人が行きかう街。ここがもしかしたら魔族との抗争で火の海になっていたかもしれない。そう思うと思わず手に力が入って袋が小さく破けた。


「あ、いけない」


 そう思うと自然とあたしの足はロイとの戦闘の被害を受けた場所へ向かった。復興がほとんど進んでいて広場にはお店も出ている。かんかんと槌の音が遠くからでも聞こえる。街の人達はあたしをみつけるとやっぱり手を振ってくれたり話しかけたりしてくれる。


『今日はあの、なんだ、モニカは来てないのか?』


 そう言ってくれる人もいた。複雑そうな顔をしているけど、それがあたしはうれしかった。戦いの被害を受けた場所でも人間と魔族で分かり合えることもあった……それはモニカが努力してくれたおかげだ、でもそれが広がることがもしできたならって思える。


 ――魔族を殺せ!!」

 ――人間を皆殺しにしろ!!


 ……遠い記憶が蘇った。魔王としてあった時、いろんな憎悪を言葉にしたものを聞いた。その時の光景も思い出せる。人間と魔族はお互いに優しくなれるって今の時代に見た、そして人間と魔族はお互いに残酷になれるって前に見た。


 どっちも見た。どちらが本当の姿なんだろう。両方あったことなのだから。


 どーん!!


 すごい音が鳴った! な、なにさ! 後ろを振り向くと山のような大きな何かが街の入り口にあった。そこには金髪の男が立っている。遠目に見てもわかる。


 ぎらぎらした瞳をした『力の勇者』の子孫である。ヴォルグ・ガルガンティアだ!


「おーい!! お前らこっちにこい!」


 なんだなんだと住民が集まっていく。というかあたしも集まっていく。


 ヴォルグの後ろに大きな猪……? みたいな魔物が横たわっていた。黒焦げになっている。彼はそれを指さした。


「こいつは災害級の魔物でデス・ボアっていうらしいんだがな!!! さっき仕留めた!! お前らバーベキューの用意をしろ!!! 全部俺のおごりだ!!」


 ヴォルグは豪快に笑う。


 大きい。横たわっているのに見上げしまう魔物……というか肉。その後ろからひょっこりと顔を出したはワインレッドの髪の女の子、心底疲れた顔をしているのは魔族の少女。


「ま、マオ様。なんでこんなところに」

「モニカ! そ、それはこっちのセリフだよ」

「こ、これはですね」

「僕から説明しよう」


 わっ!!? いきなり湧いてきた老人……にはあんまり見えない若々しい体をしたウルバン先生がいた。背中には死んだ顔をしてる女の子を背負っている。栗色の髪が毛先には金色になっていく特徴的な髪をしたこれも魔族の少女であるフェリシアだ。


「しねぇ……にんげん……しねぇ」


 うわごとのようにつぶやいている。死ねって言うか死にそうなフェリシア。……あれ、フェリシアはフェリックス学園の制服を着ている。


「最近の魔族はだらしないねぇ。マオ君も一緒に来てくれたら楽しかったのにね」

「う、ウルバン先生何をしたんですか」

「なーに。弟子であるモニカ君とフェリシア君の修業をどうしようかと思ってヴォルグ君がその辺を歩いていたから相談したらさ、じゃあ災害級の魔物を狩ろうぜって! ってことになって近くの山まで走っていってきたんだ」


 そんなノリで……? ん? モニカがあたしの制服をくいくいと引っ張ってくる。


「近くないです。遠いところまで走っていってきました。魔力で身体強化をしてウルバン先生とヴォルグさんについていくのがやっとでした。ヴォルグさんはこれを担いで走ってて、この人たち怖いです」


疲れた顔をモニカがしている。魔族の身体能力は普通人間よりも優れている。それなのに全然元気そうなウルバン先生とヴォルグと死にかけているフェリシアに疲れた顔のモニカ。


「ははは、若い時は苦労を買ってでもしろって言うからね。まあ、魔物はヴォルグ君が一撃で仕留めちゃって結局マラソン大会になっちゃったけどね。これじゃあまだ修行不足だからね、特にフェリシア君は体力がない」

「……ほざけ……ばけもの。下ろせ」


 フェリシア君……あ! うつっちゃった。背からおりたフェリシアは恨みを込めた目でウルバン先生とヴォルグを見た。


「そもそも私は魔族の自治政府に圧力をかけたウルバンのせいで仕方なくここにいるだけで、弟子になった覚えはありません」


 足が震えている……生まれたての小鹿みたい。ちょっと内股なの面白い。


「わ、笑うな人間!」


 ぐぅってフェリシアのおなかが鳴った。


「あああああああ」


 恥ずかしそうに顔を赤らめてその場でうずくまる。ごめん、かわいいって思ってしまった。


 街の人たちが魔族であるフェリシアを見てモニカの友達かと聞いてくるのでどう答えてあげればいいのかな。モニカを見ると「ふん、いい薬です」って言っているから、よくわからない。ウルバンはあたしに言ってくる。


「今度はマオ君も一緒に行こうね」


 ううん! 絶対ヤダ! ふるふるふるって顔を左右に振る。


「なんでもいいけどよぉ、はらへったからなんかこう、いろいろ焼くもんとか持って来いよ」


 ヴォルグは両手を組んで不満げだった。



 街ぐるみでバーベキューが始まった。それぞれ持ち寄った野菜とか調味料とかで巨大な魔物の肉を切り取っては焼く。焼く場所はみんなの家の中とか、炎の魔法が使える人は外で焼いてくれてたりする。大人たちが魔物の毛と皮を取って、肉を切り取る。正直最初からヴォルグの技でちょっと火が通っている。


 あたしとモニカも手伝った。モニカは大きな包丁でだんだーんって骨も切る。そのまま皿に置いたり、焼きやすいように串に刺したり。フェリシアは帰ろうしてウルバン先生につかまれている。


 だからあたしはお皿にタレのいっぱいかかった山盛りお肉をもらった! 食べやすいようにきってある。タレはなんだろ少し甘辛い感じ。街の人がかけてくれたみたいだ。


 2人で借りたフォークでもぐもぐ食べるとおいしい。


「おいしいですねマオ様。今日はおなかがへっていましたから」

「うん」


 広場はそんな感じでみんなで食事になった。ウルバン先生がフェリシアにお肉の皿を渡すふりをしてフェリシアが取れないように皿を動かしている。「くそ人間!」とか言いながら肉を取ろうとしているフェリシアが叫んでいるのは見ないふりをした。


「そういえばマオ様。ラナ様とニーナ様はどうされたのですか?」

「ああ、それはさ」


 モニカにさっきあったことを話す。


「そんなことが……うう、マオ様は少し目を離すと……」

「いやそれなんか最近いつも言っているような……あ」

「マオ様」


 モニカの顔を見る。


「な、なんでしょうか」

「モニカに頼みがあるんだけどさ。ニーナの」

「食ってるかガキども」


 いきなり頭を掴まれてワシワシされる、痛ってぇ! ヴォルグだ。片手にあたしの3倍は山盛りの肉が積まれた皿を持っている。


「痛いって」

「撫でたらうれしいもんじゃねぇのか?」

「なんの話してんの!?」

「気難しい奴だな」


 いきなり来て、無茶苦茶なことを言う。その時ふとヴォルグの両手、つまり聖甲に目が行った。あたし取っては忌々しいものでもあるけど、それよりもさっきのニーナの話が思い出された。


「あのさ、ヴォルグ……えっとさん」

「呼び捨てにしろめんどくさい」

「じゃあヴォルグ。あのさニーナ……ニナレイアとあたしは友達なんだけどさ」


 ヴォルグがあたしを見た。驚いた……というかなんというか獣に見つめられているみたいな表情から感情が読み取れない。だけどはじけるように彼は笑った。


「そうか! お前ニナレイアの友達か!! そーかそーか。くえくえ!! おおい、このガキに肉を持ってこい!!!」


 数秒後にあたしの皿にはお肉が積み増しされていた。ヴォルグは上機嫌だ。


「そーかそーか、あいつにも友達ね。いいじゃねぇか。あいつ暗かったもんな。それでニナレイア……お前の言うニーナってのはあいつのことだろ。どこいるんだ!」

「きょ、今日は一緒じゃないよ」

「なんだよ、連れて来いよ。あいつ少しは強くなったのか!?」


 その瞬間ニーナの悲しい顔が思い浮かんだ。……反対に明るい表情のヴォルグに対してあたしは少しだけ感情的になった。


「あのさ、ニーナの家から聖甲を奪ったって本当?」

「あ?」


 モニカがおろおろし始める。ヴォルグはあたしを見る。


「なんだそりゃニーナから聞いたのか?」

「そうだよ」

「そうか。そうだよ。俺はガルガンティアの連中を全員ぶちのめしてこのガラクタを預かってんだよ」


 ガラクタ? 聖甲が? 


「これよぉ、蒸れるんだよ。確かに武器としては優秀だけどよぉ。これで敵を倒すとさすがは聖甲の継承者はすげぇとか言われるんだぜ!? 理不尽と思わねぇか? 強いのは俺だっての!! アリーのあほボケにも言われてキれたことがあるんだぜ俺は」


ヴォルグはすさまじい速さで肉を食べる。口を動かす。


「そもそも俺はこんなものいらねぇんだよ。それなのにめんどくさいことによ、ガルガンティア内部でいろいろとごたごたごたごた言いやがってよぉ。ニーナからこいつを奪おうとしたから、分家連中を全員ぶっ倒してとりあえず預かってんだよ。ああ、できればうっぱらって酒に換えてぇ……」


 あたしは、早口でしゃべるヴォルグの話を聞きながら混乱した。


「で、でもさ! ニーナに対して弱い奴には渡せないって」

「そりゃあお前、弱い奴がこれを持っても奪われるだけだろ。はっきり言ってやったぜ。わかりやすくな。いつでも俺をぶっ倒せるくらい強くなって取りに来いってな。そうすりゃあ返したってほかの奴らにとられることなんてないだろ」


 …………今わかった!!! こいつ!!!! 言っていることがそのまんまなんだ!!!!


 ニーナが完全に挑発として受け取っている言葉はこいつにとってそのままの言葉なんだ。裏表というか、なんの裏もない。深読みするだけ無駄だ!!


「ふ、ふーん、で、でもさ、ニーナは完全に勘違いしていると思うよ」

「勘違い? 何言ってんだお前」

「ヴォルグがニーナに言ったことは弱いからどうせできないだろって感じにさ」

「そんときゃそん時だな」


 ヴォルグは言った。


「もしその程度の覚悟ならこいつは俺がずっと持って墓までもっていってやるよ。死んだ後も渡さねぇ、アリーあたりに海に捨てろって言って死ぬ。弱いままならニナレイアにはこんなもんない方がいい」


 もぐもぐと食べている。あたしはそれを聞いて思った。ヴォルグという人物はシンプルな人間だ。だからこそそこには純粋な厳しさがある。言っていることに裏がないからこそニーナに変な甘さを見せることはないだろう。


「それでもニーナはヴォルグを倒せるよ」

「あ?」

「あたしとニーナはさ、あんたを一緒に倒すって約束をしているからさ」

「…………お前が?」

「そうだよ。だって聖甲なんてインチキなんだからさ!」


 あたしはびしっと指を突き付ける。片手に肉山盛りの皿持っているから結構むずい。


「覚悟しておくといいよ!」

「…………」


 ヴォルグは肉を食べながらあたしを見る。じっと見てきて言った。


「お前いくつだ」

「え? 今聞くの? 15だけど」

「そうか。あと5歳くらい上だったら抱いてやるのにな」

「…………はあああ?」


 な、なに言ってんだこいつ!


「顔はまあいいし、性格は気に入った。とりあえずはいいか」

「何が!??」

「でも、ガキだからなぁ」

「なんの話をしている!?」

「なに赤くなってんだ? ……あ? お前、もしかして男を知らな――」


 だまれ!! なんかこいつをそのままにしているととんでもないことを言い出しそうだ!! ああああ、そ、そういうのはまだ早いから! 魔王だった時も今と歳は変わらなかったし……そそーいうことはないです!! アリーさんの気持ちが分かった気がする!!!


「と、とにかくお、覚えておいてよ」

「ああ、ニナレイアにも言っとけよ、いつでもやってやるってな。何年も時間がかかったらお前も覚悟しとけよ」


 何の覚悟だ!!!!! あたしは叫びそうになった。はあはあ。だめだ。こいつといると調子が狂う。……ただ一つ聞きたいことがあった。


「でも今日はなんでいきなりここに来たのさ」

「なんでもくそもねぇだろ、ここの街は俺と魔族の戦いで崩れたんだからなんかしてやろうと思ってたんだよ。ちょうどその魔族のガキが話をしてたからな。災害級の魔物を倒せば報奨金も出るからそれも使うんだよ」


 それを聞いて今日何度目かわからないけどわかった。こいつは……裏表がないんだ。




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