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3勇者の子孫は悩みが多く


 あの夜の職人街においてマオという少女の力を見ると聞かされた。


 ソフィアは戦闘に参加する気はなかった。魔族の自治組織から連れてきたという女と『仮面の男』がマオとそしてその同行者を襲撃するという。ソフィアは率直に言って「マオ」という少女は死ぬだろうと思っていた。


 彼女の役割はこの職人街に人が寄り付かないようするということ。


 広い範囲であるが彼女は月の下、職人街が見渡せる塔の上に立ち聖杖オルクスティアを握る。


 赤い魔石をはめた杖。かつて『忌々しい知の勇者』が使っていたといわれる伝説の神造兵器のひとつ。それは地面に立てれば彼女の背を超える。


 ソフィアの体から魔力が迸り、魔方陣が形成される。高く掲げられたオルクスティアの魔石が輝き、魔力の粒子が空をゆるやかに覆っていく。聖杖は雷撃を操る聖剣とは違い、持ち主の魔法を数倍に強化する。そしてその強化自体に魔力は不要だった。


 この街に入るという行為を意図的に鈍らせる。『チャーム』(魅了) の応用とでもいうべき魔法を街全体にかける。それを事も無げに彼女は行った。


 はめ込まれた赤い魔石には無尽蔵と言える魔力が内包されている。人知の遠く及ばない力を操るソフィアは無表情に立ち尽くした。彼女の麗しい髪が夜風に揺れる。フェリクスの制服のペリースが風になびく。


「ふん」


 哀れにも始末されるであろうマオにはそれ以外の言葉を使う気がなかった。同行者が魔族の少女とそして自らと同じ勇者の末裔であるミラスティアだったとしても運命が変わるとは思っていなかった。


――


 衝撃を受けた。


 ソフィアは塔の上から戦いの一部始終を見ていた。ただの村娘である「マオ」が操る魔法。


 異常なほどの手練れを模した水人形。「魔法」というものを必死に学び続け他人を寄せ付けなかったソフィアが見ればそれが如何に異様でそして洗練されたものかわかった。


 身を焦がすような嫉妬に胸を掴んだ。殺意に似た敵意を抱いた。彼女は自分があの村娘よりも劣っている可能性を冷静に告げる自らの聡明さを狂おしいほど憎んだ。


 少ない魔力を効果的に利用するということについては『船』でも見せられた。竜からの攻撃を防げたのはマオがいたからだと彼女にはわかっている。しかし、明確に優劣をつけられるわけではないと彼女の感情が心の中で納得をさせなかった。


 だからこそフェリックス学園の中庭でマオに勝負を挑んだ。『アクア・クリエイション』なる魔法を再現し、ただの村娘と信じたい彼女と戦いそしてソフィアの中では決定的に敗北を味わった。


 勝負自体は魔鉱石の魔力が切れたことでマオの水人形が先に自壊した。周囲の人間はそれでソフィアが勝ったと思ったようだった。


 周りの評価など関係なくただただ純粋に自らが劣っているという現実を正しく認識してしまう自分とそしてそれを認めたくない感情の歪みが涙になって流れた。もしマオが聖杖を使用すれば自らよりも使いこなす可能性があると思えば眠ることすらできないほどの屈辱感を味わった。


 ――そして中庭での対決の数日後に意外な人物から声をかけられた。少し未来の話だった。


 フェリックス学園での相対したその人物はソフィアに言った。ソフィアからすればその人物は好意的に見るところもありつつ、気に食わないところも多い……そんな評価だった。しかしまっすぐに見てくるその人物の口からある言葉が発せられた。


「マオと全力で戦う……だから力を貸してほしいのソフィア」

「…………あなたがそんなことを言うなんて思いませんでしたわ」


 しかし、どうでもよかった。復讐の機会には変わりなかったからだ。


 ソフィアは妖艶に微笑んだ。


「いいでしょう。あなたのことは別に嫌いではありませんわ」


☆☆



 すごい揺らされているぅ。


 ニーナがあたしの肩を掴んでゆすってくる。なんで力の勇者の水人形を使って、ガルガンティアの武術が使えるかって言われても……正直に話すことはできない。魔王だからなんて口が裂けても言えないし!


「こ、この前ヴぉ、ヴォルグのことを見たんだよぉ。そ、それで真似して」

「なんだと!? ヴォルグと魔族との戦いで見ただけでお前は……!?」


 Sランク冒険者のヴォルグ・ガルガンティアのことは実際に見たことがある。だからそれを真似したって嘘をついたんだ。 それでニーナは手を止めてあたしをじっと見てくる。一度視線を下げてわなわなとその肩が震える。


「……見ただけで? あの動きを」

「……」


 ニーナはあたしを見ることなく言う。……なんだかそれだけで軽率に力の勇者の動きを使ったことを悔やんだ。確かにあたしがあれだけのことをするのはおかしいって言うのは分かる。


「私も聞きたいですね」


 声のした方を見る。銀髪に片方の耳にピアスをした男が立っていた、褐色の肌と整った顔立ちで背も高い。たしか……キースっていうガルガンティアの分家の男だった。彼は両手を後ろで組んだまま近寄ってくる。


 周りの生徒たちはあたしたちの様子をただ見ている。


「マオさん……でしたね。貴方が使った魔法といっていいのか、あれはガルガンティアの秘儀と言っていい物でした。ヴォルグ師兄の動きを見ただけでトレースするというのは修行中の身としてもにわかに信じられません」

「キース……!」


 ニーナが見た。その時気がついた。キースを見る目に敵意が籠っていることに。


「ニナレイア様。お久しぶりですね。貴方が私を避けているようだったのであえて近づきませんでしたが……」

「お前たちと仲良くする気はない……!」

「困った人だ。本家には貴女しか後継者がいませんから、一族を率いるのであれば度量を……」

「お前たちが何をしたのか忘れたのか!?」


 ニーナが叫んだ。あたりが静まり返る。キースは逆に目を閉じて表情を動かさない。


「一族の象徴である『聖甲』を継承するというのは力のあるものであるべきということ、それを我々のまあ、分家とでもいえば良いでしょうが正当に要求をしたということを言っているのですか」

「そうだ! 父上が病気になってから、よってたかってそんな」

「人ごとみたいに言うな」


 キースの目が鋭くなる。


「あなたの御父上がご体調が悪いことは一族には不利益になる。だからこそ力のあるものにと言われたのです。そもそも――」


 キースは目を閉じた。


「あなたが弱いのが悪い」

「……っ貴様」


 ニーナが構えた。彼女の手に炎が宿る。だ、駄目だよニーナ。こんな場所でさ。……あ、あたしが言うのもなんだけどさ! 


 キースはその場で手を前に出してくいっと掌を返す。魔力すら纏わない。


「……いわゆる模擬試合とでも言いましょうか。少なくとも私程度倒せなければあなたの言葉など無駄でしかありません」


 ニーナが地面を蹴った。彼女は一直線に炎の矢のように突撃する。キースは左手に炎を纏う。ニーナの一撃をその左手で、払った。いとも簡単に。


「なっ」


 ニーナが体勢を崩す。そこにキースの蹴りが腹部に直撃する。芝生の上をニーナが転がる。一瞬のことだった。


「ニーナ!」

「ちょ、ちょっと大丈夫!?」


 あたしとラナが駆け寄るとニーナはおなかを抑えてげほげほと咳き込んでいる。そこにキースが歩いてくる。勝ち誇るというよりあきれた顔だった。周りの生徒は見世物を見ているかのように歓声を上げている。うるさい。黙っててほしい。


「ニナレイア様。これが現実です。貴女は酷く弱い。ヴォルグ師兄が『聖甲』を所有したということに異議を唱える力も資格もないということです」


 ニーナが涙を浮かべてキースを睨みつけるがげほげほとまた咳き込んだ。言葉で返す余裕もない。あたしはキースを睨む。


「ニーナは弱くなんてないよ」

「……マオさん、貴女は目の前で起こっていたことを見ていたでしょう? 御友人をかばうのは麗しい行為かもしれませんが、現実を否定しても彼女のためにはなりませんよ」

「…………それじゃあニーナがキースに勝ったら良いんだよね。そうすればニーナが弱くないって認めるよね」

「……そうですね。その通りですが。くく」


 キースが笑う


「流石に訳の分からないことを言われると笑ってしまいました。次回彼女が私に勝てれば認めましょう。入学式で全校生徒に大きな口を叩いた方のことはある。……ああ、そうか。ニナレイア様にもあなたぐらいの胆力があればまだましだったかもしれません」


 ニーナがラナの肩を借りてたちあがる。おなかを抑えていた。


「お前……何を言っているんだ」

「ニーナがこいつに負けたのはガルガンティアだからだよ」

「なんだ……と」

「ガルガンティアがガルガンティアの武術を知っているから予測できる。それでクリスとも戦えたニーナが負けたんだ。だからニーナが弱いんじゃない」

「めちゃくちゃ……言うな」

「わかっている。でも、なんかニーナがバカにされているの嫌いだ!」

 

 あたしはびしっとキースを指さす。


「そもそもヴォルグも倒すってニーナとあたしは約束しているんだからさ!」


 その言葉でキースは目をぱちくりとさせてふっと笑う。


「独特の人ですね……いいでしょう。いつでもお相手しましょう。とにかく今日は無理でしょうから、また後日。その時にマオさんがなぜガルガンティアの武術を使えるかまたお聞きしましょう」


 それだけ言うとキースは去っていく。その背中にあたしは舌を出した。



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