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世界の真実?


 わぁ。おかしがいっぱいだ。


 ここがどこかよくわからないけど、色とりどりのクッキーがいっぱいある。ケーキも!


 水音がする。あたしが振り向くとそこには蜂蜜のあまーい匂いのする川だ! ああ、すごい、すごいや! お父さんはいいことをした人は死んだ後に天国とかいうところにいくといってたけどさ、ここがそうなんじゃないかな……し、死んでないよね?


 ま、まあいいや。うーんこのチョコがかかったクッキーをいただきまーす


 げしっ


 がたん


 ばた


 突然体が落下した。いてて、窓から漏れる月明りでほのかに手元が照らされる。体を起こして目をごしごしするとベッドから落ちていた。いや、誰かに突き落とされたんだ。


 ベッドの上では狭そうに寝ているニーナとモニカがいる。ど、どっちがが犯人のはずだけど、モニカは「えへへ」とか寝言を言いながら寝ているし、ニーナは整った寝息を立てている。


 せっかく! いい夢見てたのに! なんかいたずらしてやろうかな!


 ……やめとこ、今日はいろいろあったし。でもさっきまであたしが寝ていたベッドの位置にニーナが寝返りを打って占領されている。犯人はニーナ……いやいや、深く考えない考えない。


 ベッドは2つある。あたしとラナのもの。ラナは一人で寝るけど、そこにはいなかった。


 どこにいるのかなと思って、なんとなく寝室を出た。


 ほのかな明かりがともっている。食卓の上に浮かぶ赤い炎。そこでラナが一人、本を読んでいた。


「やっぱりあんたか」

「やっぱりってなにさ」

「どすんばたんって音がしたからどうせあんただって思ったの」

「あ、あたしのせいじゃないし」


 たたき落されたんだよ! ラナはくすりとしてぱたんと本を閉じる。宙に浮かぶ炎はたぶんラナの魔法だ。彼女が指を動かすと一緒にそれは動く。


「ラナって器用だよね」

「あんたに言われると嫌味に聞こえる」

「ええ?」

「あんたの魔法の構築力や使い方は……いや調子に乗るから褒めるのはやめとこ」


 ほめてくれてもいいじゃん……。


 ラナは立ち上がって言う。


「そろそろ寝ようと思っていたけど、あんたも起きてきたし少し散歩しない?」

「散歩? べつにいいけど」

「ならきまり、寒いかもしれないから上着くらい着ていきなさいよ……。あ、そういえばさ、あんたに気になっていたことがあるんだけど」

「なに?」

「いやいつも制服ばかり着ているじゃない。寝巻はてきとうに私の古着を貸しているけど、私服を今度買いにいくってどうよ」

「お金ない」

「出世払いで貸したげるわよ」


 ラナはにやっとした。


「もちろん金利付きね」



 制服の上着を羽織って出かける。合わせてくれたのかラナも同じ格好だった。夜道を2人で散歩する。でも女の子2人って危ないかもっておもったけど、襲われそうになったらラナがたぶんその人を燃やす。逆の方向に怖くなってきた。何もありませんように。


「散歩なんて言ったのは方便なんだけど」


 ラナが歩きながら言う。


「今日なんかあったの?」

「…………」


 言っていいものだろうか。すべてを話すとモニカの知られたくない過去のことも話すことになりそう。少し考えているとラナはつづけた。


「帰ってきてからなんかモニカの雰囲気が変わったような気がするのよね」


 鋭いな……。ラナは細かいことに気がつく。


「えらい」

「は?」

「あ! いや何でもない」


 思ったことをそのまま言っちゃった! あわてて両手で口を押える。ラナは「あ?」って言いながら威嚇してくるけど。すぐにまじめな顔で言った。


「言いにくいことなの?」


 そうだね。どうだろう。大切なことだと思う。でも、勝手に言っていいのかな。


「ま、いいわ。あーあ、話し声が聞こえないようにわざわざ外に出た意味がないじゃない」

「ごめん」

「べつにいいわよ。……それにまだ言いたいことがあったしね」


 ラナは立ち止まった。


「あんたさ、学園の誰かに退学の勧告を受けたって言ってたでしょ?」

「うん」

「フェリックスは冒険者の養成所という面が大きいけど、場合によっては魔法を極めるためだとか貴族の修業のためだとかいろんな人が集まるわ。だからしがらみがあるけど、それでも基本的に自由な場所よ」


 自由なのはそうだね。教えてもらう先生も自分で選ぶ。……よく考えたらこの学校って自分で何もしなかったら本当に何もないかもしれない。


「多少の破天荒さは普通のことよ。あんたがいくらFランクの依頼を受けてトップになろうと文句言われる筋合いはないわ。でも、文句言われている」


 遠くから、話をしている気がする。ラナは何か言いたいことを隠している気がした。


「ラナ。はっきり言っていいよ」

「……人の思考を読むんじゃないわよ。……先に言っておくけどこれは単なる想像でしかないし、その証拠とかはもちろんないわ。……ねえ、最近さ、ミラスティアを見ないと思わない?」

「……そうだね」


 あたしの親友。銀髪の剣の勇者の子孫。ミラの姿を見ていない。あたしは立ち止まった。少し心配そうにラナが振り返る。


「あいつの親。勇者の家系の今の家長はあの子にすごく期待しているって聞いたことがあるわ。だからあの子に近づこうとするやつを裏でいろいろやってるって噂もあるわ」


 いつかの夜に屋根の上でミラと話をした。お父さんのことをあまり話したがらなかった気がする。


「ミラのお父さんがあたしを遠ざけようとしているかもってこと?」

「……そうよ。ああ、でもほんとこれは妄想だから。証拠なんてないわよ? 勝手に思っているだけ。単にどっかの誰かがあんたのことを気に食わないって思っているだけかもしれないし」


 そうだね。わからない。


「でもさ、ミラとは会いたいなって思っていたから」

「本人に聞くってこと?」

「……聞いていい物なのかよくわからないけど……どうすればいいのかな」


 そう言いとラナは両手を組んで少し考えて、ふっと笑った。


「とりあえずあんたの服を買いに行くのにあいつも誘おうか。あとは流れよ」

「流れ」


 少し笑っちゃった。


「言いたくないことは言わないでいいし、会えばなんかわかるでしょ。私の考えがただの思い込みだってなればそれでもいいしね」

「そうだね」

「そうだねって言われると腹立つわ」


 ラナはあたしの頭を両手で掴んでぎゅうってしてくる。いたた。


「それじゃあ私の用事は終わったし、そろそろ帰ろうか。眠たいしね」

「うん」


 その時だった。


 冷たい殺気のようなものを感じた。はっと夜道を振り返る。


 少年がいた。いや、ちがう。あいつは少年ってわけじゃない。


 グリーンの髪が月明りに照らされている。黒い半そでシャツを着て、姿勢よく立っていた。


「やあ、マオさん」


 イオスだ。彼はあたしににこりと微笑んでいる。あたしはラナの手をつかんだ。


「ラナ。いつでも魔力をあたしに分けられる用意をして」

「何よあいつ」

「よくわかんないよ。あたしの故郷の近くの街でギルドマスターをやってて、そしてこの前に襲ってきた仮面の男と多分関係している」

「……あんたとミラスティア達が戦ったっていう?」


 それだけでラナは構えてくれる。ただイオスは両手を上げた。


「待ってくれマオさん。今日は物騒なことをしたいわけじゃない。話がしたいんだよ。君とさ」

「あたしも話をしたかった。フェリシアたちをけしかけたこともさ」

「もちろん話そう。マオさん。それにわかっていると思うけど、ここで戦ってもいいことはないよ」


 そう、さっき一度だけ感じた殺気は威嚇だ。おそらくイオスのものじゃない。この闇のどこかに仮面の男かもしくは別の何かが潜んでいるのかもしれない。話し合いをしたいというよりはイオスは話をせざるを得ない場所を作ったんだ。


 ラナを守りながら仮面の男と戦うのは無理だ。ミラがいてやっとわずかに太刀打ちできたんだから。


 イオスは笑った。


「マオさん。君はこの世界の真実を見る気はないかい?」


 

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