ちいさなピタとおにーちゃん・2
むずかしい漢字はすくなくしてあります。
雪ゾリが、ワタシとおにーちゃんをのせてすーっ、とすべる。
ふわふわ雪も、がりがり雪も、ちっともかまわずすーっ、とすべる。
「おっ!? ……ありゃ……やっぱりダメかぁ……」
おにーちゃんがソリをとめて、さくさく雪をふみしめ木のねっこに近づいて、ちょんちょんさわって、ため息ついた。
おにーちゃんは【しかけワナ】をつかって、ウサギやイタチ、シカやイノシシをとったりするけれど、今日はウサギやイタチをつかまえるワナを見てまわってる。
ホントのこと言うと、ワタシはワナが好きじゃない。だって、ウサギやイタチがバタバタあばれてかわいそうだし、つかまえたのを【シメる】のは怖くて好きじゃない……。
だから、ワナを見てまわる時に、おにーちゃんがワタシをつれて行く時は、とれててほしい気持ち半分こで、いなくてほしい気持ちも半分こ……。でも、ワナが空っぽの時は、おにーちゃんが悲しそうだから、とってもふくざつかな……。
「……ん? こりゃ、ウサギのフンだな……まだ新しいや……」
おにーちゃんが木のわきにおちてるツブツブをながめながら、何かぶつぶつ言っている。ウサギ、いたんだ……でも、ワナはないよ?
「そっか……あの巣穴から出てきてフンして、今はどっかに行ってる訳だな……」
そう言ってから、おにーちゃんは雪ゾリにもどってくると、うしろでモゾモゾと何かをとりだしてワタシにみせた。
「……んーと、ワラで作ったおなべのフタ?」
「違うって! ……こうみえても、コイツは立派な【狩りの道具】なんだぜ!」
とりだした【おなべのフタ】を頭のうえでパタパタふりまわしながら、おにーちゃんはそういうけれど……どうつかうのかな?
「……よし、ピタ……じっとして、あたま低くしてろよ……」
そう言うとおにーちゃんはワタシをのこして、ウサギの住みかに向かって歩いていって、中に何かを入れてから、もどってきた。
それから、ふたりで住みかの前で、じっとして動かないでいると……
(……うおっ!? 来たぜ……!!)
おにーちゃんがゆびさす先に、真っ白なウサギがぴょんぴょんはねながらやって来た!! でも……どうやって取るつもりなんだろ……?
(……ピタ、静かにしてろよ……!!)
ちいさな声でおにーちゃんがそう言うと、手にもった【おなべのフタ】をひゅん、っていきおい良くなげた!! それはクルクルまわりながらウサギに向かって飛んでくと、気付いたウサギは一目散に駆け出して、その巣穴へすぽん! ってにげこんじゃった。
せっかく見つけたのに、巣穴に入っちゃったらつかまえられない……と思ってたら、おにーちゃんはぜんぜんあわててない。
ざくざくと雪をふみしめながら、巣穴に近づくと……ずぼっと手をつっこんで、いきなりウサギをつかみ出しちゃった!!
「ふわあああああッ!! おにーちゃん、すごいッ!!」
「にっひひ……奥に逃げ込めないよーにフタしといたんだよ!!」
うれしそうにウサギをつかみながら、ワタシにむかって教えてくれた。あーやって丸いのを投げてタカが来たみたいにおどかすと、ウサギは巣穴ににげちゃうけれど、巣穴を浅くするフタをしておくと、かんたんにつかまえられるんだって!!
「こーして捕ると、毛皮に傷が付かないから、高く売れるんだぜ〜♪」
そういいながら、ウサギをシメて動かなくしてから、ナイフで足元から毛皮をはいで、あっという間にお肉と毛皮にしちゃった。それからおにーちゃんはウサギのシンゾーを枝に刺すと、近くの木にさげてから手をあわせておいのりした。
「おにーちゃん、いったい何をおいのりしたのかな?」
「……ん? また、ウサギが捕れますよーにって、山の神様にあげたんだ」
猟師のおじさんにならったんだって。他にも山がふぶいたら止むようにおねがいするのとか、ケガした人を置いていってもオバケにならないようにするおまじないとか……いろいろあるんだって。
「さ、ピタ帰ろ〜ぜ!! 今夜はウサギでお鍋作ろう!!」
「おにーちゃんはせっかちだからワタシが作ったほーが、おいしくできるんじゃないかな?」
おにーちゃんにおひめさま抱っこされてソリに乗って、二人でおウチに帰りました。
かえりみち、どっかの山からワオーン、ってヤマイヌがないたけど、おにーちゃんが居たからこわくなかったよ? もしかしたら山の神様かもしれないね。
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「……ねえ、おにーちゃん」
「……ん? なんだよピタ……」
だんろの前にしきふをしいて、雪ソリをのせておにーちゃんが手入れしてる。ワタシはおにーちゃんのせなかをながめながら、きいてみる。
「もしも……ようせいの王さまに会ったら、何をおねがいする?」
「……そーだなぁ……俺が会ったら……まず、願いを三つに増やして貰うな!」
ワタシはそれをきいてズルッとイスからおちる振りした。だってそんなのズルいじゃん!!
「そんでさ、先ずは【大きな熊を射てる弓矢】を貰うんだ!!」
ゆみをひきしぼるマネをしながら、おにーちゃんは柱にかざってある【クマのあたま】をねらって射つフリをする。おにーちゃんの【おとうさん】がたおしたクマだって、おかーさんがいってた。
おにーちゃんはクマはたおせない、っていってた。クマの毛皮はとってもぶあつくて、おにーちゃんのもってるナイフじゃ、きゅうしょに入らないんだって。
だから、里のりょうしさんは、イヌをけしかけておいつめて、立ち上がったときをねらって、ヤリで突くって話してた。それもひとりじゃあぶないから、何人もいっしょになって、何日もおいかけて、狩るみたい。
「それから、ピタの足を治してもらうんだ!」
「そ、それはすごくうれしいかなっ!?」
いきなりワタシのことをいわれて、おもわずイスからおっこちそうになりながら、何とかそれだけいえたけど……ズルいよ、おにーちゃん……。
「それで、最後のお願いは……みんなで一緒に暮らせるようにしてもらうな!」
あっ、そーか。おかーさんもいっしょに、みんなでくらせるように、ずーっと、くらせるように……かなぁ。
ワタシは、ずーっと前におかーさんにつれられて来て、それから、おにーちゃんといっしょにくらしてる。
それまでは、【ニンゲン】といっしょにいて、《おめかけさん》になるようにって、そだてられていた。《おめかけさん》って、なにするヒトか、良くしらないけど。
で、ある日、おかーさんがやって来て、お金を出したら《おめかけさん》にならなくてよくなって、おかーさんといっしょになった。
だから、おかーさんは……【お母さん】じゃないの。おかーさんなんだ……でも大好きだよ!? だって……おにーちゃんの、おかーさんなんだもん!!
だから、ワタシもがんばって、おかーさんよりすごい【やくし】さんになりたいな! だから、いっぱいベンキョーしてるんだもん!!
前回よりも専業的な描写を心がけています。気軽なキャンプ体験とは掛け離れたマタギの技術の一つに、今回紹介した狩猟の技が有ります。ウサギを捕る為に鷹を模したフリスビー状の藁を投げて、その羽ばたき音を再現しながら追い詰めるそうです。いずれ滅ぶであろう、そんな技術を残しておきたくて、ピタシリーズに散りばめておきます。詳しくお知りになりたい方はメールにてご連絡下さいませ。
ピタ→背丈は小さいがしっかり者のコボルト女子。ほぼ人間と変わらぬ容姿のお陰で幼い頃からニンゲンに育てられたが、末は売られる運命だったのをおかーさんに引き取られて事なきを得る。
おにーちゃん→両親ともに純血コボルト。




