ボクは……女の子になったみたいです
* *
いつの間にか、崩れる音が聞こえなくなっていて、 また、静になっていた。
身体を起こし、横を見ると地図みたいなものの前に机に鉄製のダガーナイフがあった。……こんなのあったっけ?
綺麗に研いだ刃に映る自分を見た。
長く銀色の髪に、透明感のある肌理細かい白い肌、青い瞳。絶世の美少女って感じの顔をした女の子が、刃の鏡の中にいる。
手を上に上げてみたら映っている女の子も手を上に上げてたのでこれは完全に僕なのだろうけど、ボクは純系日本人ですよ。小柄で女顔ではあったけど男だったはず。
つまり、生まれ変わったポイ。
ちょっと股間の辺りが心もとない感じはするけど、それくらいなので気にしないことにした。と言うか今まで気にしてなかった。
あ、胸の違和感は全然ないです。見たところ貧乳だから。
あと、ボクは全裸だった。全裸だからこそ自分が女の子だと認識……視認かな? できたわけだ。誰も見てないし、合ってないから、裸でも別に良いけど……
そういえば、ここに入る時に着物みたいな物を見た気がする。それ着よ。
……うーん。ポンチョだよね。なんか、ぶかぶか。いや、使ったことないからよく知らないんだけど……
……まぁ、これ一つで足首まで隠れるからいいかな。
よし、ここを出よう。さすがにお腹が空いた。ボクは約一日くらいいたこの部屋に軽くお辞儀をした。
ナイフと服、お借りさせていただきます。と言って、この部屋を去った。
* *
「……はて?膨大な精霊魔力反応があったので、挨拶替わりにととりあえず“霊撃”を射って見ましたが、今の一発で反応が消えたのは拍子抜けですねぇ〜。首だけでも残っているといいのですが……この様子だとなさそうですね……」
あからさまにがっかりしている様子のその者の前には……大きなクレーターができていた。
地面は赤くなっていて、未だにアツアツであることを示している。
この場所は元々、山があり川も流れていたところだった。それが今やスーパーフラットの如く平を通り越して、大きなクレーターになっていた。
岩などが飛んで来てないのかって?
そんなもの“全部蒸発”してるに決まってるじゃ無いですかぁ〜やだぁ〜♪
「まぁ、無いもの強請りしても仕方ないですね。帰る途中にでも龍種族でも狩ってお姉さまのお土産にでもしましょうか」
とさらっと凄まじいことを言って、腰辺りに翼の生えた天使のような者は、音を置き去りにする程の速さでその場から去って行った。
* *
部屋の外に出ると鍾乳洞や洞窟の岩などが崩れ落ちていたが通れない程では無い。ボクは前世と変わらない小さい身体を駆使して、岩の間をスイスイと抜けて行った。
しばらく進むと、崩れた天井から光が射していた。天井が崩れたときに偶然、地上と繋がったのだろう。ボクは迷わずそこに向かって登った。そして、その先には…………。
「……なにこれ……」
地獄が広がっていた。
そこは、つい、口にしてしまうほど酷いところだった。
空は血を連想させる赤で染まり、大地は緑がほとんど無く、ゴツゴツした岩肌で覆われ、見渡す限りずっと続いている。生物がいる様子は無く、植物もこの辺りに生えている様子は無い。木の実でもあればお腹も膨れるのに……
うん?あっちの方から血っぽい匂いと甘い匂いがする。あれ?ボクってこんなに鼻よかったっけ?
とりあえず、血の匂いがするってことは、ヤバイってことだよね。あと、変な気配がする。せっかく洞窟を出てからの情報収入源だ。その人のでも聞いてみよ。人じゃなかったら美味しくいただきますか。
ボクは迷わずそこに向かって足を一歩踏み出した。
「ふぁっ」
自分でもびっくりするほど可愛い声が出たが、それよりも走るスピードが尋常じゃなく早いことにびっくりした。びっくりして転けそうになったが、体勢を立て直してそのまま走り続けた。
「あはは!」
声が漏れてしまってさらにびっくりしたが、ボクはこの疾走感を楽しんだ。