女神ナンチャラ
最近は、レイミはもうユーナの存在に慣れてきていた。
目覚まし時計もないこの世界でいぎたなく寝続けるユーナの部屋に勝手に入って叩き起こすのが、レイミの朝の日課となりつつある。
「どうしてこの女は部屋に入らせるのに、私はいけないのですか……!」
「男だからね」
「私が女になればいいというのですか!?」
「早まらないでドラ子ちゃん!!!」
剣を抜いて早まりかけたドラ子をユーナが寝癖を爆発させた頭で止めている。
朝から元気な二人だと思いながら、レイミは次の仕事に移る。
最近、客が戻ってきてくれた上に、ヘイディが出奔してしまったから、レイミの仕事は膨大だった。
部屋は六室、寝台は六つ。
宿屋としては泊められる客が少ないほうだ。
けれど一部屋に四つも六つも小さな寝台を詰めて安い値段で客を泊めると、客層が悪くなる。
せっかく貧民街とは大通りを隔てていて立地がいいので、レイミは安全さを売りに、宿泊料を上げていた。
「あっ、母さん、上の掃除は終わった?」
「ええ、終わったわ。次は食堂の掃除をしてくるわね」
「うん。それじゃわたしは父さんを手伝ってくるわ」
二階にある三つの部屋のうちの二室が埋まっている。
ルルの花亭をひいきしてくれている常連の商人と冒険者だった。
レイミが回復したという話を聞いて、戻ってきてくれたのだ。
彼らはドラ子が冒険者ギルドではなくこちらに泊まっていることに驚いていたけれど、悪印象はい抱いていないらしくレイミとしては胸を撫で下ろしている。
残る空室は大部屋で、冒険者がパーティ単位で使う事が多い。
寝台は他の部屋より大きいが、六人も寝られるほどの大きさではないけれど。
「父さん! 大丈夫? 馬に蹴られて転んでない?」
「大丈夫だよレイミ。心配ない」
「あっそう。水が少なくなってきているわね? 汲んでくるわ」
「おや、ありがとう」
厩の掃除をしている父を手伝うために、レイミは水桶を手に取り井戸へ向かった。
この宿には専用の井戸もある。素晴らしい宿屋の条件の一つだ。
井戸で水を汲むのは重労働だった。
片足を失ってしまったアウリには任せられない、けれど義足があれば? と自然とアウリとの将来を考えている自分に気づき、レイミは一人静かに顔を赤くした。
「レイミさん? どうしたの、重いなら私がやろうか?」
レイミが固まっていると、身繕いのためにやってきたらしいユーナが笑顔でロープを手に取った。
そして、レイミが止める間もなく軽々と水の入った重い釣瓶を引いていく。
まるで重さを感じていないらしい。
それなのに、妙に平和そうな顔をしている人だった。
だからこそ、レイミはまだ半分くらい信じていない。
ユーナがアウリのために科学者ギルドを強襲さえしてくれるなんてこと、本当にあるのだろうか?
「……力は強いですよね、ユーナさんて」
「そうだね。自分でもびっくりだよ~」
ユーナは暢気そうに笑う。この笑顔がくせ者だとレイミは思う。
まるですごそうな人間には見えないのだ。
そうして相手を油断させ、隙を見せた相手に噛みつくスタイルなのかと思えば、わざとやっているわけでもないらしい。
けれど油断させられる側の人間からしてみれば、たまったものではないだろう。
「この水、どうするの? 運ぶよ」
「いいわよ。ユーナさんはさっさと顔を洗ったら? 口によだれのあとがあるわよ」
「えっマジで!?」
慌てて次の水を軽々とくみ始めたユーナを置いて、レイミは水桶を持って厩へ戻った。
その時扉のベルが鳴った。来客の合図だ。
レイミは簡単に身だしなみを整えてから向かった。
客は一人。泊まりに来たという様子ではなかった。宿の前に馬車を止め、手ぶらだった。
「いらっしゃいませ。朝食を食べに来られた……ということではないですよね?」
「こちらは宿だと聞いていましたが、食事だけでもよいのでしょうか? でしたら今度お伺いさせていただくと致します」
「――冒険者ギルド?」
馬車に取り付けられた紋章から、その紳士が冒険者ギルドの人間だとレイミは気づいた。
「はい。冒険者ギルドの副ギルド長、マティアスと申します。ドラコ様、ユーナ様はいらっしゃいますでしょうか?」
「あ、はい! ――こちらへどうぞ!」
普通の女性にしか見えないのに、こういう一般人なら縁もないような人間が会いにくるようなところが、ユーナの性格の悪いところだと、レイミはなんとはなしに怒りを感じずにはいられなかった。
三人は馬車に乗り込んだ。
この世界で目覚めたその日に馬車に轢かれかけたことを思うとユーナとしては感慨深い。
それにしても、ユーナを迎えにきた副ギルド長だという人は、物腰の穏やかな老紳士だった。
科学者ギルドの副ギルド長のペテルも初見は穏やかそうな男性に見えたので、ユーナとしては油断できない。
けれど、その穏やかさが作り物であろうとも、その作りが壊れなければそれでいいのである。
いい関係が築けるようにと願いながら、とりあえずユーナは向かい側に座るマティアスに小さく頭を下げた。
あまり深々頭を下げると馬車の揺れでマティアスに突っ込んでしまいそうだった。
「今日はわざわざ、副ギルド長にご足労いただいて、ありがとうございます」
「いえいえ、突然お邪魔してしまいまして、誠に申し訳ございません。この老僕はただのメッセンジャーでございましたので、お二方のご都合のいい時間をお聞きして、改めてお伺いさせていただく予定ではあったのですが――」
「こちらこそ! あの、今すぐでもいいのなら行くからと、いきなり押しかけるようになってしまいまして。えっと、難しければ全然、時間を改めるんですけれどね!?」
「いいえ。できるだけ早くお二人をお招きするようにと、ギルド長から言われてもおりましたので、こちらとしても好都合でございます」
丁寧に、そして優しく説明されて、ユーナは思わず胸を撫で下ろす。
丁重なことこの上なかった。今のところ、冒険者ギルドとの関係は順調のようである。
「馬車まで出していただいて、本当にありがとうございます……」
「お二人は我がギルドにとって重要な方であらせられますからね」
「私はともかく、うちのドラ子はAランクの冒険者? というやつみたいですからね」
「はい。毎年お立ち寄りいただいて、定期的にこの辺りに常駐する冒険者では手に負えないようなモンスターを駆除してくださるドラコ様のおかげで、非常に助かっております」
「よかったね、ドラ子! 役に立ててるみたいだよ!」
「ただ路銀を稼いでいただけなのですがね」
「もー!」
ドラ子の淡々とした口ぶりに、マティアスは穏やかに微笑んでいる。
オスモといい、ドラ子のこういう淡泊な態度には慣れっこになっているようだ。
「そういえば、これからお会いする冒険者ギルドの偉い人って、あのいつもカウンターにいる男の子なんですよね?」
「不眠症の青年といった出で立ちの方で間違いございません」
「ギルド長って、その、どういう経緯でなるものなんですか?」
「当ギルドのギルド長については、親のコネ、でしょうね」
「あ、そうなんですか……」
「ですが捨てたものでもございません。仕事の引き継ぎが上手くいっていますし、業務についての理解も当初から十分ございましたので、軋轢などはあまりないのですよ」
「へええ、そうなんですねえ」
「商業、科学者ギルドのギルド長であらせられるヤッコブ様は、確かギルド南支部長の肝いりでこちらにいらっしゃったはずです。親のコネでもあり、貴族のコネでもあり……」
ユーナが聞きたかったことを見抜いてマティアスはやんわりと教えてくれた。
「現場でギルド員としての経験を長く積み、業績をあげた方がギルド長になることもございます。各ギルドの長の半分はたたき上げの方々でございます」
「もう半分はコネ……」
「悪いばかりではないのですがね」
マティアスがそう言うのは、自分の勤めるギルドの長がそうだからなのではないだろうか。
庇っているのか、あるいは本当にそうなのか?
ユーナから見て、オスモは少なくともまともだった。
ドラ子が所属している組織でもあるし、是非とも実りある関係を築いていきたいものである。
「そういえば、オスモさんは?」
「お二人をお迎えする準備をさせていただいておりますよ」
尊重されている、ような気がする。
ドラ子がいるからなのだろうが、ドラ子がいるのに扱いが雑だった科学者ギルドの百倍は、間違いなくマシである。
ユーナと喧嘩するということは、すなわちドラ子と喧嘩するということだ。
そしてドラ子と仲違いすると、科学者ギルドと違い冒険者ギルドは不利益を被ることになる。
オスモが関わっているのなら、ドラ子がユーナのこととなると沸点が急激に下がるのをそれなりに知っているはずだし、きっとそう悪い事態にはならないはずだ。
きっと科学者ギルドの時のように、いきなり娼婦扱いはされないだろうと思われる。
ユーナを娼婦扱いした男の娘だから喜んで殺す、というような誰も幸せにならない展開は常に未然に防がれ続けなければならない。
お互いをよく知ると、色々誤解が解けたりもするのかもしれないのだから。
「到着いたしました」
馬車から降りるとマティアスに案内される。
ユーナたちは廊下の奥に案内され、中庭を通り抜けると、奥にあった建物の中へと案内された。
ギルド会館と違い、そちらは生活感のあるこぢんまりとした雰囲気だった。
中庭からは隠れる角度に洗濯物が干してあった。誰かがここに暮らしているようである。
「ギルド長、入ります」
グリフィンらしき形のノッカーで扉をノックすると、マティアスは声をかけて扉を開いた。鍵はかかっていない。
ユーナたちは促されるまま中に入った。
マティアスは廊下を左に折れて、すぐの場所にある部屋に入った。
本が山と積まれた、これまた乱雑に乱れた生活感を感じさせる、書斎のような場所だった。
几帳面な人間が見たら頭をかきむしりたくなりそうだった。
ユーナはここで暮らしているらしき人物とは同族なので、特に問題はない。
レイミは爆発するだろう。ユーナの散らかした部屋を見て何度か小爆発を起こしているので。
マティアスはレイミタイプのようだった。
彼は顔をしかめ、大きな鼻の頭に皺を寄せながら言った。
「ギルド長、お二方が到着したのですから、手を止めてくださいませ」
「すみませんドラコ様、ユーナさん……これだけサインさせてください!」
「ああ、どうぞ」
ユーナが許すと書類の山の合間からギルド長の青年は笑顔を見せて、羽ペンを走らせた。
言葉通りそのサインを済ませると、彼は積み重ねられた山を崩さないよう、慎重に出てきて、ユーナの前に立ち自己紹介をした。
「僕はグルトです。ウッズの町の冒険者ギルドのギルド長をやらせていただいています。どうぞよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
人なつこい笑みを浮かべ、彼はユーナの手を握ってぶんぶんと振った。
若干力が強いし距離が近いし、パーソナルスペースを確保したくてユーナは腰が引けた。
すると、ドラ子が捕獲されたユーナの手を彼から取り戻してくれた。
「おっと、すみません。いつまでも手を握っているだなんて、淑女に対して失礼でしたね!」
「ああ失礼だ。今後二度とユーナに触るなよ」
「それはともかく、ドラコ様もおはようございます。本日はいいお話をいただけると聞いて、昨晩は眠れなかったんですよ」
「お前はほとんど毎日寝ていないだろう」
「あはは冗談ですよ、冗談」
軽く笑いながら、グルトはユーナとドラ子の間をすり抜けて歩いていく。
ユーナは慌てて彼のあとを追う。すると、これまた極めつけの生活感を感じさせる小汚い台所に案内された。
「どうぞそのあたりに座ってください。今お茶を入れますからね」
「ギルド長! 私がやりますから……!」
「そう? ありがとうオスモ!」
見かけなかったと思ったら、エプロン姿のオスモがやってきて、手ずからお茶を入れだした。
彼も給仕をやるような身分ではないはずだが、この建物の中にはお手伝いさんといった存在はいないらしい。
「僕は本当に嬉しくてたまらないんだよ。長年解決できずに放っておいた頭の痛いAランク依頼案件が今年こそ片付くっていう話なんだから!」
「いやあの……片付くかどうかはわからないんだけれども」
とにかく難しい内容だというのはユーナも理解している。だからこそ、失敗する可能性だってあるだろう。
どうにも無理だと思ったら、ユーナは普通に逃げるつもりだ。ユーナがそう決めたらドラ子もミニフレよろしくついてくるだろう。
グルトはお茶を入れながらニコニコと笑った。
「ドラコ様が本気になれば、間違いなく片付く案件ですよ。以前、エイシェントロストを封印するのは手伝っていただくことができましたが、討伐はできないと突っぱねられてしまって以来、当ギルドの人員ではどうしようもないとお手上げだったんです」
「封印?」
「はい。心をなくした彼は狂乱し、手当たり次第に暴れ回っていたんです。それを止めるために、今は西の山の岩場に封印しているのです」
「へえ。そんなことができるんだ。封印って、魔法的なものなんですか?」
「ええと、そうではなく、岩の間から幻覚剤の蒸気を定期的に送り込んで、いい夢を見続けさせているだけですよ」
リアルでガチすぎる封印だった。
ファンタジーなイメージを抱いてしまったユーナはちょっと引いた。
「細心の注意を払って催眠にかけ、彼が失った現実こそが夢で、夢こそが現実だと感じさせることで、穏やかに眠らせ続けているんです……ですが、これは問題の先送りにしかなりません」
「眠っているところをブスッといくのは?」
「普通の人間が出せる火力じゃ一発で殺せないんですよねえ。そして一度起きてしまったら、もう二度と同じ夢では騙せないですし」
次に目覚めさせた時には、確実に倒さなくてはならないという。
「そこで、ミニフレンドの――いやええと、長命種の方の助けを借りたいのですが、彼らは金でも名誉でも動いていただけないので、困っていたんです」
「ドラ子、この依頼の達成については問題はないの?」
「特には、ありません」
「それじゃ、ドラ子がこの依頼を達成すると約束すれば、私たちを助けていただくことができるんですよね?」
「はい、可能です。――しかもユーナさんは今すぐにでも弟子君を助けたいと思っているんですよね?」
「その通りです、ギルド長」
「だったらクリアすべき問題は一つです」
グルトは指を一本立てて、明快に言った。
「僕たちも、今すぐAランクの依頼を達成しろとは言いません。ですが、報酬の先払いとなりますので、この依頼に取り組むという確約が欲しいのです」
「それは、約束だけして私たちが依頼を放り出して逃げるかもしれない、と思ってるってことなんですか?」
疑われるのは不愉快だった。
何を根拠にそんなことを言っているのだろう?
ユーナだって、確かに恐いとは思っているが、出会い頭にそこまで無責任だと思われるのは心外だし、傷つく。
「……いえ、ユーナさん。実はですね、ドラコ様は以前にも何回か、依頼を放り出していらっしゃるんですよね」
「あれれ?」
「暴れ回るエイシェントロストを止めてほしいと、再三依頼して、受けると言いながらも旅立たれて、翌年また依頼をして、を繰り返すこと何回目かで、ようやっとドラコ様にエイシェントロスト封印のお手伝いをしていただくことができたわけです」
「あらら……それは不安にもなりますね」
「申し訳ありません。ユーナさんを疑っているわけではないんですよ」
前例のあるドラ子を疑っているだけだった。
「なら、契約書とかを作成したらどうだろう?」
「うーんと、そういったものは人間社会ではとても効力を発揮するのですが、長命種の方にとっては文字の書かれた紙以上の意味を持たないことが多いのですよね……」
「ええっ、契約も破るの……?」
「ユーナ、どうしてそんな目で見るのですか」
ドラ子はきょとんとしている。
ユーナは【就業規定 残業なし(ただし残業はないことになっているだけで存在はするが会社はその存在を認知しない)】、みたいな雇用契約書を心の底から憎んでいる。
ドラ子にも契約書にまつわる苦い思い出があるのかもしれないので、この問題はひとまずユーナの中で不問となった。
「何も手がないわけではありません。というわけでドラコ様にお願いがあります」
「……私に? なんだ?」
「唯一の主人の名に誓って必ず依頼を達成すると、どうかお約束いただきたい」
グルトの出した条件に、ドラ子は判断を仰ぐようにユーナを見た。
それをどう解釈したのか、グルトは説明を付け加えた。
「ユーナさん、ご存じかどうかわかりませんが、ドラコ様のような長命種の方々は心にただ一人と定めた主人が存在しているんですよ」
「あ、はい」
「その主人の名前にかけて誓った誓約を、長命種の方が破ることはありません」
「ほーん」
つまりプレイヤーの帰還を願うミニフレンドたちに、プレイヤーの名に誓って約束を果たすと言わせれば、約束を破られる心配はないというのだ。
相手が人間なら信用ならない口約束だが、ミニフレンド相手なら効果は抜群ということなのだろう。
だからこそなのか、なぜかドラ子は急激に不機嫌になった。
グルトを睨みつけて威嚇の構えだ。
「――だからこそ簡単に口にできる誓いではないと、お前ならばわかっているはずだが?」
「え、なんでドラ子ちゃんそんなおこなの? 私の名前に誓えばいいだけなのに」
「あっ」
「えっ?」
ドラ子が虚を突かれた顔をしてユーナの顔を見て固まる。
ユーナはわけがわからず小首を傾げた。
何拍か置いてから、グルトもこてんと首を捻った。
「うん?」
マティアスは顎に触れながらふむふむと唸った。
「おや――これは聞かなかったことにした方がよいようですね」
「私は何も聞いていない私は何も聞いていない」
オスモは耳を押さえて小声で囁いている。
この期に及んでユーナはまだ気づいていなかった。
「えーとそれじゃあ……問題のユーナさんの弟子君については、以前から冒険者ギルドに所属していて、しかもドラコ様に誘われてパーティに入っていたことにするね」
グルトの軽い提案にユーナはその真価がわからず首を傾げた。
「え? ええと」
「勿論事実じゃないよ、捏造なんだけれど、そういうことにすると都合がいいんですよ。つまり、春に実施するAランク討伐依頼を受けたパーティの一員だったことにしときましょう」
ユーナが、Aランク討伐依頼を受けたパーティの一員だということで、身元不詳な人間だというのに町にいられるのと同じ原理のようだった。
「そうして、弟子君を誘拐しこの依頼の達成を阻んで己の利益を追求する科学者ギルドを糾弾します」
「糾弾、するとどうなります?」
「国際法違反だから、全面的に科学者ギルドが悪いってことになって、冒険者が科学者ギルドを襲っても国に怒られません!」
「すごい! ……でもいきなりどうしてそこまでしてくれるんですか?」
ギルド長だから、捏造自体はすぐできるのだろう。
けれど、できるだけやりたくない手段のはずである。
まだドラ子は何にも誓っていないのに、とぽけっとした顔をしているユーナを見て、グルトは心底おかしそうに笑った。
「あなたとは長い付き合いになりそうですね、ユーナさん」
「そうなります?」
「……ユーナ。全く貴女はなんてことを」
「えっ? 何、ドラ子? 言いがかり?」
「もういいです――貴女は私が守りますから」
ドラ子が深い溜息を吐いている。
普段、ユーナは様々な場面で見せるドラ子のミニフレ的な姿に溜息を堪えてあげているのに、ドラ子はあからさまだ。
内心憤慨していると、グルトが目配せでマティアスとオスモを部屋から追い出した。
彼らが部屋から出て、扉が閉まると、グルトはくすくすと笑いながら言う。
「ユーナさんが女神の旅人なら、そりゃ身分証は持っていないはずですよね。僕がとっておきをご用意させていただきますから、ついでにユーナさんも冒険者ギルドに入っちゃいましょうね。十年前から入ってることにしてあげますから。これで不審者じゃなくなりますよ」
「なんで女神ナンチャラバレてるの????!!???!!」
「ユーナが自分でバラしたんですよ」
ドラ子は天を仰いだ。ユーナに呆れているようである。
それでも愛想を尽かさないのがミニフレのいいところだ。
「――ユーナのための、そのとっておきとやら。すぐに用意できるのか?」
「依頼の際に、西の山に行くでしょう? その時ついでにもらえるように手配しておきますね」
「……ならばいい。くれぐれもユーナの不利益になるような真似は控えろ」
「かしこまりましたよ、ドラコ様。それにしても、ドラコ様のくせにバカ丁寧な対応をされているなあとは思ったんですよ。でも、まさか本当にそうだとは思わなかったなあ」
「私のくせにとはどういう意味だ」
「そのまんまの意味ですよ。ユーナさん、ミニフレンドって本当に自分の主人以外には冷たいんですからね!」
「黙れ! ユーナに妙なことを吹き込むな!」
秘密にしておくはずだったことがなぜか漏れていてユーナとしては戸惑いを隠せない。ドラ子がバラしたのだろうか? という理不尽な疑いも抱きつつ。
事は思っていた以上にいい方向へ転がってくれているようだったので、ユーナは現状で満足することにした。
ナンチャラが引くと噂の夏風邪を引きましたので明日は恐らく更新ありません。寝ます。




