武器選び
ユーナは何度かフィールドには出たことがある。
その時の経験から、もしも自分自身がモンスターと対峙する時には絶対に必要なものがいくつかあると感じていた。
ドラ子と共に、ユーナはまず買い物に出ていた。
買うにあたってまたもやドラ子の貯蓄を削ったことにユーナは大変気まずい思いをしながらも、アウリと再会できた暁には資金を無心しようと心に決めた。
やりくりをしつつ、まずはなんとか、防具一そろいを中古で揃えた。
最後に武器選びだ。防具から揃えたのは勿論、痛い思いをしたくないし、死にたくもないからだ。
アウリのレベリングをしていた時、モンスターに攻撃されていたような気はしつつも、装備なしで痛い思いをした覚えはユーナにはないのだが。
念には念を入れつつ、最後に回した武器選びに、ユーナはとても苦労していた。
武器は大体、等級で値段と棚がわけられていた。
最高級品は買えないが、最低限の頑丈さが保証されている程度の武器ならば、ドラ子から最後の一滴までも搾り取ればなくもない。
問題はどれを選ぶかだった。
武器らしい武器なんて、ユーナは包丁ぐらいしか手にしたことがない。
「いらっしゃい……ドラコ様じゃありませんか! あんたのような方が、どうしてうちのような安物を扱っている店に?」
特に普段ドラ子がいきつけているような店ではなくとも、店主も店員もドラ子の存在を知っている。
おかげで店員の態度が軟化してくれてありがたい。
「私ではなくこちらの方の買い物だ。――しかし、安物をユーナに持たせるのもな」
「いやいや、他の店も覗いてみたけど、この辺りの価格がちょうどよさそうだよ」
買うのがユーナだとわかると、店主のおじさんは値踏みするようにユーナを見すえた。
そして怪しむように言った。
「あんた、冒険者なのかい?」
「違います」
「それじゃ旅にでも出るのかい? 護衛を雇った方がいいんじゃないか」
「モンスターを自らの手で討伐するための武器を買いにきたんですよ」
「それじゃ、これから冒険者になるって事かい? あんたみたいな細っこい女が、そんな年齢で冒険者になるなんてねえ」
「何か問題でも?」
防具を揃える時にもなめられたので、ユーナは今の自分が何をするべきかわかっていた。
堂々とするのが大事なのだ。おどおどと腰を低くすると、際限なく下に見られてしまう。
せっかくドラ子が傍にいてくれるので、ユーナはふんぞり返ることにした。店主は胡乱な目をして言った。
「モンスターの討伐に行くんだろう? 同じようなもんだよ。むしろあんたの年齢だと、引退を考える歳だよ」
「なんですか~私が年よりだっていうんですか!」
「冗談で言ってるんじゃえねぞ。普通、冒険者なんてのは十代でやめるもんだ。二十超えて続けてるやつは往生際の悪いやつらばかりだし、三十超えて続けてるやつはみんな馬鹿だよ」
武器屋の店主であるおじさんは、ユーナの年齢を揶揄しているわけではないようだった。
流石にユーナも十代だと名乗るほど厚顔無恥ではない。
彼の基準だと、ユーナは往生際の悪い人間だということになるだろう。
「ドラコ様が一緒にいるんだから、殺人的な腕前ってこたあないんだろうがな。得物は何を扱うんだ?」
「さあ……」
「なんだそりゃ?」
「おすすめとかってあります?」
「普段、なんかしらの戦闘訓練はしてるんだろう? それで、今回一念発起してってことなんだろう?」
「戦闘経験は皆無です」
「おいおいおい、ドラコ様!」
「問題ない。選んでさしあげろ」
「問題しかねえだろうに……女性に護身用としておすすめするとしたら、このあたりの細剣だよ。手にずっしりと収まるぐらいがちょうどいい重さだ」
ほとんど投げてよこされた細い剣は、ユーナの手にはまるで玩具のように軽く感じられた。
「もう少し剣っぽいのありませんか? これプラスチックですか?」
「プラ……?」
「いや、なんでもいいんですけど、もっと重いのを」
「ほおん、それが軽いっていうのなら、こっちはどうだ?」
手に押し付けるように渡されたのは、また細い剣だった。なんとなくフェンシングが思い浮かんだ。
「レイピアかな……いえ、軽いですね。これって中、空洞ですか?」
「うちの武器をバカにしてんのか!」
「えっ、違います! でも軽すぎて」
「――俺があんたに見合った武器を見繕ってやれていないのが悪いってことか。なら仕方ねえ。普通の長剣を持ってみろ」
「う、うう~ん。まだ軽い、ですかね? 手からすっぽ抜けそう」
「……馬鹿力か」
「はい? なんですか?」
「いや、なんでもない。年を食った冒険者にはよく見た目と強さが釣り合ってないことがあるのは知ってたんだが、あんたほど若い女でそうなってるのは初めて見たよ」
若い女と言われてすぐに機嫌の直ったユーナは、剣の並べられた棚の前に立たされた。
「適当に持ってみて、塩梅のいい重さの武器を見つけたら教えろ」
「わかりました。剣以外にも色々ありますね。槍とかどうかな?」
「ああ、いい選択だな。モンスターとの距離を保てる。だが、決定力に欠けるのが難点だ。モンスターは人間とは違って脆くはないんでな」
「へえ、そうなんですね」
「だがあんたにもし決定打を与えられるパーティメンバーがいるのなら、槍はおすすめだ。確実にモンスターを切り刻んでダメージを与えられるからな」
「うっ……切り刻む、ですか」
店主はドラ子を見やる。彼がパーティメンバーならば、槍をおすすめすると言っているらしかった。
しかしユーナは自分が与えた槍傷のついたモンスターを想像すると、気分が悪くなった。
「剣とかだとどうなりますか?」
「ぶった切ることになるな」
「うええ……血、出ます?」
「あたりまえだろ。力のない女がモンスターに戦う時には、素早い動きでモンスターに傷をつけ、出血させて体力の消耗を狙うのが常道だ」
前回、ドラ子とアウリとフィールドに出た時、心のフィルターにモザイクをかけて乗りきった光景がまざまざと思い返されて、ユーナは眩暈がした。
心を無にして落ち着こうとしていると、ドラ子が動いた。
「ユーナ、これなどはどうでしょう? 血は出ないかと」
「なるほど、鈍器ね」
ドラ子が示したのは壁に立てかけるようにしておかれていた、青黒い色の鉄の棒だった。
その外観はどことなく、野球のバットに似ていた。でこぼこしている。
「そいつは鉄の塊だ。鉄を打ち込んで圧縮しているだけだが、だからこそちょっとやそっとの力じゃ持ち上げられは――」
しない、と言っている店主の前で、ユーナは片手で鉄バットを拾い上げていた。
なんとなく気まずい空気が流れたが、ユーナはその持ち心地を確かめているうちに、店主の反応は気にならなくなった。
「いいね、この棍棒。手にしっくりくる」
「お似合いですよ、ユーナ」
「よーし、お代はいくらですか?」
「あ、ああ……ただ重いだけの鉄の棒だ。3シル銀貨でいい」
「そんなに安くていいんですか? やった!」
「売りもんになるとは思っていなかったが、世の中には変わったやつがいるもんだなあ」
握れば握るほど手にフィットする、握り心地のいい棍棒だった。
店主は慨嘆している。とても誉め言葉とは思えなかったけれど、いい武器が見つかったユーナは機嫌がよかった。
「美しく鈍い輝き……エクスカリバーと名付けよう」
「ユーナに名を付けてもらえるなど、この武器は幸運ですね」
「私たちの勝利は約束されている、ね!」
敵NPCのレベルは基本的に50レベルまでだった――というゲーム知識から、ユーナはレベルを50まであげてから戦いに臨みたかった。
科学者ギルドとの全面戦争をするつもりはない。
あくまでユーナの予定としては、わーっと押し込んで、家探しをして、アウリを見つけたら速やかに引き下がる予定である。
とはいえ戦いになるかもしれないので、備えておいて損はない。
NPCのレベルについてゲーム時代の知識がどれほど参考になるかはわからないけれど、レベルは一つの指針とした。
そのレベルあげのためにはモンスターを殺さなくてはならない。
狂暴で人間を襲いはするが、れっきとした生き物を、である。
そのために買い求めた武器を、ユーナは普通に装備することができていた。
ユーナの職業である賢者は基本的に何も装備できない職業のはずなのだが――。
ある意味、あたりまえのことで、筋力が足りてさえいれば、誰でも何でも所持できるし、振り回せるのだった。




