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公開告白


 レイミは部外者ではあるけれど、ある意味一番の関係者でもあった。

 ユーナにとってもクスタヴィにとっても、レイミはアウリの将来の花嫁という認識で、彼女の意見をまるごと無視はできなかった。


「どうして連れて帰ってこなかったの!? 意味がわからない! アウリがわたしを置いてどこかに行くはずないのに!」


 案の定、ユーナとクスタヴィ、ドラ子が宿屋に戻ると、一人置いていかれて気の立っていたレイミは鶏冠を立てて怒り出した。


「いやまあ、アウリにも色々と、思うところがあるのかもしれないし」

「ええそうねユーナさん。でもわたしに何も言わないなんてありえないわ。昨日会ったけれど、科学者ギルドに戻りたいなんて素振りは少しも見せなかったんだから!」

「だけどあいつは意地っ張りなところがあるから」

「クスタヴィさんの言うことは最もだわ。でも、相手はわたしを轢き殺そうとした副市長様のギルドよ!? ユーナさんとのことがなくたって、アウリがあの男のいるギルドに入るはずがないの!」

「あ……そういえば」


 レイミとユーナの出会いについて、アウリは既に知っている。

 馬車に轢かれかけた病気のレイミをユーナが助けたこと。ユーナがそのせいもあってヤッコブに睨まれたこと。

 その後クスタヴィの手によって町の外に追い出された件についてユーナは特には言っていないが、アウリのことなのでもしかしたら知っているのかもしれない。


 ともかく、ユーナとヤッコブとの関係が悪いのを知っていて科学者ギルドに加入することはあっても、レイミを轢き殺そうとしたギルドの長が支配するギルドだと知っていて、そこに戻るというのは考えにくいことだった。


「確かにレイミさんの言う通りだね……アウリはレイミさんのことが大好きだし、レイミさんを殺そうとした男のギルドに自ら入るだなんてやっぱり考えられないか……?」

「ちょっ、そ、そこまでは言っていないですからね、ユーナさん!?」

「いやユーナさんの言う通りだ。アウリはレイミちゃんに惚れている。惚れた女を殺そうとして謝罪もしない男のギルドに入ろうとするなんてありえない」

「クスタヴィさん!?」

「なるほど? 私にとってのユーナのような存在を脅かした男の下で働きたいと思うかどうか、ということか? どのような事情があろうと絶対にありえないな」

「ドラコ様まで!!!」


 レイミが真っ赤な顔をして叫んでいる。

 自分で言い出したことなのに、他人に指摘されるのは酷く恥ずかしいらしかった。非常に可愛らしい姿なので、後でアウリはこの姿を目の当たりにできなかったことを悔やめばいいとユーナは微笑ましく思った。


 そのためにも、アウリとどうにかして再会できるようにしなくてはならない。


「力づくで押し入って、ユーナの弟子を探すというのではいけないのですか? 当初はそういう予定でしたよね?」

「ドラコ様!? ユーナさん!?」

「あ、ごめん。クスタヴィさんには言ってなかったね。でも、だからレイミさんを連れて行かなかったわけで」

「そんなことまでしてくれようとしていたんですね!? うちのアウリは果報者ですね!?」


 クスタヴィは驚きに目を剥きながら叫んでいる。

 ユーナたちは、そこまでの協力はしないものだと思われていたらしい。

 確かに、とユーナも自分がやろうとしていることを地球社会的に考えてみた。

 科学者ギルドをヤクザのような組織だとすると、ヤクザに連れ去られた知り合いの少年を助けるためにカチコミに行くような話だろうか。


 確かに他人の子のためにそこまでするなんて、日本にいた頃には考えられないことだった。


「でも……アウリは大事な弟子だから」

「はあ、それは、大事にしていただいているとは思っていましたが」

「私って、他に何にも大切なものがなくってですね」

「……アウリ以外に?」


 戸惑った顔で言うクスタヴィに、ユーナはちょっと笑って応えた。


「ドラ子ちゃんと、この宿と、レイミさんたちと、クスタヴィさん、それにアウリ……この世界で、皆さんだけが私にとって大切な人たちで」


 他の全てを失って――というより、ユーナは元々何も持っていなかった。

 だからこの世界に来て、たまたまある程度の力を持っていたのを幸いに、新しく手にしたものに関しては絶対に手放したくないと考えている。


「私、すごく寂しい人間なの。ああ……こんなこと口にしなきゃいけないだけでますます寂しくなるけど、事実そうだから仕方ないなあ」

「ユーナ……貴女がそんな風に思っていたとは、思わなかった」

「ごめんね、ドラ子ちゃん。ドラ子ちゃんがいてくれるだけですごく嬉しいよ。だけどね、やっぱりちょっとだけ寂しくてね」

「申し訳ありません、そのような想いをさせてしまって――」

「ドラ子ちゃんが悪いんじゃないよ。みんながいなくなっちゃうほど、遅れてやってきた私が悪いんだ」


 千年も遅れて現れて、今更何の用なんだとドラ子に突っぱねられなかっただけ、ユーナはとても幸運な女神の旅人に違いない。


「そんなんだから――アウリのことは絶対に助けたいと思ってる。今、困ってるのかもよくわからないけれど。困っていたとしたら、助ける。もし何かしたいことがあるのなら応援するし、一緒にできることがあるなら喜んでやるよ」

「……ありがとうございます、ユーナさん。そこまで思っていただいて、アウリは本当に幸運なやつです」

「いや、そうしたいのは私の勝手でもあるので、クスタヴィさんに恐縮してもらう必要はないんで。それに考えてみたら、強行突破っていうのも後々問題が多そうだし」

「それは……確かに。まず俺は間違いなく失職しそうですね」

「だよねえ。門番、というか兵士って、町で雇われているもんね。副市長を敵に回したら、大変だ。みんなで移住する?」

「ちょっと、困ります! わたしは宿から動けないのに! アウリにはこの町にいてもらわなきゃ!」


 アウリを婿に迎える気満々のレイミから抗議が入ったので、ニヤニヤしながらユーナとクスタヴィは顔を見合わせた後、真剣な話し合いに戻った。


「ペテル副ギルド長はそこまで話しのわからない感じの人ではなかったように思うんですよね。なんだか、とても丁重な感じがしました」

「騙されているんじゃないの? クスタヴィさん、人がいいんだもの」


 抜け目ないレイミが鋭い目つきでクスタヴィを見やる。

 ユーナは木組みの天井を仰いで先程のやり取りを思い返した。


「前に私とドラ子が訪ねた時にはすごく感じが悪かったんだよね。あんな感じじゃ全然なかった」


 あの時、ペテルは初めは穏やかな態度だった。

 しかし、ドラ子がまだポーションが店売りされていたゲーム時代の話を持ち出して、オークションという制度に話が及んだ辺りから、彼の態度は変わっていった。


「私のことを結構酷い言葉で侮辱してきたんだけど……隣にドラ子がいるのに、わりとドラ子を巻き込む感じの侮辱だったんだよね。この町の人たちはみんなドラ子のことを知ってて、長命種って言って敬意を払ってる感じなのに、ちょっと珍しいなって思ったんだよね」

「それは、勇気ある行動ですね」

「わ、わたしもそう思います……ユーナさんのことは全然恐くないけど、ドラコ様のことはわたしだって恐いわ。その副ギルド長、何を考えてるのかしら?」


 レイミは本人を前にしてきっぱりと言いながら、不可解な面持ちでユーナの言葉の先を促した。


「多分なんだけど、科学者の権利を守ろうとしていたのかなって、今は思う。あの時は、私とドラ子が回復薬を不当に値切ろうとしているように見えたのかも……逆に言い換えれば、あの人は科学者を守るためならドラ子たちを敵にさえ回せる人ってことだよね」

「長命種の方に逆らう勇気があるのなら、国王陛下に逆らうことだってできるだと思います。……あの人がアウリを誘拐したとはとても思えませんよ、ユーナさん」


 一体ドラ子たちミニフレはどれだけこの世界の人々に恐れられているのだろう?

 ユーナは苦笑しながらクスタヴィに頷いた。


「だよねえ。でも、他の勢力とか危ない人に連れ去られたって感じでもなかったよね? ペテルさんはあの手紙、身内が代筆したものだって言い切っていたから」

「……明日、とりあえずまた話を聞きに行きます」

「そうだね」


 頷いたユーナに、クスタヴィは恐る恐るといった口ぶりで言う。


「…………ユーナさんとドラコ様も、共に行ってくださいますか?」

「勿論!」

「私も、ユーナが行くのであれば」


 ドラ子の応えにユーナは引っかかったものの、クスタヴィの方は特に気にならなかったようで満面の笑みで礼を口にした。


「ありがとうございます!」

「今度はわたしも行きますからね! クスタヴィさん!」

「……そうだね。レイミちゃんが来ていると伝えてもアウリが出てこないなら、これはもう、絶対におかしい」

「か、からかうのはやめてください!」

「からかってなんていないよ、レイミちゃん。俺はあいつを愛する人を悲しませるような男に育てた覚えはないからね」


 クスタヴィの真剣な顔を見て、レイミは赤くなりながらも、いつものように癇癪を発揮せずに頷いた。


「わ、わたしも……そんな男を好きになった覚えはないわ!」

「よく言ったレイミさん! よっ! 自慢の弟子の嫁!」

「うるさいですよユーナさん!! 茶化さないでください!!!」


 ユーナに癇癪玉を破裂させられたレイミはキーキーと叫んでいたけれど、そんなレイミを見つめるユーナの心は穏やかだった。




 そんなユーナの横顔を見つめていたドラ子は、静かに己の取るべき選択に悩んでいた。

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