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悪夢からの目覚め


「悪いが、ついてきてくれるな?」

「はい、わかりました」


 イヴァールの言葉に頷いた。早速町から追い出されるわけである。

 ヤッコブのいる部屋を出て、十分に離れると、イヴァールは深い溜め息をついた。


「大人しくしていてくれれば、もう少し何とかなかったものを……」

「商業ギルドの馬車の前を横切ったら、斬り捨てられても仕方がないとかいう、そういう決まりがあるんですか?」

「ないが……あの場でそんなことを言わないでくれてよかった。あの男は新しく法律を作りかねないからな」


 法律を作るという言葉は予想外だった。

 唖然とした優奈を見下ろして、イヴァールは溜め息を重ねた。


「君は彼の権力と、状況を理解していなかったんだな……? だが、もはや何もかも手遅れだ。彼の気持ちを動かすことは、何をしても叶わないだろう」


 別に、優奈は許してもらいたいとは思っていない。

 彼の気持ちを動かすようなことは、むしろ何一つしたくなかった。


「もうすぐ冬になる。明日にでも雪が降るかもしれない。そんな中、君は受け入れてくれる人里を求めて旅をしないといけないのだ。スピ病を抱えて、モンスターや盗賊が出るかもしれない道を行かねばならないんだぞ」


 イヴァールの言葉はあまり現実味を伴って聞こえなかった。

 ただ、ゲームの世界が現実になったら、そんな感じになるのだろうなと思う。


 イヴァールは顔をこれ以上ないくらい憐れみと苦悶に歪めながら言った。


「――門の外まで連れていく。その後、その場に留まっていてくれ。荷物を用意して君に持たせてやることくらいはできる」

「あ、ありがとうございます!」

「一冬を越せるような荷物は無理だがな……君は、自分に注意を向けたかったのだろう?」


 え? と優奈は首を傾げた。

 イヴァールは苦しげな顔をして、好意的な解釈を呈した。


「ルルの花亭の娘のことをヤッコブ様が忘れるように仕組みたかったのだろう?」

「病気の女の子のこと?」

「ああ、そうだ。だからあれほど無謀なことをしたのだろう……俺にはできなかった振る舞いだ。町の人々を守る兵士の長として、そうするべきであったろうに」


 そういえば、と優奈も思い出した。

 優奈が病の少女を送り届けたのはルルの花亭という宿屋だったかもしれない。

 少女の父親だか、母親だかが言っていた。


「君が注意を引かなけりゃ、昏睡している少女までもが引き摺り出されることとなっただろう」


 優奈は少女を助けようと駆け寄った。

 ヤッコブは、元々道路の真ん中で倒れていた少女にも問題があると考えていたらしい。

 病気で歩けないほど弱っていたと話の流れでわかっているだろうに、呼び出して尋問するつもりだったらしい。


 優奈は別に、あの子を庇うつもりはなかった。

 けれど、結果的に彼女にヤッコブの目が向かなくなるのであればよかったと思った。


「きっとヤッコブ様はもう一人の娘のことなどさっぱり忘れてくださっているだろう。君の果敢な挑戦は報われるはずだ。――しかし、厳しい旅になるぞ」


 厳しい旅になる。NPCならそう言うだろう。


 所持金なし、身分を証明できるものもなし。

 特に辛い症状は出ていないものの、明らかに伝染病にかかってしまっているのに、今いる町を追い出されて、他の町に行かなくてはいけない。

 今夜にでも、雪が降ってもおかしくないような季節である。

 恐らく移動は徒歩だった。


 この夢はリアルだ。

 辛い症状の出る伝染病を背負いながら、雪の中夜通し歩くとか、そんなリアルはあまり味わいたくないところである。

 もし痛みも苦しみもリアルに襲ってくるのだとしたら、目を覚ましたかった。

 せっかくのリアルなゲームの夢を失うのはとても惜しいけれど、いつまでも夢を見てはいられない。


 けれど今のところ、覚醒の気配はまるでない。


「直近の農村を目指すんだ。スピ病でなくとも、この時期に訪れるよそ者を入れてくれるかはわからないが……しかし、他に手がない。身を守る力はあるか? 君の職業(ジョブ)は?」

「えっと、賢者(セージ)です」

「……賢者とは何だ?」

「えっ? あれ、ご存じないですかね……あの、学者(スクーラー)の系列の――」

「ああ、学者の他の国での呼び方なのか」


 イヴァールは一人得心して、頷くと、次は暗い顔をした。


「武具を身に着けるつもりがないなら、その分、多少は身軽だということになるが、やはり厳しいな……学者では」


 塔の下に降りるとすぐに、優奈は門の外側に連れていかれた。門の外側には、列をなす人々がいた。

 彼らは門を通って町の中に入ろうとしているらしい。

 門で一人ずつ身元確認をされ、入町許可証を作られているようだった。

 

 この町においては、人の出入りは完全に管理されているらしい。

 それを持っていない優奈はだいぶ怪しいが、イヴァールはそれを問いただすつもりはないようである。


 列を横目に、イヴァールは優奈を外壁の際に立たせた。


「スピ病が重態化し、動けなくなればそこが君の墓場となる。その後のことは考えても無駄だ。だから考えるな」


 いきなりハードな説明を受けて優奈はおののいたが、イヴァールが親切で言ってくれているのはわかるので、黙って頷いた。

 まあ、これは夢だし、と優奈は何度も心の中で呟いた事を繰り返してみる。

 ……繰り返さないと現実だと錯覚しそうなほど、リアルな夢だから。


「農村に辿り着いて、しかし入村を拒まれたとして、諦めてはいけない。あらゆる手を使って同情を乞うんだ。むしろスピ病だということで憐れんでもらえるかもしれない……とにかく、農村に向かえ」

「ここからどれぐらいかかります? 荷物がいるぐらい遠いんですか?」

「移動自体は半日だ。だが、手ぶらで行っては怪しすぎる。最低限の旅人の装束で行くといい。君は、冒険者には見えないから、職業も学者だというし、旅の学者だとでも言えばいいのではないか?」

「はあ、なるほど。〈フィールドワーク〉ですね」


 学者の二つある職業スキルツリーに、〈フィールドワーク〉というものがある。

 この〈フィールドワーク〉から派生していくツリーでは、料理や魔法薬のレシピ、あるいは装備品の設計図などが手に入る。


 フィールドワークで来たといえば、経緯としては納得してもらえるだろう。

 優奈はイヴァールのアイデアに乗っかることにした。

 もし夢から覚める前に農村に着ければの話だが。優奈は農園を見てみたかった。


「旅券はなくしたと言うといい。本当かどうか、怪しまれはするだろうが……まあ、君なら信じてもらえるだろう。育ちは悪くないように見えるからな。ところで、体調はどうだ?」

「……熱っぽさは感じるんですけど。それくらいですかね? あと寒いです」


 宿屋の少女と少し接触しただけで、優奈まであっという間に罹患してしまった。

 感染力の強さも、発病の速さも恐ろしい病気(デバフ)だ。

 でも、今のところ何一つ辛さを感じていなかった。夢だしね。


「恐らく君でなくとも寒いと思う。気温が急激に下がってきたな」


 イヴァールが顔をあげた。

 つられて顔をあげると、日が、遠く見える高い山の向こうに沈んでいくのが見えた。

 山の上の方は既に白く染まっていた。雪が降っているのだろう。


「ん……あれ!? 今何か飛んでませんでしたか? なんか、鳥の大きさではなかったような――」

「ああ、飛んでいただろうな。あの西の山には|竜≪ドラゴン≫の巣がある」

「……ドラゴン、かあ」


 ゲームの中にも竜の巣というポイントはあった。

 だから、夢の中にもあったっておかしくない。


 山の上を旋回する黒い点のようなドラゴンたちは、翻るたびにキラキラと輝いた。鱗か何かが輝いているのだろう。

 彼らのような生き物にも、陽が暮れたら家に帰るという習慣があるのだろうか?


(私の夢の世界ながら――きれいだなあ)


 薄水色に橙が混じる空の彼方で、赤い太陽がゆらゆらと揺れながら山の向こうに隠れていく。

 山頂の白い雪は陽を反射して、青にもピンクにも輝いて見えた。

 山裾から闇が這い上るように伸びていく。

 光が退くから暗くなっているだけなのに、闇自体が生き物のように蠢いている気がした。


 自分の夢だと思うと誇らしくなるくらい、美しい世界だった。


「今夜は門の前で野宿をした方がいいだろうな」


 優奈はイヴァールの意見に内心同意した。

 町を囲う森はとっくに闇の中に落ちていた。

 道は広く開かれているとはいえ、この中を明かりもなしに行くのは明らかに自殺行為だった。


 できたら町の中、屋根の下で眠りたかった。

 でも、どうせ夢なのだから野宿を経験してみるのも悪くない。


「頑張れよ、ユーナ」


 イヴァールに肩を叩かれてなんだか不思議な気持ちになる。

 優奈、ではなくユーナと呼ばれたのはわかった。

 馴染み深いが聞きなじみはあまりない。

 ゲームで使用していたハンドルネームがユーナだったのだ。


 この世界で名乗る時は、ユーナと名乗るのもいいかもしれない。

 イヴァールは再び門の中に入っていった。荷物を用意してくれるのだろう。


 一人になると、ユーナは途端に心細くなった。

 夢だとわかっているのに、夢のリアルさのせいで、とてもそんな気がしないからだろう。


 門の前の列に並ぶ人々の顔つきまでわかるくらい、はっきりとした夢だった。

 その見た目や人員構成で、彼らがどういうパーティなのかなんとなく想像がつくのは面白かった。

 多いのは圧倒的に商人だ。そして農民? 


 それにしても、ユーナは自分がどこにいるのか見当がつかなかった。

 ゲームの中のマップを思い出してみても、辻褄が合わない。  

 ユーナが覚えている限り、竜の巣がある山の東には、海しかなかったはずだ。


 それなのに、今ユーナは、東側から竜の巣のある山を見上げていた。

 間にいくつかの山と森を隔てながら。


「私の知ってるゲームの世界じゃないのかな……ま、夢だし」


 深く考えても無駄かもしれない、とユーナは早々に考察を諦めて、壁を背に座り込んだ。

 夢でなければとっくにパニックに陥っているだろう。

 紺色の靴下の上、臑のあたりに現れた青白い光を眺めながら思った。


 病気になって、町の権力者の不興を買い、町を追い出されて、一人でモンスターのいる森を前に野宿をして――現実だったら、まず気持ちが萎えている。


「にしてもなんか、見たことがあるんだよなー、この光」


 ユーナは自分の身体を移動する光を目で追った。

 最初に見た時にも思ったが、この青白い色、絶対に見覚えがある。

 

 思えば、戦闘中に表示される、SPのバーの色がちょうどこんな色をしている。

 スキルポイント。スキルを使う時に消費する、ポイントである。


「……すぴ。えすぴー? SPだから? いやいや、まさかそんな」


 もしもこれが、SPに関わる病気(デバフ)なら――もしかするとユーナはこれ以上酷い状態にならないかもしれない。

 生産職は、SPが最も増える職業である。そして回復速度も速い。

 しかしSPが多いと病気が酷くなるというのならば、ユーナ終了のお知らせであった。


「ま、なんでもいいけど……悪くもないのにあんな男に謝らなかっただけ、私、偉い」


 あんな嫌味な男相手に、一歩も引かなかったのだ。

 きっと爽快な気分で目を覚ませるだろう。

 そのためにはまず、この夢を終わらせないといけないけれど。

 ――辺りが暗くなってきて、冷たい風が吹く。


「……夢のくせに、マジで寒い。やめてくれー」


 ユーナは膝を抱えて呟いた。

 もしかすると、現実のユーナは本当にゴミ捨て場か何かで腹を出して寝ているのかもしれない。

 十一月だというのに、早く目を覚まさないと本当に風邪を引くかもしれない。

 むしろ引いてしまったから、病気になる夢を見ている可能性がある。


「うぃ、痛たたたた、痛い、あいたたたた……」


 ユーナはほっぺをつねってみた。

 けれど、痛いだけで目が覚めない。捻ってみたが無駄だった。

 門の方を見てみるけれど、イヴァールがやってくる気配はない。

 町の中に入れてもらおうと、並ぶ人々の列が短くなってきた。

 あと三グループほど残した状態で、町の中からカンカンカンと鐘を打ち鳴らす音が響きだした。


 鐘の音を聞くと、列に並んでいた人々が明らかに慌て出した。閉門の合図なのだろう。


「早く中に入れてくれ!」

「大丈夫だ。お前たち全員を入れるくらいの時間はある」

「彼女はどうしたんだ?」

「気にしなくていい」


 門で身元確認をしているらしい、若い兵士の言葉にユーナは傷ついた。気にしてほしい。

 しかし、イヴァールに迷惑をかけるのは嫌なので、ユーナは壁際でじっとしていた。

 

 イヴァールがやってくる気配は、相変わらずない。


 荷物を用意するのに、手間取っているのだろうか?

 もしかしたら荷物を用意してくれると言ったのは口だけの話で、本当は用意するつもりなどないのかもしれない。

 ユーナがここで野宿するのを知っているから、荷物が届くのは明日になるのかもしれない。

 どちらにせよ、暗闇の中を手探りで歩くわけにはいかないのだ。

 明日の朝になれば全てわかることだろう。

 とりあえず、ユーナは門の側で膝を抱えて蹲り、寒さに震えた。


「……夢、だよね?」


 ユーナは、膝小僧に囁きかけながら、木々を見つめていた。町は森に囲まれていた。

 町の壁から十メートルほど離れたところに、森がある。

 森はほとんど途切れることなく町周辺を囲っている。


 先ほどまで、森の中の五メートルほど先まで見えていたのに、日が傾き、もう一メートル先も見えなくなってきていた。

 木の幹がうっすら白く浮き出て見えるだけで、その間にあるのは闇だけだ。


 闇が少しずつ近づいてくるような気がして、ユーナはじっと闇を見つめていた。

 目を逸らしたら、闇が飛びかかってくるような気さえした。

 勿論、不安からの錯覚に決まっているのだけれど――と思った時、叢が揺れる音がした。


「なんの音だ!?」


 まだ門の中に入れていない年配の男性が叫ぶと、その男性の妻らしい同じくらいの年齢の女性が音の正体を見つけて叫んだ。


「ウルフだわ!!!」


 それはモンスターの名前だった。

 ゲームの中で出会っていれば、戦闘職でもなんでもないユーナでも、ワンパンで倒せるモブモンスターだ。

 しかし、生身のユーナが狼の形をした生き物と戦って、果たして勝てる道理があるだろうか?


(あるわけない――!)


 全ては夢の中の出来事だと、心の底から思っている。

 なのに、本気でウルフという脅威について考えて、ユーナは全身総毛だった。


「早く中に入れてくれ!!」


 年配の男性と、妻が叫んだ。

 ユーナはその後ろについて叫んだ。


「わ、私も――!」

「あんたは中に入れてはならんことになっている、悪いが」


 若い兵士は、不機嫌そうな顔をして、門の中に入ろうとしたユーナの肩を押し戻した。

 列の最後尾にいた夫妻は、緊急事態だからだろう、身元確認をせずに通したのに。


「で、でも! ウルフが――!」

「町から追い出されるってのは、そういうことだろ? それが嫌なら副市長に逆らわなきゃよかったのに」


 バカだな、と若い兵士の口が動くのを、ユーナは見た。

 ガチャンと何か、重いものが動く音が響いた。

 門を閉めるための仕掛けが、動かされている。


「ま、待って! 待って!!」

「待てない」


 ユーナが彼に取りすがろうとする前に、門をつっていたロープか何かを離したのだろう。

 門が勢いよく降りてきた。ガシャンと大きな音を立てて、門は地面に激突する。

 

 咄嗟に後ろに退いて避けたユーナの頬に、弾けた小石と土塊が跳ねた。

 危うく、門扉に潰されて死ぬところだった。


「ぐるぅううううぅうぅうううぅ……」


 ――門に潰されて即死していた方が、楽だったのではないかな? 

 先ほどまで森の端にいたはずのウルフの唸り声が、思っていた以上に近い場所から聞こえた。

 闇に紛れてユーナに近づいてきたのだろう。


 ユーナは、恐怖で身体が強張ってしまっていた。


(これは夢、これは夢! これは夢、夢、夢夢夢夢夢――ッ!!)


 夢だと思い込むと、ブリキの人形のような動きで、なんとか身体を反転させることが叶った。

 そして、ユーナは目の当たりにすることができた――よだれの滴る獣の口に、鋭い牙。

 ゴワゴワとした毛を逆立てさせる獣の、生臭い息が生々しく嗅ぎ取れるほど、近かった。


 太陽は世界の裏側に消え、ユーナの周囲は闇に落ちてしまった。

 だというのに、獣の顔だけはよく見えた。

 夜闇に浮かび光る黄色い目が、本能的な恐怖を掻き立てた。

 我知らずユーナの口から甲高い叫び声が飛び出した。


「きゃあああああああああああああああああああああっ!!!!!!」


 獲物の叫びに興奮したかのように、ウルフが大きな口を開くのを、見た。赤い舌を。

 暗い口腔、牙が近づき――ユーナは怖くて目を強く瞑った。


 噛まれたら、夢から醒めるのならいいけれど、もしもそうでなかった時、ユーナはどうなるのか?

 恐ろしい想像に震えながらユーナは縮こまった。

 しかし、痛みは一向にユーナの元を訪れなかった。


 衣ずれの音がした。次に何か硬いもの同士がぶつかる音。そして最後に、風の音。

 夢から醒めたのかもしれない。

 どくどくと心臓が音を立てる。

 一縷の希望にすがるようにユーナは固く瞑っていた目を開いた。


「――ご無事ですね、ユーナ」


 そこにあったのは、まだ夢だった。


 濃い夜闇の中で、銀髪の男だけがはっきりと存在しているようだった。

 青白く輝いて見えるほど白い肌をした彼の顔は、闇の中で浮かび上がって見えた。

 銀の髪の毛は、彼の背後に浮かぶ月とよく似ていた。

 彼の赤い瞳は、やはり彼の背後に浮かぶ、もう一つの月とよく似ていた。


 今のユーナは、月が二つ浮かんでいることにあまり興味を持てなかった。

 今日はもう、限界まで驚きすぎてしまっていた。


 ウルフのことも、突如現れて助けてくれた銀髪の男のことも――そもそもこの世界にいるということからして。

 

 彼はウルフにつきたてていた剣を引き抜き、その血を払って剣を鞘に納めた。

 そして、見惚れるほど美しい仕草でその場に跪いた。


「ユーナ。これまで貴女を見失っていた私をお許しください」


 夜闇を背負って恐ろしいほど絵になる美しい男だった。

 彼はユーナの名前を知っているようだった。誰かから聞いたのだろうか? 


 それにしては様子がおかしい。

 親しげな、慕わしげな目をして彼はユーナを見つめている。

 まるで旧友と再会したような、あるいは生き別れの家族に出会ったかのような。

 

 あたかも探し求めた運命の恋人でも見つけたかのような――。

 彼はそういった、ほとばしるような喜びに染まった顔をしていた。


 それなのに、ユーナには彼が誰だかわからなかった。


決意のキーワードでしたが、荷が重すぎるものを削除しました。

無理はよくないと思いました。

明日は更新ありません。

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