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職人に依頼


「それじゃおれは、風呂のある宿を探してきます」

「いやいや。いいよ」

「えっ? どうしてですか? 心当たりの宿でもあるんですか?」

「そうじゃなくて、ヘイディもきっと反省しているだろうしね」


 レイミだって、話せばわかってくれるだろう。

 ユーナ的にはアウリに恋愛感情なんてものはないし、アウリにしたってそうである。

 何を誤解しているのか、レイミに嫉妬される謂われはないので、その辺りを主張するつもりだ。


 考えてみたら、ユーナたちがここで見切りをつけるように宿を変えたりしたら、今後取り戻しようのない溝が生まれかねない。

 ルルの花亭は、この世界に来てから初めてできた、ユーナにとっての帰る場所である。

 これをなくすのは、風呂に入れないよりずっとユーナにとっては痛手である。


「希望的観測はやめておいたほうがいいですよ、師匠」

「慣れた宿にいたいしさ。それはそれとして用があるので付き合ってちょうだいな、アウリくん」

「私が付き合うだけでは足りませんか?」

「足らないねえドラ子ちゃん。多分アウリの身長とかが必要になるからね。あ、でもドラ子も一緒に来てくれないと困るよ?」

「ちゃん……いえ、ならばいいのですが」


 スモールヒールポーションの対価は防犯上ドラ子が所持しているので、来てくれないと困るのだ。


「師匠? どこへ行くんですか?」

「職人ギルドがあるっていう、東南地区に行くつもり」

「ご入り用なものでもあるんですか? なら、まずは市場に行って探した方が安くつくと思いますけど」

「市場とかには絶対に売ってないものだから、職人さんに作ってもらいたいんだよね」

「売ってない? 何が欲しいんですか?」


 言ったらアウリが逃げそうなので、ユーナは口を噤んでいた。

 ドラ子もこの道中クイズ大会に参加してきた。


「ポーションの容器ですか? ユーナ」

「あ~、それもいずれは用意したいね~」

「えっと、師匠、ガラス職人の工房に案内すればいいですか?」

「ううん。どちらかというと木工職人とかの出番かも。金属……はどうかな? 相談しないとわからないけど」

「なら、職人ギルドに案内した方がよさそうですね」


 アウリは首を傾げながらも、当初の予定通りユーナたちを職人ギルドのある工房街へと案内した。

 南北を走る大通りを渡り、工房街へと入ると、途端に別世界が広がっている。

 とにかくあちこちから作業したり金物を打ったり、声を張り上げたり怒鳴りつけたりする騒音が耳に付きだした。


「ひゃー、職人の町だ-」

「うるさいですけど大丈夫ですか?」

「全然平気だよ。冬なのに活気があっていいねえ」

「もう冬は終わっていますよ師匠? 今は剣の月の最中なんですから」

 

 この世界の人間の感覚では新年を越えると、認識としては春になるようである。


「まだ寒いのになあ」

「師匠はいつも変なことを言うんですから……冒険者ギルドとは違って職人ギルドではドラコ様の顔が利かないかもしれないので、気をつけてくださいよ、師匠」

「はーい」

「なんか不安なんだよなあ……」


 ぼやきながらアウリが先導する。

 既に科学者ギルドと商業ギルドについては出禁に近いユーナなので、心配するのは非常に正しい。

 この上職人ギルドまで出禁になったら、ウッズの町での暮らしは諦めざるを得ないかもしれない。


 アウリがユーナたちを連れてたどり着いたのは飾り気のない四角い建物だった。

 どことなく役所的な雰囲気を感じさせた。

 冒険者ギルドの酒場的な雰囲気とも、科学者ギルドの瀟洒な雰囲気とも違う。


「ごめんください」

「客か。妙な組み合わせだな、あんたら」


 ユーナが元気に声をかけながら中に入ると、開口一番に応えたのはずんぐりとした体型の、黒い髭もじゃの小さいおじさん。

 彼はまるっきり、ユーナの知るドワーフの姿をしていた。――よくよく見覚えのある。


「ドワ子ちゃん!? ――じゃないか」

「ああ!? あんだてめえら!」

「失礼。気にするな。私たちは用があってここへ来ただけだ」


 ドラ子は素早くとりなすと、声を潜めてユーナに耳打ちした。


「――ユーナ、彼はただのドワーフですよ。ミニフレですらない」

「違うの?」

「ええ。ミニフレたちの子や孫、子孫の世代です」

「……子?」

「私にはそのようなものはいませんがね」


 ミニフレが子どもを産んでいるという事実に戸惑いを隠せないユーナだったが、ユーナよりも先に職人ギルドのドワーフが気を取り直した。


「なんか用か? ここでは何も作れねえし売ってねえぞ!」


 彼は若干不審人物を見る目つきでユーナたちを見上げていた。

 科学者ギルドの二の舞になりかけている。

 ユーナは慌てて用件を口にした。


「あの、実は欲しいものがあるんですが、どこでなら作っていただけるのか、見当もつかなくて。何の職人の方なら作っていただけるか、相談させていただきたくて来ました」

「はあん? 怪しい依頼は受けねえぞ」

「怪しくないです。義足を作ってほしいだけなので」

「へ!?」


 素っ頓狂な声をあげたのはアウリだった。

 そんなアウリを前に押しだすと、ドワーフの職人は無遠慮な目でアウリの下半身をねめつけた。


「フン、なるほどな。だがオーダーメイドとなれば高くつくぞ」

「それは結構です。見積書をいただけるような工房を紹介していただけるとありがたいんですが」

「どこを紹介するかは、いくら出せるかによるな。見積書はどこでも出せるが、技量によって出来が変わる。間に合わせのモンしか作れねえ工房じゃ安い見積もりになるし、坊主にピッタリの義足を妥協せずに作りたいなら、それこそ見積もりは高くなる」

「最低でも500ルピスは出せます」


 今後も冒険者ギルドにスモールヒールポーションを売り続けられれば、更なる収入が期待できるはずである。

 ドワーフの職人はニヤリと笑った。一応、500ルピスというのは義足を作れない金額ではないらしい。

 残る問題は、どんなレベルの義足ならば作れるかということだ。


「師匠! 勝手に話を進めないでください! おれなんかのために金を使ってほしかったわけじゃないですよ!?」

「あー気にしない気にしない」

「気になります! 500ルピスもする義足なんて作ってもらっても困ります!!」


 せっかく義足を作ってもらっても、アウリがつけてくれないのでは話にならない。

 ユーナは適当にアウリを誤魔化すことにした。


「今後もアウリをこき使っていくための先行投資だから、気にしない」

「……絶対にこき使うって約束できますか? 500ルピスの投資を回収できるぐらいおれを使いまくらないと怒りますよ!」

「怒るとこがおかしくない!?」


 真面目な弟子の真面目たる所以が炸裂している。

 アウリの生真面目さを知らないドワーフの職人も困惑気味だ。


「こいつらは一体何の話をしてやがるんだ?」

「何かおかしいか? ユーナに仕えるのであれば普通の心構えだ」

「このお嬢ちゃんがパーティの長なのか? 妙なやつらだ」


 ユーナとしてはドワーフの職人の意見に大賛成である。何かがおかしい気がしてならない。

 とはいえ、このおかしさにドワーフの職人が尻込みすることはなかった。


「金を持ってるなら話は早い。俺が図面を引いてやる。義足ってのも作ってみたいからな」

「あなたがですか? 失礼ですがお仕事は何を?」

「本当に失礼だな! ここにいるんだから職人ギルドの長に決まってんだろ! このウッズの町で一番の腕前の職人、ウルホだよ!」

「へえ~…木工職人さんですか?」

「木の義足を想定してんのか? まあそれもできる。俺はこの町の大体の職人の師匠なんでな」


 図らずもすごい人にアウリの義足作りを依頼することができる運びのようだった。


「それはすごいですね! 是非お願いします!」

「弟子のために義足を贈ってやるなんてお前もいい師匠じゃねえか。お前らは何の師弟なんだ」

「私は学者(スクーラー)で、彼は科学者(サイエンティスト)です」

「ああ? 学問でも教えてんのか? それじゃ町の中を歩ける程度の機能がありゃいいってことか?」

「できたらモンスターの跋扈する森や山を歩けるくらいだと嬉しいですけど」

「お前はこの坊主を町の外にやるつもりか!? 鬼畜か!」

「師匠! そうですよ! やればできるんじゃないですか! それぐらいおれをこき使ってくれていいんですよ!!」

「なんで坊主は喜んでるんだよ……」


 がっくりと項垂れるウルホに、アウリは深い溜め息を吐いて応えた。


「おれの師匠は甘いんだ。師匠、おれを町の外にやるとはいっても、多分おれ一人で放り出したりするつもりはないですよね?」

「当然だよ。もし外に出なきゃいけないなら、私とドラ子がついてるよ! というか、本当に町の外に行ってもらいたいわけじゃなくて、何かがあった時のためにも、義足の性能は高ければ高いほどいいっていうだけでね」

「…………師匠がまたおれを甘やかそうとしてくる」

「なんでそんな目で睨まれなくちゃいけないのか師匠には意味がわからないよ」

「堕落させようとしてくる……おれは自分でしっかりしないといけない……」


 人聞きの悪いことを項垂れながら呟くアウリである。

 アウリに同情的な視線をやった後、ウルホは若干彼には高めの椅子に飛び乗った。

 そして丸テーブルの上で黄ばんだ紙を広げると、黒炭のチョークで早速線を引き出した。

 太い指で描かれるその線はフリーハンドのくせにまっすぐで、彼の腕の良さを感じさせた。


「町の中だけで使うって言うのなら、それこそ足を受け止めるソケットの作りにこだわって、その下に良い感じの木の棒でもくっつけときゃいいんだが、最高の性能を求めるとなると試作品をいくつか作る必要がある」

「そうかもしれないですね」

「金が追加でかかる可能性がある」

「500ルピスを越える正当な理由があるのなら聞きます」

「おおっ、話が早いぜ! お前らはいい客だな!」


 ウルホとの話し合いの結果、500ルピス以内でまず、ある程度のレベルの義足を作ることで合意した。

 ユーナとしては一刻も早くアウリに足を用意したいという気持ちがあるのである。

 けれど、それ以上の性能の義足を作るために必要な提案があればユーナは聞き、それにユーナも同意をすれば、予算を出す。


 妥当性がない、技術的に不可能とユーナが判断すればそこで開発は終了だ。


「アウリ、よりよい義足を作るために頑張ろう!」

「適当なやつでいいですから。木の棒でもくっつけといてください」

「自分の身体のことなんだから、もっと大事にしなよ、アウリ」

「……やっぱりスモールヒールポーションを売った金の半分はおれが預かっておけばよかった」

「はーっはっはっは! 今更言ってももう遅い! 弟子の金は私のもの! 私のものも私のもの!!」

「師匠の金がどうしておれのために使われるんだよーもー」


 ぶちぶち言ってるアウリは置いといて、ユーナはくるりとドラ子に向き直った。


「ドラ子! 主に薬草採取に付き合ってね!」

「それが貴女の望みならば、喜んで」

「もっと反抗してくれてもいいのよ?」

「はい?」


 従順なドラ子に怪訝な顔をさせつつも、ユーナはウルホとの商談をとりまとめた。


「契約書はすぐに作る。明日にまた来い!」

「よろしくお願いします!」


 握手をして、非常に速やかに契約成立と相成った。 


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