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師匠の受難


 アウリは回復したらしい、とユーナは聞いている。

 らしい、というのは、まだ一度も会いに行っていないからである。


 クスタヴィはアウリの目が覚めた時点で、礼を言いたいからすぐに来てほしい、と言っていた。

 だがユーナはそれを断った。

 ドラ子はそれを何か勘違いして、「そちらから訪ねてくるべきだろう」とかなんとか言っていた。

 ユーナは別に、病み上がりの上に片足を亡くしたアウリに自分の元へ来いだなんて思っていない。


 ユーナはクスタヴィに、アウリが動いてもいいくらい元気になったら教えて欲しいと伝えていた。

 そしてその日は、アウリが目を覚ましてから一週間後に訪れた。


 ちょうど雪のない、この一週間では珍しく晴れた日のことだった。


「ユーナさん、よかった、起きていたんですね」

「あ、えーと」

「クスタヴィですよ、ユーナさん。そんなに俺の名前は覚えにくいですかね?」


 宿の一階でもそもそと朝食のオートミールを食べていたユーナのところに、アウリの兄、クスタヴィがやってきた。

 宿で借りたレイミの寝間着姿に寝癖姿だったユーナを見ても、特に何も思わない様子で用件を言う。


「弟のことですけど、元気になりましたのでいつでもどうぞ」

「まだ一週間だよ!? 早くない!? 傷口塞がってないでしょ!」

「そりゃそうですけど、寝てばかりじゃいられませんからね」


 クスタヴィは苦笑した。ユーナを見る目は生ぬるい。

 クスタヴィは己の家の貧しい境遇をやんわりと説明した。


「俺もそろそろ仕事をしないと、兄弟共々飢え死にしてしまうので。アウリには自分のことは自分でやってもらわなきゃならないんです」

「で、でも片足がなくて……義足とか作ったの?」

「義足なんて考えもつきませんでしたよ。杖は持たせてます。ただの木の棒ですけど」

「え、ええ……?」

「気にしないで、何かあんな弟にもできることがあるんでしたら、どんどん言ってやってください」


 ユーナとしては気になりまくりであったが、そんなユーナを気にせずクスタヴィは笑っている。


「あいつが元気になったら教えてくれと言ってくれたでしょう? あんな怪我をしているのに、ユーナさん、当初の約束通り弟子にするからって」

「ああうん……酷いこと言ってごめんね」

「酷い? まさか!」


 クスタヴィから改めて自分の言葉を聞かされて、鬼畜みたいだなと感じたユーナは思わず謝った。

 探索依頼の報酬として約束していたからといって、本人の意志も確認せず、改めて考えればとんでもない約束である。

 それに、クスタヴィは驚いたように応えた。


「あれは俺たち兄弟にとって最高の見舞いの言葉でした!」

「えっ、そう?」

「あんな風になってしまったアウリにも、できることはあるんだって思えて――それがどれだけアウリにとって救いになったか」


 ユーナは別に、足がなくとも科学者(サイエンティスト)のスキルなら問題ないだろうとゲーム脳で考えただけだった。

 なのに、クスタヴィ、アウリ兄弟にはとてつもなく大きな期待をさせているらしい。

 これは何も覚えさせられませんでした、では済まないだろう。

 必ずや、アウリを科学者(サイエンティスト)として大成させなければならないらしい。


「あの状態ではあるので、できるだけ無理はさせないでほしくはあるんですが……ま、ユーナさんのことですから、あの足でどこかへ走らせたりはしないでしょう?」

「しないしないしない! なんてことを言うの!」

「ですよねえ! あはは、心配するだけ損だ!」


 クスタヴィは朗らかに笑いこけている。

 初めて出会った時、不機嫌な顔をしていたのが嘘のようだ。ちょうど虫の居所が悪かったのだろうか。


「では、俺は仕事に行ってくるので」


 そう言って、クスタヴィは町の南門へと駆けて行ってしまった。

 つまり、アウリは今家に一人でいるということである。


 ユーナは急いで朝食を食べ終えると着替えた。

 たまに洗濯しながらも、基本的にずっと制服姿だった。

 布地の肌触りが他の服とくらべて段違いにいいのである。チクチクしない。


「あっ、ラウラさん。私アウリのとこに行ってくるので! ドラ子が来たらそう言っておいてください!」


 ユーナは宿のカウンターにいた女性に声をかけた。

 これまでユーナがずっと奥さんと呼んできた、レイミの母親である。

 レイミという結構大きい娘がいるのだけれど、かなり若いような気がしてユーナは年齢を聞くのが恐い。


「いいのかい? ユーナさんがいないと、あのお人はがっかりしそうな気がするけれど」

「まーいいです。伝えていただければ大丈夫だと思うので! あ、ドラ子の部屋は私の隣とかにしておいてあげてください」

「ユーナさんがいいのなら、そうしておくね」


 今日はドラ子がユーナと同じこの宿に移ってくる日である。

 冒険者ギルドだと、ドラ子はただ同然で泊めてもらえるらしいのだが、いつもより出稼ぎをしてでもユーナの近くにいたいと言い張った結果である。


 ドラ子の引っ越しを手伝うつもりだったのだが、アウリが心配だったユーナは特に約束していたわけでもないので、先に出ることにした。


(きっとどうせ、後から追いついてくるだろうし)


 ヤンデレのケがあるミニフレのことを思いながら、ユーナは宿を出た。

 心細いのでできる限り早く追いついてほしいと願いながら。


(……若干アレなところもあるけど、でも、自由意志で私のところにいたいと言ってくれてるのは嬉しいよなあ)


 てっきりドラ子がユーナについてくるのは、ミニフレ的な、強制的なシステムのようなもののせいだと思っていた。

 しかしドラ子が言うには、それはドラ子がそうしたいからするだけのことのようである。


(帰るくらいなら殺すとか……熱烈すぎて、いや……照れるね!?)


 照れるところではないはずなのに、ユーナは照れた。寄る辺のない身だからかもしれない。

 相手がミニフレでなければ落ちてしまっていた気もする。

 けれどドラ子はミニフレだからこそ、ユーナを慕ってくれているのだ。

 本人も若干わかっているようだった。


(やっぱいつか、色々気づいて私から離れていくこともあるだろうし……ドラ子にはドラ子の人生があるだろうから……覚悟しておこ)


 現実というものは一期一会だ。

 泣いても笑っても、そういう時は来るものだし、来てしまった時のために、既にユーナは動き出している。


(この道を渡って、と)


 大通りに出たユーナは、馬車が見えないのを確認してから渡っていった。

 この辺りの道はもうすっかり覚えてしまっている。

 ユーナは迷うことなくアウリの暮らす長屋にたどり着いた。

 

「ごめんくださーい。アウリくんいますかー」

「……います」


 ユーナはできる限り明るく声をかけたのだが、返ってきたのは低く小さな声だった。

 ドキリとして、ユーナは自分を落ち着かせるために深呼吸した。

 これから会うのは、モンスターに片足を食い千切られてしまった不幸な少年である。

 下手なことを言って、傷つけないようにしなければならない。

 弟子にするというのがもう、とんでもないことのように思えてきたけれど、今更その発言は引っ込められないので置いておく。


「お邪魔しまーす……」


 部屋は、前に来た時と同じくらいの汚さだった。

 アウリはその部屋のベッドを背に、身体を起こしていた。

 その右足には膝から下がなく、先端には包帯が巻かれている。


「その……」


 ユーナが、改めて目の当たりにした彼の状態に言葉を失っていると、彼は倒れるように床に手をついた。

 身体を支えられないのか、とユーナが慌てて近づこうとすると、彼はその状態で話し出す。


「この度は、おれのために捜索依頼を受けていただいて、ありがとうございました」

「あ、その、ご丁寧に」

「しかも依頼料が……弟子にしてもらうこと、なんて。まるでおれが、報酬を受け取っているみたいだ」

「嬉しいことかなあこれ」


 アウリの意見を全く聞かず、勝手にユーナが指導者になって、色々教えるつもりになっていた。

 本人の意志の尊重的な意味で、乗り気なのはいいことなのであるが。


「あたりまえだ。なんでも言いつけてほしい。学ばせてもらえることがあるのなら、なんでもやる。この足でできることがあるのなら。兄ちゃんにこれ以上、苦労をかけないようになれるのなら」

「苦労だなんて――」

「苦労に決まってる! 科学者ギルドに入って、借金してまで勉強したのに追い出されて! しまいにはこんな身体になっちまった! おれはレイミのために兄ちゃんのためにも何にもできなかった! できないようになった! ……ただの負担でしかない、お荷物だ!」


 アウリの言葉を、ユーナは否定できなかった。確かに重荷ではあるだろう。

 生きているだけで嬉しいだろうけれど、この部屋から察せられる生活水準だと……。


 そして、何もできない自分を疎ましく思うアウリの気持ちも、ユーナには少し理解できてしまった。


「うんうん、それじゃとりあえず、条件をお互いに確認しておこうか」

「条件? 免許皆伝の条件、とかか?」

「あー、そういうのもいる? でも待って、それはすぐに考えつかない」

「……金、か?」

「そうそう、お金のこと」

「は、払える金なんてないぞ!? まだ借金も残ってるんだ!」


 アウリは叫んで後ずさりした。その顔は恐怖に引きつっている。

 よほど科学者ギルドで作ってしまった借金のことがトラウマらしい。ユーナは慌てて否定した。


「いやいや、科学者ギルドみたいにレシピを教えるのに金を支払わせるとかじゃなくってね! ――レシピを覚えて、魔法薬が作れるようになった後のこと!」

「つ、作れるようになった後……?」

「そう。まず初めに、私に教わっている間は、作った魔法薬を売って出た利益は半分もらう」


 半分はいくらなんでも酷いか……? と思いつつ、ユーナはとりあえず言ってみた。

 この世界の市場には値切り文化があるようなので、後で値切られてもいいように高めに伝えておかねばならない。


 ユーナも、この世界に来て一ヶ月ほど生活している。

 値切ったり値切られたりにも慣れてきたところだ。

 どんな風に値切られても、適度な値下げで対応してみせる、とユーナが意気込んでいると――アウリは気を取り直して応えた。


「それでいい、わかった」

「えっ、わかった?? 値切らないの??」

「値切る? 何を?」

「半分も持っていくつもりか……とか……」

「師匠についてる弟子が、作ったものの代金を師匠に渡すのは普通のことだぞ? そもそも、半分は多いと思うけど……」


 アウリは堪えきれないとばかりに笑っている。


「魔法薬を作れたら、って。もうおれが作れることになってるのかよ!」

「それはそりゃーなるんだけど。そんなことより、それじゃあさ、優秀な弟子とか、いつまでも師匠に搾取され続けちゃったりするんじゃないの? 大丈夫??」

「そういうのは周りでも目をかけてるから、師匠が不当な扱いをしていたら指摘したり、後は引き抜いたりするから大丈夫だろうな」

「へえ、そうなるんだ」

「で、条件ってそれだけ?」

「えーっと、それぐらい?」

「よくわかってないみたいだな? 魔法薬で出た利益の半分より、見習い賃金出した方が安上がりだと思うけど――もしおれが本当に魔法薬を作れるようになるって思ってるなら」

「値下げ交渉をされるとは思わなかったね!?」


 もっと搾取しろと言われ慌てるユーナを見て、アウリは肩を竦めた。 


「よくわかってないみたいだし、後々条件を思いついたら言ってくれればいーよ。あんたならむちゃくちゃなことは言わないだろうって兄ちゃんも言ってたけど、本当みたいだし」


 アウリはユーナを宥めるように言ってから、姿勢を正した。

 そして深々と頭を下げた。今度はユーナも、彼が倒れかけたとは思わずそれを見守った。

 状況についていけず、ぽかんとした顔ではあったが。


「アウリと言います。南門で兵士をしているクスタヴィの弟で、十一歳の科学者です。これからよろしくお願いします、師匠」

「よ、よろしくお願いします、ユーナです……本当にいいの? 大丈夫? 私に騙されてない?」

「……騙されるって、何ですかそれ? 師匠が浮世離れしてる感じで、おれが騙していないか心配なくらいですよ」

「け、敬語になってる!」

「そりゃ、師匠相手にタメ口ではいられませんし。あ、でもちゃんとした敬語じゃないみたいで、変なところは言ってください。直します」


 師匠と弟子のけじめを示す中学生くらいの少年を前に、ユーナは震えた。


「ゆ、優秀な弟子を持ってしまったかもしれない……」

「まだ何にもしてないですよね?」


 そう言いながら、アウリは照れたようにはにかみ笑った。

 その笑顔は辛い目に遭おうとも明るい、年相応の少年のものだった。






「早速なんだけど、錬金釜は持ってる?」

「はい、ここにあります」


 アウリはベッドの下から布の包みを引っ張り出そうとした。

 それは重そうで、踏ん張ることのできないアウリがやるには重労働のようだった。

 なのでユーナがひょいと手を伸ばして引っ張った。

 簡単に出てきた錬金釜を見て、アウリはユーナと錬金釜を見比べた。


「ち、力強いですね」

「引いた顔をしないで! これそんなに重いの?」

「兄ちゃんでも持ち上げるのはヒイヒイ言ってましたよ」

「そうなんだ……とりあえず見せてもらうね」


 布を開くと、中には小さな釜が入っていた。大きさは飯盒くらい。

 鉄でできているのか鈍い黒灰色をしていて、ところどころ錆びている。


「……うーん、完全にチュートリアル用の釜って感じ」

「ちゅーとりある、ですか?」

「初心者用の、ってこと。そのうちこれも設備投資しないとね」


 ランクでいうなら最低値のE以下のように見える。

 けれど、チュートリアルの釜でも、一番回復量の少ないHP回復の魔法薬である、スモールヒールポーションくらいは作れるはずである。


「じゃーとりあえず、やってみようか。まずはスモールヒールポーションから! 作り方はわかる?」

「スモールヒールっていうのはよくわかりませんけど、ポーションの作り方ならレシピを買いました。まず、必要なのは薬草」

「そうそう、薬草」

「そしてイモリの爪、海の魚の生き血、ゴキブリのたいえ――」

「ステイステイステイ! 待って!?」

「え……っと、何か間違っていたでしょうか?」


 ユーナはアウリを注視した。

 思春期の男の子らしさで、面白そうなものを適当に入れてみようとしているのかと思ったのである。

 しかし彼の顔は真剣そのもので、年齢にそぐわない大人びた表情が不安げに歪んでいた。

 ユーナは、判断に迷った。


「んー、……えーっと、私の知ってる材料とは……違うみたいなんだけど……?」


 そのレシピは間違っている、と断定するのは早いかもしれない。

 もしかしたら、ユーナの知っているものと違うだけで、魔法薬というのは作れるものなのかもしれないのだ。


 ちなみに、ユーナが知るスモールヒールポーションのレシピは薬草と水。

 以上である。


「で、でも、科学者ギルドで買ったレシピにはそう書いてありました! 待ってください、見せます!」

「慌てなくていいからね……!」


 ユーナの言葉など聞こえていないほどに、アウリは必死だった。

 籠を逆さにして、這って部屋を探し回る姿は鬼気迫っていた。


「間違ってるはずが、ない! だって、買ったんだ。働いて、受験料を払って、試験をして、合格して! もっとたくさん働いて、それでも足りなくて……っ、兄ちゃんに無理言って、借金までした!」

「アウリ……」

「あ、これだ。あった、ありました! これです! 科学者ギルドで買ったレシピ!」


 アウリはユーナに黄ばんだ封筒を差し出した。

 封もされていなかった様子のその封筒の中には、二つ折りの紙が入っていた。

 それを取り出して内容を読む。

 その几帳面な字は異世界語に不慣れなユーナにも読みやすい字だと思わせた。


 そこには確かに、アウリが言った通りの材料が記載されている。

 その題名は〈ポーションの作り方〉。


 思わずユーナの眉間に皺が寄った。ユーナの知るポーションのレシピとは違いすぎた。


「アウリ、これ、いくらだった?」

「……10000ルピス、です」

「ポーションの値段の、二十倍か」


 もしもポーションを作れるようになるのならば、不当と言うほどの暴利ではないのかもしれない。

 しかし、ユーナの呟きをアウリはおずおずと否定した。


「いえ、ポーションのはもっと高いです、けど」

「高いの?」

「は、はい……基本的にオークションにかけられるみたいなので、値段はまちまち、みたいですけど」

「……店売りしてないの?」

「するほどの量は、ないと思います」

「それじゃ、冒険者は大変じゃないの?」


 彼らはどうも、女神の旅人がいなくなったこの世界でモンスターを倒す役目を一手に引き受けている。

 この町には回復魔法士(ヒーラー)もないようだし、魔法薬という回復手段もないのでは、怪我をした時にどうするのか。


「……すごく、大変だと思います。怪我をしたら、大抵死にます。おれの親父もウルフに噛まれて死にました」


 アウリは自分の失われた右足を眺めながらも、笑ってみせた。


「おれはすごく、運がいい。おれもウルフに足を食い千切られた。だけど助かりましたから!」

「そうだね……きっとこれからは、何もかも上手くいく」


 ユーナは改めてレシピを見下ろした。

 オークションに出されることがあるということは、ポーションができないというわけではないようである。

 一応、このレシピに書かれたえげつない材料の中に、薬草は入っているし、できないこともないのかもしれない。


「……間違ってる、とも言いきれないよね。多分、私の知っているのと違うだけで」

「そ、そうですよね!」

「でも、私この材料が入ってるの飲みたくないから……私の知ってるレシピで作ってもらうからよろしく」

「――師匠は学者(スクーラー)、ですよね? その、学者だから、色んなことを知ってるんだろうけど……流石に、魔法薬のレシピについては、科学者ギルドの方が正しいんじゃ?」

「生意気言うのはこの口かー!」

「うわっそれ、頭です!」


 ユーナはアウリの髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやった。あまり洗われていない手触りである。


「今、アウリの師匠は私なんだから、私の言う通りにとりあえずやってみて! サクサク行くよ! さっさとSP回復薬を作らなきゃいけないんだから」

「――それは」

「勿論、私がお世話になってる宿の、お嬢さんのために」

「レイミに、魔法薬を使ってもいいんですか!?」


 アウリの中で、ユーナは病気の女の子のために魔法薬を分けることも許さないような鬼畜であるらしい。


「使わせないわけがないよね……? そのために君の育成をしようとしたようなものだし。まあ金のためもあるけど」

「おれに、本気で作れると思っているんですね」

「そりゃあ、勿論」


 ユーナの返事を聞いて、アウリは歯を見せて笑った。


「それじゃあ、師匠のやり方で、作ります!」

「よーしよく言った。ドラ子に薬草は摘んできてもらってるから、あとは水。水ある?」

「あります! 外の井戸に――汲んできます!」

「やめて!? 私が行くから大人しくしててね!?」


 木の棒杖にしがみつくような格好で外に出ようとしたアウリを押し止め、ユーナは自ら井戸の水を汲みに行った。

 釣瓶を井戸の中に下ろして、水を掬ってからロープを引っ張るタイプだったが、ぐいぐい汲めた。全然重くない。

 普段生活をしている時に、物を壊したりはしないのに、やはり力が強くなっているんだなあとユーナは遠い目になる。


「ま、まあね……便利でいいね! っと、よし」


 水道がない今、アナログな方法が苦にならないのはメリットでしかない。

 水瓶を水で満たして、ユーナはアウリの元に戻った。

 アウリはユーナから差し出された薬草と、水瓶を受け取った。


 ユーナはアウリが〈メイク(薬)〉するのを待った。けれど、彼は呆然としたまま固まってユーナを見上げている。

 指示を待っているようだった。


「あのー、メイクしてみて?」

「……メイク? って、なんですか?」

「えっ……と、科学者のスキルだけれど」

「科学者のスキルは、魔法薬を作ること、じゃないんですか?」

「魔法薬を作るのもある、って言った方がいいかもね」

「ど、どういう意味ですか……?」

 

 ユーナとアウリは、暫しお互いの顔を怪訝な表情をして見つめ合った。

 最初に口火を切ったのはアウリだった。


「その……薬草をどんな風にすりつぶすか、とか、水とどういう手順で混ぜ合わせるか……とかいったことを、教えてもらえるのでは……?」


 アウリの声が、自信なさげに、どんどんと小さく、しぼんでいく。

 ユーナは、完全に固まっていた。


 ゲームでは、水と薬草を用意してスキルを使えば、一瞬でスモールヒールポーションが作れた。

 しかし現実で調薬をするならば、確かにアウリの言う通り、手順というものがあるだろう。

 アウリが10000ルピスで購入したというレシピにも、魔女の調合のような怪しげな手順が書かれている。


(でも……そんなの私にわかるわけないよね!?)


 もしもこの世界の〈メイク〉というスキルが、ただの技術のことを言うのであれば――大見得を切ったというのに、ユーナには彼に教えてあげられることが何もなかった。

むしろ弟子が受難


感想などなど! ありがとうございます!

個別には返信していませんが、全部何度も読み返させていただいています。

また投稿時間については盲点でした……全然気づいていなかったので、ご指摘いただいてとても助かりました。

この話については、せっかく書き終わっていたので午前0時に投稿させていただきますが、明日は午後17時の投稿にしてみます!

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