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二人の葛藤

「…。」

「…。」

 無言。花音さんは無表情で俺の顔をじっと凝視する。理由はどうあれ俺たちはフッたフラれたの関係。二人きりの部屋でこうして向かい合うのは正直気まずい。向き合うこと数十秒。花音さんは俺の視線に耐え兼ねたようにぷいと目を逸らして俺を素通りする。花音さんが座ったのは俺から一番遠い席。普段は視力で不自由する俺をサポートするために近くに座ってくれるのに…。まあ、自業自得か。分かってはいても心がざらついてどうしようもない。俺はすっかりぼやけた花音さんの影を放心しながら眺めていた。

「椿くん、そんな未練がましい顔しないでちょうだい。わたしをフッたのはあなたでしょ?」

「う…!」

 それを言われると返す言葉もない。彼女に迷惑を掛けたくないからなんて御託を並べたところで、結局彼女の必死の告白をいなしたことに変わりはないんだから。

「…なあんてね。本当は断りたくなかったんじゃないの?」

「!!」

 俺は驚きのあまり目を見開いた。

「だって断るときの椿くん、ものすごく悲しそうな顔してたから。断ったのは私に迷惑かけたくなかったから。…違う?」

「…うん。」

「椿くん、優しいもんね。」

「…。」

 花音さんがしみじみと呟いた一言が、俺には当てつけのように聞こえた。あれこれと必死に悩んで悩んで。そして意を決しての告白だったに違いない。それをすげなく断る俺が優しいはずないじゃないか。

「あのさ、花音さん…怒ってる?」

「どうして?」

「いや、なんかその…。」

 俺は言い淀んだ。勝手にフッて、勝手に責められてるみたいな被害妄想して。今の俺があまりにも身勝手すぎるから。

「別に怒らないわよ。椿くんの気持ち、分からないわけじゃないから。…でもさ、正直悔しい。」

「悔しい?」

「わたしは椿くんのこと迷惑だなんて思ったこと一度もないよ。外に出られない体質も、目も悪いことも。なのに椿くんったら迷惑かけるからって自分の気持ち押し殺してまで断って…。いっそ嫌いだってフラれた方がよかった。こんなのやりきれないじゃない。」

「…ごめん。」

「謝らないでよ。そんな申し訳なさそうにされたらこっちが悪いことしたみたいじゃない。勝手に告白して、勝手にフラれて、勝手に怒って…。自分が子どもみたいでイヤになる。」

「…。」

 相変わらず花音さんの表情はよく見えない。俺はどう言葉を掛けていいか分からなかった。花音さんの手を取りたい。でも、こんな特異体質の人間が恋人になれば絶対迷惑しか掛けない。花音さんはそんなことないって言うけど、それでも君を困らせるかもと思うと怖いんだ。

「ごめんね、変なこと言って。でも、今心の中ぐちゃぐちゃで自分でもどうしていいか分からないの。」

 頭を抱える花音さんを前に、俺にはどうすることもできなかった。できることがあるとすれば、彼女をそっとしておくことくらい。みんなが集まる頃合いまで適当にどこかで時間を潰そう。俺は彼女に背を向け、無言のまま部屋を出た。


水曜日の投稿を夕方ではなくお昼に変更したいと思います。日曜日の投稿はこれまで通り夕方の予定です。

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