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椿の友人②

「ただ~いま~!」

 帰ってきた玄輝たちを出迎える頃には、すっかり日も傾き、西の空では太陽がオレンジ色に照り輝いていた。この時間まで遊んでたこと、そして、何よりも満足そうな二人の笑顔を見るからに、楽しい一日を過ごせたみたいだ。

「結局ずうっとサッカーしてたの?」

 二人は顔にさらさらとした汗の雫をためて、服もじっとりと汗で湿っていた。

「まあね。」

「よく飽きないね。二人だけでやってたんでしょ?」

「いや、途中からサッカー部の友達も呼んでた。」

 匠がにっこりと笑いながら額の汗をシャツの裾で拭った。

「玄輝さあ…。とんでもなく上手(うめ)えからさ。こりゃオレなんかと二人でちまちまやっててもつまんねえだろうって思って。」

「オレなんかとって…。匠だって十分上手なんじゃなかったの?」

 俺はこの体質のせいで匠がサッカーしてるところを見たことがないから、あくまで伝聞だけど。それでも女子グループが匠のことをコソコソ喋ってたのを聞いた限りではそれなりに実力は折り紙付きのはずだ。

「あ~…それなあ…。」

 匠は苦笑を噛み殺して頭を掻く。

「うちの中学って、オレたちの小学校と、他二つの小学校の奴らが合流するんだけどよ…。他の小学校から来たやつが揃いも揃って化け物ばっかでさあ…。オレなんて未だにベンチだよ。」

「ウソ…。」

 俺は目を丸くした。確かに去年はベンチだって言ってたけど…。それは一年だからで、二年に上がれば試合に出るんだろうと思っていた。

「ごめん…。」

「いいっていいって。」

 いつも通りの愛想いい笑顔で笑って許してくれる匠。でも、匠だって相当な実力を持ってるはずで…。そんな匠ですら化け物と思うほど歴然とした実力差を突きつけられるような奴ってどんな奴なんだ…?俺はどうやってもうまく言葉に表せない、空恐ろしさを感じた。

「それより椿、どうせなら最初からちゃんと言ってくれよ。とんでもねえ天才サッカー少年だって。」

「へ?」

「へ?ってなんだよ。どうせ知ってたんだろ?玄輝がサッカーすんげー上手いこと。」

 匠はふんと面白くなさそうな顔で俺を見下ろす。…いや、そんなこと言われたって困る。だって、玄輝がサッカーどのくらい上手かなんて知らないんだし。

「今日呼んだ奴の中にはその化け物くんもいたわけよ。うちのサッカー部の天才ストライカーだ。玄輝のやつ、そいつの攻撃をあっさりカットしてそのまま一気に攻め上がってシュート決めるんだからよ。ストライカーくんもびっくりしてたぜ。『匠、こいつどこでこんなの見つけたんだよ!』って。」

「あれはこっちがびっくりしたよ。あの子、ものすごい顔でどうやったらそんなに上手くなるんだとか普段どんな練習してるんだとか色々まくし立てるように聞いてくるんだもん。」

 俺は顔を引きつらせて玄輝を見る。嬉々と語る匠の横で玄輝は涼やかな顔で唇を尖らせている。匠が化け物だと思う天才が見込む天才って…お前…。俺の思考回路は今にもショートしそうだった。

「終いにはあいつ、おれの練習付き合ってくれ!ってめっちゃ懇願してた。…なあ、やっぱりダメか?鬼気迫る勢いで頼み込んでたけど、アイツ、そんな悪い奴じゃないからさ。」

「ゴメン。一緒に練習とかそういうのはちょっと…。」

「…そうか。悪かったな、玄輝。」

 目を伏せて断る玄輝を見て、匠はそれ以上言わなかった。そりゃあそうだ。なにせ一週間経ったら未来に帰る身だ。あくまで玄輝をこの時代に飛ばした老婆の話でしかないけど。そうなれば件の天才ストライカーくんにはもう二度と会えないわけで…。ここはきっちり断っておく方がいい。

「でもまあ玄輝、お前と今日一日サッカーできて楽しかった。ありがとな!」

「こっちこそ、タクちゃん。」

 今日一日で二人はすっかり仲良くなったみたいで、本当に幸せそうないい笑顔だった。匠を呼んで正解だった。

「にしても椿、お前の家系って美男子の血でも流れてんのか?」

「うん?」

「お前も、お前の親戚だっていう玄輝も。すっげー綺麗な顔してんじゃん。」

「親戚?」

 おいおいちょっと待て!玄輝のやつ、勝手に設定付け足したのか!?恐る恐る玄輝に目配せすれば、神妙そうに手を合わせていた。

「玄輝のこと何も聞かなかったオレもオレだけどさ、玄輝のこと何一つ話してくれなかった椿も椿だぞ。あの人が気付かなかったらお前と玄輝の関係知らないまま終わるとこだったぜ。」

「あの人って…サッカー部の友達?」

「いや、ユキさんだよ。」

「ユキさんってまさか…。」

 俺は背筋がみるみるうちに凍っていく感覚を覚えた。俺や匠が知ってる「ユキさん」なんて人は、あの人しかいない。

「そう。雪江(ゆきえ)先輩。」

「!!」

「オレたちがサッカーしてるところたまたま通りかかったみたいでさ。玄輝の顔見ていきなり『椿の親戚?』って聞いてきて…。そしたら玄輝がそうだって答えて。それで初めて分かったんだよ。お前と玄輝が親戚だって。」

 後半はほとんど聞こえていなかった。まさか…まさかよりによってあの人に知られるなんて…。胸がどんどん重たくなっていくようだった。


7/1(日)の更新はお休みです。次回の更新は7/4(水)に行います。

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