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白亜邸にて②

「あなた…一体何者なの…!?」

「僕かい?僕は…吸血鬼なんだよ。」

 数日前に花音さんを振った後ろめたさを必死に拭い去りながら、第一ボタンに手を掛ける。そのとき、偶然に少女と目が合う。彼女の目に宿るものは底の知れない恐怖…ではなく、恥じらいとときめき。顔も青白く染まるどころか、むしろうっすらと桃色に染まっている。数日前、二人きりの部室で告白してきた花音さんの顔そのものだった。目の前の哀れな人間の少女は忽ち俺の見知った女の子に変わっていく。いつも俺を優しく支えてくれる、可憐なクラスメートに。現実という崖の底に落ちていかないようにどうにか右腕一本の力で必死に粘る。垣間見える現実を振り払うかのように襟口をぐいと引っ張る。彼女の細くて白い首筋めがけて大口を開く。首筋に顔を近づけると一層まざまざと感じる、彼女の白百合のような甘い香りにくらくらと酔わされながらも、俺は一思いに噛みついた――


「は~いオッケー!」


 例によって号令をかけるのはユキさんだ。いつもは飄々とした笑みを浮かべているユキさんが珍しく顔を曇らせていた。

「二人ともちょっとこっちに来て。」

 ユキさんがいつになく重たい口調で俺たちを呼ぶ。

「結論から言うと…。昨日より悪化してる。理由は…二人が一番よく分かってるよね。」

 やっぱりユキさんは勘付いていた。俺たちに何があったのか。

「そんな神妙な顔しなくてもいいよ。二人のことちゃんと配慮できなかったオレの責任だ。」

「ごめんなさい…。」

 示し合わせたわけでもないのに俺と花音さんの声が重なる。その気まずさからお互いに横目でちらりと相手を見る。

「でもね、これはいい機会だと思うんだ。今まで理屈で蓋をしていた気持ちと向き合う…ね。まだ本番まではたっぷりと時間がある。部外者が口を出す問題じゃないことは承知の上だけど、一度どこかでじっくり二人で話し合ってみてもいいんじゃない?」

 いつもの含みある微笑。ユキさんの微笑みは、あたかも答えを知っているようだった。その笑顔とは対照に、俺はどう頑張っても作り笑顔さえできなかった。


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