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劇練前の不穏

前回言いそびれましたが、本日は都合によりお昼の更新とさせていただきます。

「おはよう、椿!」

「あ、おはよう。」

 いつものようにみんなより早く来て練習の準備をしてると、颯が爽やかな笑顔を浮かべて入ってきた。颯は部室の引き戸を開け放したまま、適当な椅子にどっかりと腰を下ろした。

「ちゃんと閉めてよ。」

 不満を零しながら扉に近付いたそのとき。

「あっ…。」

 部室に入ろうとした花音さんと真正面からかち合った。俺が無言のまま横に退いて道を譲ると花音さんは無言でそそくさと部屋に入った。胸の中でモヤモヤしたものがはびこるのを感じながら、今度こそ扉を閉めようとしたそのとき、颯がとんでもない一言を言ってのけた。

「椿さあ…失恋でもしたの?」

 引き戸の取っ手に掛けた手が凍り付く。

「…何の話?」

 なるべく平静を装いながら恐る恐る振り返る。面白そうに口元を緩める颯の隣では花音さんが気まずそうにそっぽを向いている。

「椿は言わないの?髪バッサリ切ってきた人に。」

「え?…ああ、そういうこと。」

 よかった。花音さんとのことはバレてない。俺は内心ホッとする。

「椿、いつもと違って似合ってるよ。その髪型。花音ちゃんも思わない?」

「え、あ、うん…。」

「いつもは格好とかテキトーな椿がねえ…。こ~んなオシャレな髪型しちゃって…。あ、そうか。失恋じゃなくて恋でもした?」

「!!!」

 俺はボイルされたみたいに全身がかあっと熱くなる。

「図星だね。ねえねえ、どんな子なの?詳しく詳しく。」

 虫も殺さないあどけない男の子のような顔とは裏腹に、颯は興味津々な目で俺の周りを煽るようにちょろちょろと動き回る。

「え…。椿くんって彼女いたの?」

 社交辞令のようにドライな顔で尋ねてくる花音さん。平静を装ってるみたいだけど、目にはしっかりとドロドロした嫉妬が色濃く出ている。

「いやいやいやいや…。いない!いないから!!てか俺みたいなのに好意向けられても迷惑じゃない?こんな見た目だぞ。」

「とか言いつつ、それとなく想い人にアピールするためにふんわり可愛い髪型に…。」

「なわけないだろ!この髪はな…いろいろあったんだよいろいろ。」

「恋愛とか疎くて奥手っぽかったのにやるねえ。カッコよさじゃなくて可愛さで勝負って上級者すぎんだろ。自分の魅力分ってる証拠だ。気になるあの子の心くすぐるあざとさで…。」

「んもう!しつこいなあっ!」

 それとなく花音さんを一瞥する。その目はあたかも物陰に隠れてじっと様子を窺う豹のようだ。いつもは優しくて上品な彼女がこんな恐ろしい目をするのなんて初めて見た。

「花音ちゃんはどう思うよ?椿のやつ、絶対彼女隠してるよな!」

「んー?」

「こわっ!目ぇ据わってるよ花音ちゃん!」

「あっ…。」

 やってしまったとでも言わんばかりに花音さんは気まずそうに目を伏せる。

「ごめん…。」

「いいっていいって。…でさ、花音ちゃんどう思う?」

「う~ん分かんない。でも、椿くんはいつも通りの方がいいと思うけど。」

 当てつけのような笑ってない目を向けた後、花音さんは空いている席の一つに着いた。今日も今日とて俺から一番遠い席に。…まったく。颯のやつ、余計なことを…。俺はピシャリと乱暴に引き戸を閉めて自分の椅子に戻った。途中で死角から颯を思いっきり睨みつけて。

 それからしばらく部室には三人だった。息が詰まるほど重苦しい空気の中、俺と花音さんはあくまでも沈黙を貫き通した。事情を知らない颯は意味が分からないとばかりに交互に俺と花音さんを見た後、今は話しかけない方がいいと悟ったのか、いそいそと台本に目を通し始めた。


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