Part 24-5 Palm Answer 手のひらの答
W.54 St.-6 AV. Midtown Manhattan, NYC 17:50
午後5:50 ニューヨーク市 マンハッタン ミッドタウン 6番街54丁目
ニューヨーク中心地区のミッドタウンを縦に列なるアメリカ街とも呼ばれる六番街に隣接する大型高級ホテル・ヒルトン・ミッドタウンの東側に路駐した指揮車輌の中で、四人の男女が膝をつき合わせスモークガラス越しに祝日前日の賑わいを見せる人通りを見つめていた。
「長官代理、本当に核爆弾の場所がこの辺りだと、なぜ分かるんですか?」
ベリーズ・リーサウェイNY支部副主任捜査官から尋ねられサンドラ・クレンシー長官代理は人混みから視線を膝に乗せたノートPCへ向けるとパッドを数回操作し画面をベリーズへと向けた。
「テロリストらが狙うのは殆どが商業地区だ。なら居住区が大半をしめるアッパー・マンハッタンは狙わない。セントラルパークより南側を焼け野原にしようとするだろう」
液晶画面を上から覗き込みながらクレンシーが指で範囲を示しながら説明するのをベリーズとララ・ヘンドリックスは食い入る様に見ていた。
「そして連中は二つの爆弾を手にそれらを有効に使おうとする」
そう言って彼はチェルシー地区とグラマシー地区の中間、六番街を中心にマンハッタンを呑み込む円を描いた。
「爆心地が完全に重ならない様に、しかもどちらか一方が我々の手に堕ちると予想して爆心地を設定すると、残り一つでも十分に商業地区を取り込めるのは、ここと、この二ヶ所のどちらか一方だ」
そう言いながらクレンシーはミッドタウンの北側と、マンハッタンの南部中心のグリニッヂ・ビレッジの辺りを中心に二つ円を描いて見せた。
「どうして東西に仕掛けないんですか?」
今度はララが彼に尋ねた。
「東西に散らすと爆焦範囲の多くが、ハドソン川とイースト川に掛かり無駄になる。効果的に都心部を壊滅するには、互いが出来るだけ重なり合うよう、しかも中心をずらす必要があるからだ」
マーサ・サブリングスは窓枠に片肘をつき持ち上げた右手に頬をあずけ説明するクレンシーの横顔を見ていた。確かにこの人の理屈には一利あると思いながら、FBIの捜査官達とNY市警の大多数の警官達を動員してすべての建物をしらみ潰しに捜して、もしも、核爆弾の二つどころか一つを発見出来なかった時のリスクをと考えていた。
直接の手足耳目となるNSA・NY支部の捜査官達殆どは、“ウルフ”──イズゥ・アル・サローム以外のテロリスト三人の阻止の為に西部のニューアークや南部のスタッテン島の主要道路に派遣したままだった。大規模な捜査を開始してすでに二時間半が過ぎていて、それでいて日中、つけ回した“ウルフ”すら行方をつかめずにいる。苛々していても始まらないのにと自分に言い聞かせ、クレンシーが言う様に、最も核爆弾の発見される可能性のある通りに陣取り、核爆弾を起爆させに集まるテロリストらを追いつめるのが良策なのかと自問し続けた。
いきなり彼のモバイルフォンが振動し始めマーサはそれを取り出す指先を眼で追った。
「──クレンシーだ。──そうか。分かった。恐らくはその地区にいないと思われるが、周辺の街も含め聞き込みを行ってくれ」
そう言って彼がスマートフォンをスーツに戻すと真っ先にマーサが尋ねた。
「何か、手掛かりが?」
「“ウルフ”が奪って逃走に使ったSUVがクイーンズで発見された。今、市警が手分けして聞き込みを行い始めたところだ」
川向こうだとマーサは思いながら、“ウルフ”は車を替えてマンハッタンに入ろうとしているのかと考え、いいや、そんなはずは無いと否定した。ニューヨーク近隣の道を中東から来たばかりの奴が熟知しているとは思えなかった。パトカーの一群に追われる事になれば逃げ切れない。そんな馬鹿な男ではない。ならどうする? マーサは窓枠から右手を下ろし自分の手のひらを見つめ呟いた。
「肩を撃たれ、穴の開いたコートや血まみれの服をいつまでも着てやしない」
それを聞いてクレンシーは即座にモバイルフォンを手にすると報せて来たクイーンズの市警分署にリダイヤルした。
「私はNSA長官代理のクレンシーだ。分署長に繋いでくれ──さっきの聞き込みの件だが、逃亡犯が服を買った可能性がある。それらしい中東人が防寒着を買っていたら、その特徴を──ああ、そうだ。優先し当たってほしい。それと──」
彼がスマートフォンの送話口を手で被いマーサに尋ねた。
「“ウルフ”はイエローキャブを使っているか?」
マーサは彼へ一度視線を向け自分の右手の指にそれを戻して頭振った。
「いえ、クレンシー。奴は特定される車輌なんか使わない、奴は──」
クレンシーとベリーズ、それにララがじっと見つめている事など気がつかずにマーサはまるでそこに解答が書いてあるとでもいうように手のひらを、指を見つめながら答えた。
「人混みにまじりまたサヴウェイを使ってる」
マーサがそう呟くとクレンシーは弾かれた様に携帯電話へ指示を伝えた。
「──それとクイーンズにある駅にも聞き込みを──そうだ。犯人は電車を利用した可能性が高い」
マーサは彼が分署長に指示するのを聞きながら、どうしてその様に思ったのか思考をまさぐった。分からなかった。ただ一日、命の駆け引きをしながら追いかけ回したからとしか考えようがなかった。“ウルフ”の──奴の行動がまるで自分の行動基準の様に思いえがく事が出来る。
奴はもうもうマンハッタン島に入り込んでいる。そう思いマーサは右手の指を力強く握りしめた。




