Part 23-4 Connection 伝手
St.Mary Hospital Midtown, NYC 19:40
午後7:40 ニューヨーク市 聖マリア病院
聖マリア病院に駆けつけた十数人の制服警察官が警備するなか数人の刑事が被害を受けた病院看護師や襲撃者の二人の中東人を打ち倒したニコルとシリウスの二人に事情聴取を行い中東人の男らは数人の警察官が監視につき同じ病院で治療を受けていた。
「──で、たまたま取引先のお子さんを見舞いに来たらライフルを持った男の一人が武装したまま集中治療室に押し入り、銃を捨てる様に警告したが従わなかったので肩を撃ったんですね」
刑事は念押しするようにそう言いながら、ニコルにNDCの社員証とHCP(/Handgun Carry Permit:拳銃携行許可)のカードを返した。
「ええ、銃口を向け二度警告したが、こちらとベッドの少女にアサルトライフルを向けようとしたので仕方なく」
ニコルが二枚のカードをパスケースに仕舞いながら用心深く対処したことを刑事に印象付けた。その直後ナースステーションから出てきた別の刑事がニコルの聞き取りを行っている刑事に何かを耳打ちした。
「アルタウスさん、貴方の仰る通りに二人の男らはナースステーションで押し問答をした挙げ句に看護師に暴行を働き、うち一人が武装したまま集中治療室に入るのが監視カメラに撮られてました。それに貴方は身元もしっかりされた方だし警察官からの話だと銃器のトレーナーとして警察に日頃から関わっておられるという事で今夜はこれ以上の聞き取りはしませんが、後日検察局から再度説明に呼び出されると思います」
ニコルが了解した旨を伝えるとその刑事は彼に一歩近づき小声で尋ねた。
「ところでアルタウスさん、貴方の所のランディさんは一体何者なんですか?」
「どういう事です?」
「いや、聴取にあたっていたうちの者が、ランディさんから電話を掛けたいと申し出られ許可したら、あの人がどこかに連絡を入れて直ぐに法務省から連絡が入り彼女と貴方を解放しろと」
「法務省?」
ニコルはどうしてシリウスが法務省などを動かす伝があるのだと疑問に思った。二人は傷害罪として連行され尋問されてもおかしくないはずだった。それを法務省のどの階層が圧力を掛けたのだと彼は一瞬知りたくなった。だがそれよりもミュウの事が気掛かりでニコルは刑事に護衛の警察官をつけてくれるのかと問い掛けた。
「ミュウに警護の警察官をつけてくれますか?」
「アルタウスさん、我々は少女が狙われたとは考えてません。アラビア語かペルシャ語かはっきりしないが中東の言葉が分かる捜査官がうちの分署にいないので本署から通訳が出来る警官を呼んで二人の容疑者を──」
刑事が説明している所へ聞き取りが終わったのかシリウスがやって来たのをニコルは横目で気がつき、彼女が終わったわとニコルに告げながら聞き取りに割って入って来ると言い出した内容に彼は呆れかえった。
「あの中東人二人は中央情報局の管轄で調べる事になりました。局員が二人の身柄を受けに来るはずです。それから私たちを解放するよう法務省から通達があったはずです」
彼女がそう刑事に告げると刑事は一瞬唖然とした面持ちになり肩をすくめ行ってかまわないと二人に告げた。
警護の警察官がつかないと言うのでニコルは病院のロビーからミュウのいる集中治療室に戻ろうとした。廊下で彼について来たシリウスが彼に尋ねた。
「核爆弾の事は話さなかったわ」
「ああ、私もだ。シリウス、君は法務省なんかにどうしてコネを持ってるんだ?」
「法務省にはないわ。姉が別な局の要職にいるの。姉に事情を話して働きかけてもらったのよ」
シリウスが即答したのでニコルは彼女が嘘をついてはいないだろうと思った。彼が病室の扉を開くとミュウのベッドは元の場所に戻されており、バイタル測定器が繋がれた少女は眠り続けていた。
「この子を調べるって、警官達が来る前に貴方は言ってたけれどNDCからパトリシアって人がもうじき来るの?」
シリウスの問いに彼は少女を見つめたまま答えた。
「ここにパトリシアは来ないが、もうこの娘とガールズ・トークをしてるさ。世界一の心理分析担当官が」
ニコルの謎めいた言い方にシリウスはわずかに苛つきミュウという若い女の子を見つめた。その娘が眉根を寄せて何かを呟いている事にシリウスは気がついた。彼女は一歩ベッドに歩み寄りミュウに顔を近づけ耳をそば立てると今度ははっきりとそれが聞こえた。
「嫌──私を放っておいて──私に近づかないで──パトリシア」
何が起きているのだとシリウス・ランディは理解出来ない不安が背を這い上がって来るのを覚えた。




