Part 23-2 Assault 襲撃
Islamabad Pakistan, West-Asia West 4:00 Nov. 23th.
11月23日午前4:00 西アジア西部 パキスタン首都 イスラマバード
埃っぽい空気が乳白色に染まる直前の時間、まだ朝の礼拝が始まるにはしばしの間があった。
パキスタン一の大都市とはいえこの時刻はすべてが止まっている様で大通りですら車やバイクの大群は走っておらず通りを歩く人影もまったくと言っていいほど見かけなかった。
その目抜通りを郊外からエンジンの音も響かせず風切り音だけを引き連れ六台の黒塗りのランドローバーが列なり走って来た。
車列は街の中心区へ抜ける道を避けいきなり右折すると黄土色の壁が連なる狭い路地へ入り急激に速度を落とし、街外れの裏道を静かに進みしばらく走ると前触れもなく停車した。
一斉にドアが開かれ降り立ったのは同じ装備の十三人の男達とサンドカラー迷彩服を着てAKS74自動小銃を手にした二人のイスラマバード警察官だった。
十三人は白人ばかりで名々がタンカラーの戦闘服を着込み同色のタクティカルベストの上には連なったパウチに予備弾倉を収めたチェストリグを装着しハーフヘルメットにゴーグルを着用しサプレッサーの付いたMCX Contractカービンを手にしたアメリカ海軍特殊部隊SEALsの第6グループ──通称DEVGRU(:デヴグル)だった。彼らはカザフスタンで別な作戦に就いていたが、急遽パキスタンに差し向けられた。
警察官の一人がデヴグルの男達に片手で民家の一つを指し示し何かを告げると特殊部隊を率いるガードナー少佐は喉元のスロートマイクに告げた。
"In that case, let's get the situation rolling."(:状況開始)
男達は即座に小銃を構え周囲すべてに警戒しながら速足でその民家へと向かった。その内六人が建物の横手を廻り込み裏へと急いだ。
残った男達は正面の扉の左右の壁に銃を構えたまま裏手に廻った男達が準備を調えるのを静かに待ち、その間に一人がバックパックから煙草カートンほどの二本のプラスチック爆弾を取りだし素早く均等割りしてドアの蝶番とノブ傍の壁に整形して張り付け、それぞれの端に二本ずつ信管を差し込んだ。
そうして点火線を曳き三ヤード(:約2.7m)横へ離れると煙草より小さなサイズの点火器に取り付けテスト・スイッチを押し込んだ。
それに小さな緑のランプが点くと爆発物をセットした隊員はガードナー少佐へ振り向き片手を肩の高さに上げ開いていた手のひらを握りしめ拳を作り破砕の準備が調ったと伝えると、その手に点火器を移し右手で胸の前にスリングで銃口を斜め下に向けぶら下げているカービンの銃握を握りしめ人差し指をトリガーの横へ伸ばし用意した。
それから一分も経たずにガードナー少佐のイヤープラグにコンディション・グリーンと裏手に廻った男達から連絡が入ると少佐は頷きその動作を見ていた全員は抑制された緊張状態に自らを高めそれぞれの銃の引き金に人差し指を乗せた。
点火器を握った隊員がセーフティを押し上げボタンに指を掛け押し込んだ瞬間蝶番とドアのデットボルトが入り込んだ壁の端に爆発が起きた。
やや間を置き建物裏手の方からも爆破音が響いた。
まだ白煙も薄れない直後取っ手側にいた隊員がノブを引きドアを外へと引き倒した。そのドアを踏みつけ小銃を構えた六人が立て続けに速足で室内に突入した。
ガードナー少佐は二番目に室内に突入し先頭の隊員が銃を振り向けている逆側にカービンの銃口を振り向けた。正面出入口に直に面した部屋はリビングの様な作りで小さなテーブルと左手の壁にソファが一脚据え置かれていた。
少佐が部屋の要所を素早くドット・サイトのFOV(:光学照準器を通して見える視界)で流し見てスレット(/Threat:脅威、敵)となるものを探していた最中に先頭の隊員が短連射し何かが倒れる音がした。
ガードナー少佐が一瞬振り向くとAK-47を手にした男が部屋の右手に面した出入口の際に倒れていた。先頭の隊員が素早くその出入口右手の壁に銃を構えたまま背中を押し付け出入口の先の気配を探った。
少佐と三人目の隊員が左手の壁に張りつき、四人目と五人目が右手に走った刹那出入口の奥から小銃を連射する轟音が響き始め出入口正面の壁が激しく穿たれ土煙が広がり始めた。先に突入した出入口右手の隊員は膝を曲げ背を壁際に落とすとカービンを床ぎりぎりに出入口の先の廊下へ突きだし連射した。
勘を頼りにした射撃だった。ダメならと少佐は左手でチェストリグのポケットに入れた手榴弾に手を伸ばした。だがデヴグルの隊員が反撃を始め三秒もかからずに奥からの轟音が事切れた。
出入口左右の二人は奥の気配に耳をそば立てたが狭い建物内で敵から連射された為に耳がまともに音を拾っていなかった。
意を決してガードナー少佐は出入口奥へと身をのり出しカービンを振り向けた。暗い廊下の先にAKを握りしめたままの男が横の出入口から半身だけ覗かせ倒れ呻いていた。
少佐はドットサイトの中心に倒れた男の頭部を捉えたまま素早く近寄ると片足で男の手首を踏みつけ左手でアサルトライフルをもぎ取り同時にその少佐の肩に手を掛け他の隊員が素早く廊下横の出入口の中へと身をのり出し新たな脅威がないかを調べた。
ガードナー少佐が他の隊員に廊下で倒れている敵の捕縛を命じようとした矢先に男は事切れた。少佐は立ち上がり再びカービンのストックを肩に押しつけ両手で構えると部下三人を引き連れさらに奥を目指した。
廊下の奥左手にも出入口がありドアが閉じていた。彼は二人を廊下突き当たりにある出入口へ向かわせ、自身は左手のドア傍の壁に立つとドア越しに中の音をうかがった。だが室内からは何の音も聞き取れなかった。
ガードナー少佐は片手でカービンを保持すると左手を横に突きだしドアノブをゆっくりと回しデッドボルトがドアに入り込むとわずかに押し開いた。その瞬間だった。短い銃声が連続してドアの中央に三つの孔が穿たれた。
彼は手首のスナップだけで弾くようにドアを押し開きその開口部にMCXカービンを振り上げ部屋へ横殴りにフルオートで銃弾を浴びせ銃を袖壁の陰に引き戻した。
少佐は手応えを感じて部屋の中を覗きながら直ぐに射撃出来る様に左手で銃握を握ると左肩にバットプレートを押しつけた。身体半身を覗かせ敵が身体を起こしていれば速射出来る様に構えた。そうして二呼吸するとカービンを振り向けながら部屋を覗き込んだ。
ドット・サイトの中央には部屋の奥のベッドに外へ足を投げ出して仰向けに倒れている男の下半身があった。
彼は右手にカービンを握り変え右肩にストックを押し付けながら部屋の中に半歩踏み出すなり左右の壁際へ銃口を振り脅威がないか確認すると再びベッドに倒れている男の胴体に照準しながら足早に近づいた。その男の顔が見えてくるとガードナー少佐は短く唸った。
アメリカの特殊部隊兵らがカービンを構え室内に入って行くのをイスラマバード警察官の二人は車の傍でじっと見ていた。
彼らはアサルトライフルを手にはしていたが、事案をアメリカの特殊部隊に任せ作戦に加わらないようパキスタン外務省高官から言い渡されていた。
彼らは白人の兵士達が突入するのを建物から離れじっと見守り事が簡単に終るとみていた。だが室内から複数のカラシニコフを連射する発砲音が響きだし警察官らは顔を強張らせた。しかしその反撃の銃声は散発的で長くは続かなかった。
しばらくして突入した二人の兵士が一人の男を間に抱え引きずる様に家の外に連れ出してきた。その鼻の下から顎にかけ白髪の髭を蓄えた高齢の男が誰なのか警察官らは知らなかった。
その男は右胸を撃たれており連れ出されるなり家の前の道端に寝かされた。遅れて建物から出てきた白人の兵士達の指揮官が警察官へ救急車を呼べと告げ、警察官の一人は慌てて無線機を手にすると本署へと連絡を入れ始めた。
銃撃が止んだ時点で彼らが乗ってきたランドローバーから一人のラフな姿の男が降りてきた。そのクリーム色のシャツを着込んだ男は襲撃した兵士から応急手当を受ける地面に寝かされた男に歩き寄ると顔を確認した。
白髪の髭を蓄えたその横たえられた男は苦痛に顔を歪めていた。シャツ姿の男が手当をする兵士に命は持つのかと短く問い掛けた。兵士が顔を上げ危ない状況だと告げるとシャツ姿の男は冷ややかな目付きで穿いているバーミューダーのポケットからイリジウム携帯電話を取りだし遠く離れた本国へと回線を開いた。
繋いだ先はバージニア州マクリーンのCIA本部だった。




