表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #22
79/155

Part 22-2 Conversant 精通

In the Sky, NYC 19:05


午後7:05 ニューヨーク市上空



 後部ランプが閉じきる前に床が持ち上がる感じを受けマリーは内壁に片手をあてバランスをとりVBCI装輪装甲車(:仏製装甲車)の横をルナの後ろについて通りすぎながら尋ねた。



「あなた達こんな装甲車、対テロ不正規戦に過剰な装備じゃないの?」



「そんな事ありません、チーフ。内政不安定な国で浸透介入しての対テロ戦において、作戦後に敵追撃部隊を振り切り、潜入部隊を武力撤収させたりするのに利用しています」



 対テロ戦が不正規戦である事は分かっていたが、マリーは“スターズ”が準軍事行動を行える装備を有している事をまだ受け入れられずにいた。



「これNDCで造ったの?」



 そう言ってマリーは顔の高さにある装甲板を叩いた。



「いえ、フローラのコネでフランスから輸入しました」



「“コネ──?”、“装甲車”を? あの人、何者なの?」



 マリーは意識にルナから受けた知識の中から情報が浮かび出る前に尋ねた。



「ああ、彼女のお父上が現職のフランス国防大臣ですので、そのつてです」



 マリーはフローラの勝ち気な性格の一端が理解できる様な気がして眉根を寄せた。



 装甲車を通り過ぎると解放感にマリーはほっとした。機内の左右の内壁には収納のパイプ椅子が前方に向かい伸びており、部下となったコマンド達が各々腰掛けていた。椅子には空席が多く完全武装のパラトルーパー(:パラシュート降下兵)が今の倍以上搭乗できるとマリーは思い自分だけがスーツでいることに違和感を感じた。



「ルナ、私が着られる戦闘服はあるかしら?」



「チーフ、私の予備をお貸しします。皆それぞれがオーダー・メイドで作戦服を作っています。貴女の体形に、精確には合わない服なので特殊効果は不完全ですが」



「“特殊効果”?」



 マリーが尋ねるとルナは傍の椅子に腰掛け拳銃を磨いていた赤髪のショートヘアーをしたジェシカ・ミラーに声を掛けた。



「ジェシカ」



「はい、サブチーフ」



「立ち上がって電子光学擬態(エミック)を作動させて」



 ルナが命じると直ぐにジェシカは右手に銃を持ったまま立ち上がった。マリーは何を始めるのだろうかと彼女をじっと見つめているとジェシカは左手の人差し指で自身の右手首に触れた。その刹那、マリーの青紫の瞳孔が一気に収縮した。



 眼の前に立つジェシカの身体に密着した戦闘服が右手首から他の部分へ向け虹色の光が駆け抜けるとその後に何も無くなってしまった。



 だがマリーは彼女が消えた事よりも戦闘服に被われていない首の途中からジェシカの頭部が空に浮いている事に背筋が鳥肌立った。



「どうなってるの!?」



「チーフ、ブラック・マジック(:黒魔術)です」



 空に浮いたジェシカが得意気に言い唇を尖らせて舌を少し出すと微笑んだ。戦闘服だけではない。ブーツも、グローブも、手にしていたFN・Five-seveNさえもまったく見えず直に内壁が見えているだけでマリーはその事が理解できずに恐るおそるジェシカの胸に手を伸ばしてみた。



 ところが何もないはずの空間に抵抗を感じた瞬間、指先から虹色のデジタルノイズの波紋が広がりジェシカの輪郭へ走り背後へと消えた。



「どうして?──なぜ見えないの?」



 マリーは理解不能の現象にルナから得ている知識が何らかの答えを浮かべくるのを待ったが、曖昧な単語が幾つも意識に浮かび上がっただけだで副官が答えるのを待った。



「チーフ、我々のトップシークレット装備の一つです。量子屈折効果による電子擬態で我々はEMIC(エミック)と呼称しています」



「“擬態”?」



「ええ、限りなく──ほぼ完全に物体から可視光線を中心とした紫・赤外線波長にいたるまでの波長域の反射や輻射を大幅に減衰させる機能です。我々は戦闘を意図した“獣”の群れです。ですから一般兵に用いる“迷彩”という名称を使わず“擬態”という単語を使っています」



 ルナが説明し終わるといきなりジェシカの黒い戦闘服が見えるようになりマリーはまぶたしばたいた。ルナはジェシカに礼を言うと彼女は腰掛けまた拳銃を磨き始めた。



「チーフ、できればこの原理をご説明したいのですが、私自身が理解できないのでご勘弁を」



 マリーはだからルナの知識が明解な答えに結びつかなかったのだと理解した。MITを首席で卒業しているルナに理解出来ない事が自分に分かるはずがないとマリーは即座にさじを投げた。



 だがたった一つハッキリと分かった事があった。



 自分が指揮する事となった特殊部隊が、これまでに想像もしなかった様なアドバンテージでテロリストと渡り合える能力を持っている事に、多くの可能性を瞬時に数ダースも思い浮かべ胸が高鳴った。これなら人命を失わずにあらゆるテロを阻害出来る。



「チーフ、コクピットに降りる途中に着替えるスペースがありますので来て下さい。私もそこで着替えますから」



 ルナはそうマリーに告げ機首に向かい歩きだした。マリーはその後ろ姿を追い座席の一番機首よりにパティが座っているのに気がついた。少女はマリーの視線に気がつくと苦笑いしながら立ち上がった。



「パティ、あなたバスタオルなんか身体に巻いて何してるの?」



「えへへっ、じゃ~ん」



 パティはバスタオルを開いてみせるとワンピースの水着姿だった。真っ白の生地に様々な花がプリントされてるリゾート・バカンスに打ってつけの水着だとマリーは認めた。だが外は吹雪いているのだ。



「あなた、この寒空の下でハドソン河で泳ぐつもりじゃないでしょうね。凍え死ぬわよ」



 茶化したマリーに少女は顔をほころばせ説明した。



「ちがう~。チーフ、言ったでしょ。私がここを使うお仕事をしてるって」



 そう言いパティは自分の頭を指差した。



「あなたが人の頭に入り込めるのはもう知っているけど、何で水着なんか着てるの?」



「私は銃の代わりにあれを使うの」



 そう言って少女はカーゴルーム前方の隔壁の傍に据えられた大型冷蔵庫を横倒しにした様なミッドブルーの箱を指差した。



「何、これ? あなた冷凍庫に入るんですって私をからかうつもり? 外へ行きなさい。今夜は華氏23度(:摂氏-5℃)もないから。まつ毛がヴュイラー無しでも元気良く立つわよ」



 マリーが言うと少女は笑いながらかぶり振り箱の手前まで歩み寄りそのトップパネルに触れた。



「“メロディア”、私よ。ダイブ・インストールの準備を」



 パティが箱に告げると突然に箱の外周にオレンジのネオンの様な線の輝きが浮かび上がった。



「今晩わ、パトリシア。ただ今、自己診断モード終了。引き続きソリューション・ヒートアップモードに移行。予定受け入れ完了まで三十二秒」



 人工合成とは思えない優しい口調の女性の声でミッドブルーの箱が告げるとパティが説明した。



「チーフ、箱の中には人工血液が充たされているの。私はその中に沈んで液体呼吸をしながら磁気デバイスにより頭を刺激され、作戦行動中の全員の意識ネットワークの中心になるの。同時に数百人へのアクセスが出来るのよ」



 当たり前の様にパティが話している最中にマリーの意識に初めて理解する言葉の一群が浮かび上がりそのままに口をついて出た。



「“ニューロン・マトリックスのマクロ規模の励起れいき”を人為的に引き起こすなんて!」



 驚きと共につぶやいた初めて触れる幾つもの言葉の本質を理解している事にマリーはさらに言い知れぬ違和感を感じた。そうしてその異質な知識をもたらした元の頭脳の持ち主に視線を向けるとルナが補完説明した。



「そうです、チーフ。これはNDCのラボが造り出した試作機です。パティの特殊能力を解析しようとMRI(:磁気共鳴断層撮影機)に掛けた時に彼女の能力が躍増やくぞうしたのが始まりでした。"NM2RAS-Neuron Matrix Magnetic Resnance Acceleter System"いわゆる電子的ドーピング・システムです」



 ルナが説明している途中にミッドブルーの箱が準備が整ったと告げ、右端を軸にトップパネルがせり上がり、箱の手前に折り畳まれていた数段の足場が出てきた。パティがその階段を登ろうとしたその瞬間、マリーは少女の左手首をつかみ振り向かせ肩に触れようとして少女が身体を逃がした。



「パトリシア! あなた左肩をどうしたの!?」



 振り向かされたパティは右手の人差し指を唇に当てマリーに言わないでと意思表示し同時にマリーの意識に入り込んできた。



 マリー、心配しないで。サロームに憑依ひょういした時にNSA長官代理から撃たれた傷なの。何もかも受け入れてしまうのは、それだけ相手と完璧近くまで同期しているからなの。私の能力が正確過ぎるから銃創が肩に開いたのよ。この装置には様々な治療を行う機能もあるから大丈夫よ。貴女にだから話せるの。フローラにはとても言えないからナイショにしておいて。



「あなた──相手と同じ事が起きると分かってて止めようと──」



 パティは一度(うなづ)き“大丈夫”と唇を動かしそっとマリーのつかんだ手を右手でほどくと装置の縁をまたいで中に入った。そうして腰を下ろすとマリーへ振り向き小さく手を振って小声を掛けた。



「パトリシアLWACS、出撃しま~す」



 少女はおどけてみせた直後乳白色の人工血液に潜ってしまい、追い掛ける様にトップパネルがゆっくりと倒れ閉じた。その直後だった。マリーは様々な思考を感じ始めパティが中核となり次々に隊員達の意識とリンクされてゆく事に軽い目眩を感じた。それは一本の幹から広がる枝葉を意識している様に思えた。



 ごめんなさい、マリー。急ぎ過ぎました。でも、あなたが指揮する三十一人ともう“シンクロ(:同期)”してます。



「シンクロって──目眩以外は──何も変わらないけど」



 誰かを引き寄せる感じでイメージすると誰とでも複雑なコミュニケーションがとれます。それに声に出さなくてもいいから伝達時間はかなり短くなります。思考プロセスはあなたが感じてる以上にずっと速いのよ、チーフ。



 そうパティに教わりマリーは直ぐにルナを引き寄せてみた。



 ルナ、ぶしつけで悪いけど“LWACS”って何?


 チーフ、眼の前にいる時は声で尋ねて下さって構いませんよ。端から見ると、無言で見つめ合うのは誤解を与えますから。“LWACS”はパティの造語で"Ladys Warning And Control System"(:淑女警戒管制システム)だったと思います。



 仰々しいわね。何なの?



 空軍の早期警戒管制機のE-3 AWACSをもじっているんですよ。でも同時対処能力は総データ量で圧倒的にパティの方が優秀ですけど。



「パティ、ボスからお電話」



 突然そう言いながらスマートフォンを手にしたアリスがコクピットからの階段を登ってきた。



「アリス、パティはドーピング中よ」



 マリーに言われ少女がキョトンとなった。



「どーぴんぐって何?」



 アリスに尋ねられマリーはNM2RASの筐体きょうたいを指差した。



「ああ、メロディアのこと」



 アリスは納得するなりトップパネルの上にハンズフリーに切り替えたモバイルフォンを寝かせ置いた。



「メロディア、パティにボスからお電話って教えて」



 箱の中から話しだしたパティの声を耳にしながらマリーは戦闘服に着替える為に隔壁の出入口をルナの後に続いて潜りながら、どうして少女が液体呼吸しているのに声が出せるのだと疑問に感じスーツを脱ぎ始めたルナに尋ねた。



「ルナ、なんでパティは液体中で声を出せるの? 声って空気中の声帯の振動によるものでしょ」



「チーフ、よく気付きましたね。その通りです。あのシステムが人工血液に伝播でんぱするパティの喉からの振動を解析して外部に人工音声としてパティの声を構築してるんです」



 ルナの説明を聞いている間にマリーは様々な流体力学や音響工学の知識が頭にあふれ眉根を寄せた。



「どうしました、チーフ?」



「あなたの知識に殺されそうよ」



 ぼそりと答えてマリーはルナから差し出された得体の知れない素材で出来ている戦闘服一式を受け取ると着替え始めた。初めて触れてみて素材がシルクの様に滑らかだとマリーには感じた。



 彼女はルナが着替え始めたのでその戦闘服へ着替えながら床を見つめ、心に秘め続けてきた熱意を掘り起こしていた。



 もしも世界中のテロリストに宣戦布告するとなれば、武力以上に重要なのが圧倒的な知識だと感じ始めていた。あらゆる状況に対処し手足となるコマンド達を能力以上につかいきるには物事を見きり理解する膨大な知識が必要となる。



 ルナ一人の知識を身につけそれすら使いこなせないでいる自分がどこまでやれるか。あのベッカー高原での白兵戦など比ではないのかもしれない。極限のピンチに追い込まれ、抱えきれない状況と知識に押しつぶされる。



 潰されるもんか!



 ウエットスーツの様なそれを着込み、左手の人差し指で右手首の外側に並ぶソフト・キーの一つを初めてなのに何時もの様に押し込みまるで細い菅から空気が高圧で放出される様な音と共に漆黒のスーツが縮体すると身体にピッタリと密着した。



 手足を動かしてみて薄手のインナースーツの様にまったく支障がない事に驚いているとルナが布に巻かれた十インチほどの細長い何かを差し出した。



「ボスから貴女が決意して引き受けたなら渡すようにと頼まれていました。貴女なら我々とこれを使いこなせると」



 マリーは受け取り見つめながらベルベットの様な手触りの薄手の布をほどき眼にしたものに脈が跳ね上がった。



 それはマジックテープの様なベルトが附属したスカバード(/Scabbard:さや)に収まった刃物だった。ハンドルをつかみスカバードから引き抜いた刃物はわずかな明かりの中でも真珠の様な濡れた輝きを揺らめきあふれさせる両刃のファイティング・ナイフだった。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ