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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #21
75/155

Part 21-2 Misery 不幸

Suburbs of NYC 14:35


午後2:35 ニューヨーク市近郊



 フロントサイトの先に赤茶けた髪の女がドイツ製の軽機関銃を振り出し建物の角から姿を現したのと同時に最初に女が前髪を見せた高さに男が拳銃を構えたまま半身を振り出した。



 幾つもの戦場を生き延びたイズゥ・アル・サロームに迷いはなかった。まず火力の大きな女から始末し、三と四発目は男の胸に撃ち込む。そう思った矢先にトリガーをほとんど引き終え掛かった瞬間、それが起こった。



 まるで意識の中にくさびを打ち込まれた様な感じがした直後、“それ”は入ってきた。



 その瞬間、手が、指が、身体すべてが、自分の制御下から分厚いビニールシート越しの言い様のない感触に変貌へんぼうし、侵食されたと自分の頭の中にはっきりと異物を意識した。それでも彼は自分の操り糸が断ち切られる寸前に人差し指でトリガーを引き絞った。





 ダメよ!!!





 眼底から差し込んだその強烈な少女の声がアラビア語でないにも関わらず彼は意味を完全に認識してしまった。









 大きく呼吸をし見えてしまうものを意識し動揺や迷いを一切排除して“ウルフ”の肩を狙い三点射する。



 一発は外しても二発は捉える。気持ちがぶれる前に、とマーサ・サブリングスはMP5SD6の細いストックを肩付けしバレルガード先端を支え握りトリガーに指を掛けたまま半歩角から外へ踏み出した。



 眼に見えたもの──ハンドガンを両手で構えた“ウルフ!”彼のマズルに火炎が広がろうとする寸前、自分が撃たれるんだと弾丸の到来より先になぜか理解した一瞬彼女が眼にしたもの。



 イズゥ・アル・サロームの周囲で一瞬に空気が波打ち波紋が唸りを伴い爆発した様に見えた瞬間、彼の姿がフラッシュバックの様にポニーテールの少女と入れ替わると火炎が広がり掛かったマズルを少女が横へ振り向けた。



 これは──これは目の錯覚だとマーサは思いながらも、少女が鼻まわりにそばかすを残し、クリーム色のブラウスの上に紺のカーデガン、下は煉瓦色にも見えるテラコッタ(:煉瓦れんがの様な茶)の脹らふくらはぎ丈のプリーツスカートを着ている事まで見切り、その彼女の──燃える様なエメラルドの耀きの瞳と視線が絡み合い助かった事を確かめられたと感じた瞬間に、細部に渡り知悉ちしつしている事をマーサは受け入れかかった。



 これは幻覚なんかじゃないとの思いに至った刹那、広がっていた周囲の波紋が一瞬に引きずり込まれる様に少女に集まるとその瞬間マーサは右耳の上の髪を弾丸が通過し焼いた匂いを吸い込んだ。



 その直後、頭上でクレンシーが二連射し発砲音に耳が遠くなりながら、だが撃たれたのは“ウルフ”でマーサはあの少女はどこに消えたのと思いながらテロリストを見つめていた。



「大丈夫か、マーサ?」



 クレンシーに尋ねられマーサは顔を振り向け彼を仰ぎ見た。



「クレンシー──わたし──」



 見たものをどう伝えたらよいのか見当もつかず、彼女は言葉にならない意識に唇を震わせ、自らが見たものに絶対的な自信を持つ私が、と心の中で繰り返していた。









 左肩を撃たれイズゥは奪ってきたバックパックで身体の前をかばった瞬間、遮蔽物に衝撃を感じ、外のメッシュのポケットに入れられている手榴弾を拳銃を握った右手で引き抜きぬき口でセーフティピンをくわえ抜くと男女がいる角に放り投げ、同時にとりあえずこの場から去り態勢を立て直すのだと意識を固めようとしたものの、自らの身に、頭を、身体を、侵食された事を受け入れられずに後退りして角にいる男女へ背を向けた。



 その振り向いた背後で爆発が起き幾つかの破片に背中を焼かれて初めて彼は身体が自分のものに戻っていると実感しながら、どうして目先に街中の雑踏で肩をぶつけた女が拳銃を向けているのだと疑問が急激に膨れ上がった。



 一発撃たれるも、二発撃たれるのも同じだと後手に回るのは覚悟で彼は拳銃を振り上げかかり、その女が彼の肩へ銃を振り向けた直後唖然とした表情になり彼の分からない言葉で何かをつぶやき言葉の音感からそれがののしりだと気づいた刹那、女は構えていた拳銃を片手で肩の上に振りかぶった。









 ヘレナ・フォーチュンは建物の角を過ぎると、見覚えのある後ろ姿を目にし“ウルフ”だと判断した瞬間拳銃を相手の後頭部に向け警告を告げようとした。その矢先に男が振り向き彼女は怒鳴った。



「銃を捨てなさい! さもないと──!」



 テロリストの背後で起きた爆発にヘレナは鼓膜が押し込まれた様な感じを受け、“ウルフ”が拳銃を振り上げ掛かったのでその瞬間狙いを男の肩に向け重く長い引き金を引き絞った。彼女の目の前でハンマーが後退し解放されピンを叩いた直後弾丸が出ない事にヘレナは唖然とし、使い方を誤ったと理解した。



「バカ野郎!」



 瞬間、彼女は吐き捨て重ねてきた怒りから拳銃を持った手を振りかぶると“ウルフ”の顔面目掛け力いっぱい投げつけた。





 スライド先端の金属の角が顔をそむけた男の額に激しく当たると一瞬男がふらつき倒れるのかと彼女は思った。矢先、男が顔を振り戻しヘレナの胸へ振り上げた拳銃を発砲した。眼の前で広がった火球にヘレナは瞳を丸くし衝撃にバランスを崩し後ろに倒れながら自分はこんな所で死ぬんだと思いなんて“不幸”なんだと人生を呪った。











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