Part 20-5 Seven faults 七癖
White House D.C., U.S. 19:40 Nov. 22th 2017
2017年11月22日午後7:40 合衆国 ワシントン ホワイトハウス
ホワイトハウスの一室に通されたローラ・ステージとクリストファー・ブリガム元大将それにソニー・カーチス上院議員の三人はハウスの職員がグレン・ファーガシー国防長官を大統領執務室に呼びに行っている間、しばらく待った。
三分が過ぎ五分になろうとして、ローラはハウスがそんなに広い訳でもないだろうにと眉根を寄せた。最初に痺れを切らしたのはソニーだった。
「ローラ、国防長官をどうやって問いつめるつもりだい?」
「簡単な事よ。ありのままをぶつけ彼の反応を観察するの。人は嘘をつくとき何かしらの兆候を見せるからそれを洩らさない様に見て本題を切り出すの」
「でもファーガシーは陸軍大将にまで登りつめた奴だぞ。面にそんな特徴を出すかな?」
「なくて七癖。何かしらの癖を見抜けないと私の敗けだわ」
ローラがそう言った直後ドアが開きファーガシー国防長官が入って来た。彼は三人を一瞥するなりブリガム元大将と目が合い視線を逸らした。三人はソファーから立ち上がりまずソニーが挨拶した。
「お久しぶりですファーガシー長官」
「面会者が来ていると聞いて何事だと思ったが、カーチス、何用かな? 今、大統領スタッフと大事な集まりがあってあまり時間は割けんのだが」
「グレン、長居をするつもりじゃないから安心するんじゃ。まあ座れ」
ブリガム元大将に言われファーガシー国防長官は無視出来なくなった。
「御老体、パレスまで来るなんてどういう了見なんですか?」
問い掛けながらファーガシー国防長官が離れのソファーに腰を下ろすとブリガム元大将とカーチス上院議員が腰掛けたがローラ一人が立ったままで左右から二人が顔を振り向け見上げた。
「初めてお目に掛かりますファーガシー陸軍大将。私、CIDのローラ・ステージ──階級は少佐です」
ローラは姿勢を正し自己紹介すると直後腕組みをしファーガシーを見下ろした。
「言われんでも階級章で分かる。CID──犯罪捜査部門がこんな所で何をしてる?」
尋ねながら、彼はどうしてこの将校は規定の髪型をしてないのだと思った。肩に掛かるウエーブのかかったその長さのブロンドの髪は明らかに服務規定違反だった。
「核テロに備え大統領、その他の方々と対策はお済みですか?」
ローラは質問に質問で返した。その一瞬、ファーガシー国防長官が瞼をわずかに大きく開いた。
「何の事だ? CIDに何の関係がある?」
「大将、存じぬと仰っていながら、我が部所との関連をお問いになる」
ローラに指摘され彼はわずかに瞼を痙攣させ問い返した。
「どこからそんな世迷い事を聞き及んだか知らんが、そんな戯言なら切り上げるぞ」
「ほう、大将。ニューヨークが危機に瀕死ている状況が世迷い事だとおっしゃるなら、なぜこの様な危険な状況になる前にわざわざデルタを海外に出して、なおかつ二発もの投射体を回収しそこねたりしたんですか?」
ローラはいたぶるように矢継ぎ早に会話を続けながら、国防長官がまた瞼をわずかに大きく開いたのをじっと見つめていた。
「ステージ少佐、どこからそれを聞き及んだ?」
「捜査に関する基本的情報源に関し告知する権限は私になく、克つ大将、貴方にもそれを強要する資格はありません。私がお尋ねしているのはなぜロシアから奪われて一両日しか時間のなかった状況で第一特殊部隊デルタ分遣隊を出す指示を貴方が出せたか──であります」
一気に言い切るとローラは眼を細めた。ファーガシー国防長官は瞼を一度下げ掛かり大きく開いた。ローラは内心、この男の瞼は口ほどに大きく心情を語っていると判断し、さらに追い込む算段をした。
「わしは許可を出してはおらん。もしも──ニューヨークが核爆発しその責を問われる軍法会議の席に召喚する気なら気を付けた方がいいぞ、少佐! 何もかもがわしの采配の上で動いている訳ではないのだからな!」
国防長官が今度はまったく瞼を動かさずにローラを脅した。彼女はそれが本心からだと思った。
「それでは質問を変えましょう。なぜニューヨークにデルタでなくシールズを遣ったのか? 今頃、率いるガーランド大佐は大きな疑心を抱いたままテロリストらに対峙しています。そのやり場のない怒りを事ほぐ為に彼に何と説明しますか、ファーガシー大将?」
刹那、国防長官の瞳に様々なものが表れわずかに唇を動かすと口を真一文字に引き結んだ。ローラはこの男が白を切る気だと理解した。もう少しで肝心な事をこの男から引き出せそうなのにと彼女が意識した寸秒、あの眼底から差し込む声が囁いた。
ペンタゴンにいるジョゼフ・キンバリー──軍情報局の陸軍中佐よ。マリーのおば様。
「そうですか、DoDのキンバリー情報局陸軍中佐なんですね、大将」
静かに言い切ったローラにファーガシー国防長官は誰の眼にも分かるほどの動揺を見せた。
「お前──何者だ──ステージ?」
その問いに答えたのはブリガム元大将だった。彼は両膝を叩くと元部下だった男へ冷徹に言い切り最後にローラへ尋ねた。
「グレン、この娘はわしの優秀な懐刀でな。文字通りよく“切れる”。余計な詮索は止めてもらおうか。少佐、もう済んだかな?」
「はい、ブリガム大将。DoDへ行きましょう」
そう言うとローラは腕組みをほどき唖然とするファーガシーに挑む様な目付きで軽く略式敬礼をしてみせた。




