表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #20
71/155

Part 20-3 Hidden room 隠し部屋

Suburbs of Allentown, Pa. 14:40


午後2:40 ペンシルバニア州 アレンタウン近郊



 ダブルクラッチでギアを一段落とすと間髪入れずにアクセルを床まで踏み込んだ。いつもの半分にも満たない重量のコンテナはいていないも同然だった。ぐんぐんと加速し速度はすでに八十マイル(:約113㎞)を越えていた。それでも少しでも早く検問から遠ざかりたかった。



 カスム・ハッサンはもしもパトロール・カーが追い掛けて来たらどうしようかと眉根を寄せた。ボアアップしたシリンダーにスーパー・チャージャーとガスケットを換装してあり千馬力は優にあった。それでも速度では勝ち目はなかった。



 あるのは目方だけだった。タイミングさえ誤らなければ、なんとかなる。カスムがそう考えた一瞬、バックミラーに青と赤が明滅する三つの警告灯が追いすがって来た。









 ジェフ・キンバリーは見えて来たトレーラーに追いつく前に、仲間の車に無線で警告を発した。



「相手を一人だと思うな。コンテナに武装した者らが潜んでいる可能性がある。停止を無視する様なら“首振り”のタイアを撃ち抜く。エンジン・ルームは狙うな。無駄なだけだ。あの手のエンジンは少々撃たれてもストレスにならない」



 彼がそうアドバイスすると二台から了解した旨の返信があり、キンバリーは直後に「よし、かかるぞ」とマイクに言い無線機をオープンのままマイクを戻し、迫るコンテナを睨み据えたままFN-SCAR Hのチャージングハンドルを引き放ち初弾をローディングした。



 一台のシボレー・タホが反対の追い越し車線を高速で追い上げ運転席の真横に並ぶと拡声器で警告し始めた。



「FBIだ! 至急、減速し路肩に寄れ! 繰り返す! 至急──」



 カスム・ハッサンは二度も聞くつもりはなかった。



 どちらがWar Car(:戦闘車)か思い知らせてやる。彼は一度ハンドルを右に切ると、それよりも多く左に切り込んだ。トレーラーは一瞬右に振れ左へ加速しながらセンターラインを飛び越えた。



 その重量差にSUVなど敵うわけがなかった。FBIの捜査車輌は接触した瞬間回転するトレーラーのホイールにドアが削られ派手に火花を散らし、蛇行する間もなく対向する追い越し車線から走行車線へ弾かれそのまま路側帯を乗り越え、荒れ地に突っ込むと横転し多量の土砂を巻き上げた。



 その後に付けていた二台の捜査車輌は一瞬で一度トレーラーから下がると二手に分かれ左右から追い上げて来た。それを左右のミラーで見ていたカスム・ハッサンは二台まとめて片付けてやると叫んでハンドルを左右に大きく切った。



 ジェフ・キンバリーは足を踏ん張り、トレーラーを大きくかわした振り戻しに耐え揺れる車内で爆走するトラックのフロントタイアへドット・サイトの光点を合わせるなり、正確に一秒トリガーを引き絞った。



 その瞬間、トレーラーの唸りに挑む様にマズルが吼え左の前輪へ九発の7.62mmのブレッドが襲い掛かった。一瞬にサイドカーカスに亀裂が走ると左右に向きを変え荷重の掛かったタイアは瞬時に裂け爆音と共にバーストし多量のゴム片を散弾の様にばらまいた。



 キンバリーは左掌で飛んできた塊を防ぐと即座に二撃目を放てる様にバレルガードの先端近くを握り締めストックのバットプレートを肩に押し付けた。



 それでも蛇行しようとしたトレーラーの前輪ホイールはアスファルトをえぐり火花を巻き上げ向きを変えようとした。左右にいた二台の捜査車輌の運転手が異変に気付いたのは同時だった。彼らは急ブレーキを掛けSUVの四輪から白煙が広がりテールを振り減速した。



 直後トレーラーは一気に前に出るとコンテナ下の三軸十二輪のタイアが右へ滑り始め破局は一瞬にして訪れた。滑っていた数輪がグリップを取り戻しかかった刹那、コンテナはその頂部が一気に右へ振られるとコンテナを支えていたタイアすべてを引き連れ空中に跳ね上がり横転し轟音を放ち幾つもの火花を引き連れながら四つの車線を横滑りし倒れてから五十ヤード先でやっと停止した。



 四人のFBI捜査官達は直ぐ様下車するとアサルトライフルを肩付けして構えたままコンテナの方へと走った。真っ先にコンテナにたどり着いたのはジェフ・キンバリーだった。彼は他の数人の援護を意識しながら、コンテナの腹に開いた扉に近寄った。



 間口は小型の冷蔵庫ほどの狭いものだった。中は暗く、彼はSCAR Hのレールに取り付けたフラッシュライトを点した。中の人はコンテナが横転した衝撃で動けなくなっている可能性が高かった。それでももしもの事を考え用心すべきだった。



 開口部から見える小部屋は手前がすべて死角となっていた。キンバリーは斜め後ろで開口部へ向け銃を照準している同僚を全面的に信用しアサルトライフルを持ったまま中をのぞき込んだ。



 直後、身体を引き抜いた彼は振り向き仁王立ちになった。トレーラーの運転手が死んでいると報告を受けながらジェフ・キンバリーは何かの手掛かりをなくしてしまった事で大きな不安にとりつかれた。



 隠し部屋の中には誰もいなかった。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ