Part 14-4 Big Insect 巨大昆虫
Roof Heliport NDC HQ Bld. Chelsea, NYC 18:50
午後6:50 ニューヨーク市 チェルシー地区 NDC本社屋上ヘリポート
風に乱れ翔ぶ雪に眼を細めマリーはルナの後に鋼鉄の階段を登った。防寒着もなくスーツ姿のまま身体の芯から冷やされているのに心はどうしようもなく熱かった。
戦闘など二度と御免だとあれだけ強く願ったのに、まるで自分の中に別な自分がいて真逆を望んでいるような気がした。
突風に頬を叩かれ彼女は一瞬顔を背けた。先にルナが登りきりマリーが顔を振り戻すとその眼前にヘリポートが広がった。見えてきたものにマリーは唖然として眼をしばたいた。
羽根を広げた巨大な黒い昆虫の様に見えるそれは、四つの中空の円盤を左右に並び二つ持ち、その中からナイアガラ瀑布の様な風を生み出していた。それぞれを取り囲む流線形のリング一つの外径は六十五フィート(:約20m)より大きくその内周に沿って幾つもの回転翼が高速で流れていた。
翼の先端は中央にある二十六フィートの流線形のリングに内向している。巨大な四つの“ファンネル”だとマリーの意識に馴染みのない言葉が浮かび上がった。外側のリング外縁から斜め下に延びるスタブ・ウイングがそれぞれ胴体上部へとつながりその下に図太い胴体があった。
胴体下部には左右にスポンソンが張り出し見慣れたハーキュリーズより全然大きい。その機首はまるで雀蜂の様に下前方に絞り込まれて複眼の代わりにわずかに盛り上がったキャノピーが備わっている。顎の下には大型の旋回式ターレットに幾つかのアビオニクスと機関銃が──いいや、マズルがどう見ても指三本が入りそうな──機関砲がこちらを睨み据えていた。
「マリー、我々の作戦機ハミング・バードです」
名前なんて知っている。そう、この瞬間にもルナから受け継いだ知識の何もかもが沸き上がってくるとマリーは心を掻き乱された。
中心に軸を持たない大小のリングの間を平均三十度の不等間隔で並んだ人が片手を伸ばした以上の幅の十二枚のピッチ可変回転翼が超電導力マイスリー効果による動力を与えられ多量の空気を送り出している。翼端を持たない事でヘリ特有の叩きつける様な音を抑えていた。その外周リングの角度を変える事で垂直方向から水平へと推力を偏向でき、左右が逆に動く事で機体は戦車の様にその場で旋回し、翼八ヶ所のハードポイントに搭載する武装と機首の機関砲でCAS(:近接航空支援)も行える。
積載可能重量は十万ポンド(:約68t)以上もあり、積もうと思えば世界中のどの国の主力戦車と完全武装兵を数十名を機内に搭載でき、その状態でターボプロップ輸送機をしのぐ四百二十ノット(:780㎞/h)もの高速を出せた。輸送機を越えた巨大な対地攻撃機をNDCは運用しているのだとマリーは鳥肌立った。
ルナがリングの直下を避け回り込むのにマリーはついて行くと後部扉をかねたスロープの先端がヘリポートに接地していた。マリーは中を見上げると機内に先に乗り込んでいるはずのコマンド達が見えなかった。代わりに一台の装輪装甲車が赤い機内灯に照らされ出入口を睨んでいた。
「さあ、チーフ。中へ」
ランプを中ほどに登ったルナが振り返り手をさしのべた。その瞬間マリア・ガーランドに封じ込めたはずの過去が襲い掛かった。




