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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #11
42/155

Part 11-2 Dealing with Explosion Terrorism 爆破テロ対処

NDC HQ Bld. Chelsea Manhattan, NYC 17:55

午後5:55 ニューヨーク市 マンハッタン チェルシー NDC本社ビル



 マリーがホワイトボードに星印を書き込んだその時、ガン・ルームの出入口に情報担当員(i-worker)の30代の男性が駆けて来た。



 部屋の多くの者が視線や顔を振り向け、ルナがボードの脇から即座に離れるとその情報担当者の傍に行き男性が何かを早口で説明し始めた。



 ルナがその担当員に二言三言指示を与えるとその男性はうなずき直ぐ様引き返した。振り向いたルナは眉間にしわを寄せマリーの傍らまで急ぎ足で歩み寄った。そうしてチーフの耳元に顔を近づけると報告し始めた。



「チーフ、ミッドタウンで車輌が爆破されました。4ブロックに被害がおよび、現在ニューヨーク市警(NYPD)臨場りんじょう、要請を受けFBIが動き始めました。テロか事故かは確定してませんが、爆発規模、爆破位置から事故の線は低いかと」



「テロなの? ルナ!?」



 マリーの問い掛ける声は無意識に大きくなり座っている皆がざわついた。



「チーフ、現時点でテロとは──」



 ルナがマリーを動揺させまいと言葉を選んでいる最中、フローラが鋭く問うた。



「ダイアナ、何があったの? 報告を!」



 先任に問いつめられルナはマリーの顔をうかがうと、マリーがうなずいたので皆に向かって説明しだした。



「17時45分、ミッドタウンのマディソン街33丁目交差点で、西から来た1台の黒い乗用車が爆発。同交差点4方のブロックに被害が出ている模様。消防、警察がすでに現着。FBIが近くの合同庁舎から急行中。被害者は爆破された車の運転手、歩行者、死亡・負傷者数80名あまり、以上」



「犯行声明は?」



 マリーが聞くとルナは逆にマリーにそんな当たり前の事をとでも言いたげな表情で振り向き報告した。



「いま、手分けしてネットの広域帯にアクセス件数が増加し始めたブログ、HP、SNSを確認中、以上です」



 その説明にルナが先ほど情報担当員(i-worker)の職員に手早く指示を与えていた事をマリーは納得した。



「核爆弾テロ犯の可能性があるでしょう。そっちの線はどうなの? 答えなさいダイアナ!」



 フローラが尋問の様に問うとルナはきつい表情で振り向いた。



「私には分かりません!」



 そう声を荒げかかった彼女はフローラから視線を逸らした。



「ルナ、これは前触れなんかじゃないわ。核爆弾で大都市を灰塵かいじんと化そうとする者達がたかだか4ブロックで2桁止まりの被害者を出そうなんて考えられない」



 チーフのその言い切った説明にルナは救われたとばかりに驚いて振り向いた。



「マリー、3桁、4桁を狙いしくじったとも考えられるでしょう」



 食い下がる様にフローラが腕組みをしたまま今度はマリーへ挑んだ。



「そんなヘマはやらない。ここまで用意周到にきた連中が、よしんば関わったとしたら、何かを誤魔化そうと──」



「隠ぺいですか?」



 マリーの後を冷静に繋いだのはレイカだった。マリーはその東洋人のスナイパーにうなずくとルナへ即座に指示を出しかけたその時だった。パティがマリーへ新しい情報をもたらした。



「チーフ、パキスタンのイスラマバードでシャリア派のカリフ──マハラート・カビールが特殊部隊DEVGRU(:デヴグル。対テロ特殊チーム。SEALs第6チームの別称)に捕まりました。でも──銃撃を受け重体です」



 マリーはテロの首謀者が拘束された事に驚き、シールズの第6チームをパキスタンへ向かわせたのは大統領なのかと考えた。



「パティ、SOFを派兵したのはホワイトハウスなの?」



 マリーに問われ少女はかぶり振った。



「違うわ。CIAのボウマン副長官が海軍大将を動かしたの。だからカリフをパキスタンから米軍機でラングレーへ輸送するみたい」



 マリーはカリフをCIAが尋問して核爆弾テロの事を調べ出そうとしているのだと思った。だがシャリア派のトップはほとんど何も知らないのだとパティに知らされていたので意識から閉め出しルナへ車輌爆破に関して指示を出した。



「ルナ、犯行声明の確認は保留。爆破された車の画像を特定。運転手の顔から誰なのかを可能な限り探って。運転免許証、パスポート、その他──街の監視カムすべてに映っている画像とどこかで適合したら、その人物が特定の建物に出入りしていないかを追うの。特定したら誰か写真を持たせ聞き込みに行かせ、名前、住所、交友関係、他に出入りしている場所を探りましょう。そこから何を隠そうとしたか見えてくるかも知れない」



 マリーの説明は1つの可能性に過ぎなかった。だが方針を与えられサブ・チーフは我を取り戻した。うなずくと出入口へ向かい足早に歩き始めた。それをフローラが呼び止めた。



「待ちなさい、ダイアナ。そんな事をやっている余裕はないわ。核爆弾テロに関係する者を1人でも多く見つけ出さないと、テロは目前なのよ!」



 だがルナは瞳をおよがせマリーの方へ振り向いた。マリーがわずかにかぶり振り私を優先(・・・・)と唇を動かすとルナは軽くうなずきガンルームから外へ指示を与えに出ていった。そこでフローラがマリーに何か言いかかると、マリーが先手を打った。



「パティ、ミュウという子にはダイブしたの?」



 少女は何かに気をとられていてマリーに呼ばれわずかに驚いた表情を見せた。



「はい、チーフ。イズゥに会った直後と3時ごろに」



「ミュウはイズゥに頼まれてどこに行こうと考えてた?」



「それが──彼女、イズゥから工具の運び先を聞いてなくて」



 マリーは目眩がしそうだった。テロに関わった誰も彼もが肝心な事を知らなすぎる。



「パティ、ミュウは今どこにいるの?」



 マリーに尋ねられ少女はまぶたを開いたまま床を見つめ意識を集中した。それを見てマリーは疑問に思った。サイコ・ダイヴの感覚は理解出来なかったが、もっと簡単につながりを築けると思っていた。



 だがパティは10秒が過ぎ、30秒が過ぎても身動ぎ一つせずに床を見つめている。それを見ていたマリーはチリチリとした不安を感じている事を認めざるえなかった。その時いきなり少女が顔を上げた。





 パトリシア・クレウーザの表情は世界中の困惑を含んでいた。











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