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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #10
38/155

Part 10-1 Star Symbol 星印

In the Sky, NYC/

NDC HQ Bld. Chelsea Manhattan, NYC 17:35

午後5:35 ニューヨーク市上空/

ニューヨーク市 マンハッタン チェルシー NDC本社ビル



 FBIが麻薬組織から証拠品として徴収したエンブラエル・フェノム300・ビジネスジェット機は雲海の切れ目に差し掛かった。



 ローラはこの機体を私用で使ったことを明日には叱責しっせきされるだろうと覚悟した。



 彼女は溜め息をつくと窓から宝石箱をのぞいたような光景に眼を見張った。黒い雲の隙間から見えたのは大都会ビッグアップルだった。



 この美しい都市を愚かにも核の火焔で焼き尽くそうとするやからがいる。



 そいつらに鉄槌てっついが下るといいとローラは思った。



 片手に開いた手帳には彼女が無意識に1人の名前を書いていた。それに気がつきローラはつづりをじっと見つめた。



 マリア────ただ一人の肉親であり妹であるエミリアが生んだこの世で1人だけの血のつながった美人さん。



 私とかけがえのない繋がりを持つ2人を同時に亡くした義弟は、気が強いのに誰よりも優しい彼女へ恐ろしいほどの特種な英才教育を課した。その行く末に気がつき、私に涙ながらに相談してきた16歳のマリア。



 殺しの道具になってしまったと。



 すでにマリアは十14で屈強な兵士5人と同時に渡り合える能力を開花させていた。16の歳に父親を完全に拒否し、サンディエゴ海軍基地へ2度と脚を運ばなくなったあの娘は、大学を目指し卒業するや否や、西海岸とは正反対のここビックアップルに移り住んだ。



 大学入学を祝い食事に誘って以来8年、あの娘に会っていない。それでも今、眼下にマリアは息づいている。



 そうだ!



 これにケリをつけたらあの娘を食事に誘おう。理由なんてどうだっていい。あの娘を誘い出して飛び切り美味しい店に連れて行こうとローラは目尻を下げると名前を数回、線で囲み、マリアのつづりの前に大きな星印を書いた。



 そうして手帳を閉じると意識をD.C.に集中させた。大将を────国防長官をどうやって攻め落とすか。生半可な事では真意をさらけ出さないだろう。気は進まないが彼を使うかと、ローラ・ステージはつき合っていた男へ6年ぶりに連絡を取るためスマートフォンを手に取った。











 誰も知らない!?



 マリーはNDC本社ビルのガン・ルームで驚いていた。



「ならばテロリスト達はどうやって核爆弾を起爆させに行くの? 彼らは殉教者じゅんきょうしゃになりたいのよ」



 パティから告げられた真相にマリーは疑問が言葉となって出た。



「そんなのリモートに決まってるだろ。無線でドカンと。市内全域に妨害電波を出せば食い止められるさ」



 座っている中から返事をしたのは爆発物の専門リー・クム(李錦)、第1セルの爆発物処理担当だった。マリーは彼を見つめ東洋人特有の無表情な印象を受けた。それが彼女には冷静に見えた。しかしマリーは彼の意見を即座に否定した。



「長時間、常に受信機を稼働させておくにはそれなりにバッテリーが大きくなるわ。只でさえ投射体は大きいからかさ張って隠蔽いんぺいが困難になるでしょう。それに何か他の電波を拾う可能性が強い。彼らは特定の日時にこだわって爆破計画を立てている。行き当たりばったりじゃないはずよ。誤爆(・・)は望まない。只の無線リモートじゃないわ。なら────」



 マリーは説明した後に皆へ尋ねた。その時、ブリーフィング・ルームにフローラが入って来た。彼女は座っている皆と同じ身体に密着した黒の戦闘服姿だった。



 フローラは素早く腰掛けている皆を見回し最前列の角の空席の横にコンバットバッグを下ろすとパイプ椅子に腰を下ろし脚を組んだ。彼女はまず部屋が静まりかえっていることに顔を横に動かし、皆の視線が自身に集まっている事に気がついた。



「続けて」



 フローラはそう素っ気なく言い腕を組んでボードの前に立つマリーを見つめた。



「チーフ、その4人はまだ遠隔リモートコントローラーを受け取ってません」



 そうマリーに指摘したのはヴル・テンダーだった。SWAT出身の彼も爆発物処理に詳しい。



「マリー、我々はテロ実行犯4人に支援者が10数人いることまで把握はあくしてるわ。おそらくその者達が4人にコントローラーを用意するのだとにらんでる」



 フローラがマリーに教えた。例の唄う様な口調ではなく普通に話しマリーはうなづいてパティに顔だけを向け尋ねた。



「パティ、支援者全てを把握してるの?」



「チーフ、全員とは言い切れません。2日前までウィールズに潜伏してた彼らに支援物資を届けに来た者の意識にダイブして、支援者7人とそれとは別に4人を割り出したんですけど、その誰もがアメリカまで核爆弾を運んできた貨物船からそれを持ち去っていませんでした」



「ウィールズ?」



 マリーは聞きなれない地名を尋ねた。



「あっ、チーフ。ウェスト・バージニア州の田舎町」



 少女の説明を受けマリーは困惑した。パティは頻繁ひんぱんに実行犯だけでなく周囲の者へもダイブという精神への侵入を繰り返している。この娘の情報に誤りはないはず。なら核爆弾を持ち去ってしかるべき場所へ運んだのは4人に接する支援者らとは別の者、若しくは者達がいるということだ。そのつながりを見つけなければならない、とマリーは思いさらに少女へ尋ねた。



「支援者はどんな組織の者達なの?」



「イラク軍情報局の者が4人と、フイフイ教シャリア派の信者が7人」



「フイフイ教?」



 聞きなれない言葉にマリーはまたパティに尋ねた。



「あっ、イスラム教です」



 少女の訂正に異国の軍とイスラム教徒が関係するなんて敵が多すぎるとマリーは感じた。探る対象を絞り込まないとパティの能力が発揮仕切れない。



「NYの核爆弾テロを誰が画策したの?」



 マリーの問いに少女はかぶり振った。



「イラク軍情報局の工作員から辿って、アサド・モハメドという情報局大尉を見つけ出し、彼がカリフ──イスラム教シャリア派の指導者に繋がりがあることは分かったの。他の支援者達シャリア派の者らもカリフの配下だということも──」



 そこでパティは整理する様に言葉を句切った。



「でもその指導者カリフはどんなに深くダイブしてみても大まかな事しか知らないから、側近の者達を片っ端にここ三日間探っているけど手掛かりにたどり着けなくて──とにかく関係してる人が多すぎて、それに誰もが限定してしか関わってないから」



 パティの話を聞いてマリーは思った。



「おそらく敵は事の大きさから、誰かが情報を洩らす事を嫌い誰をもテロの一部にしか関わらせてないのよ。斥候に出される者達が捕虜になっても本隊の行動をらさない様に限定的にしか情報に接触させない」



 彼女の説明に皆は聞き入っていた。それをフローラが続けた。



「それでいてどこかにテロを立案した何者かが潜んでいる。その者の名すら出てこないとなると、その者はカリフが久しく遠ざけている何者かという事。どこか近郊から皆を巧みに操ってるのよ」



 先任がすらすらと述べた事をマリーは意識して違和感を感じた。指揮をしている者、若しくは者達、実行犯4人を殉教者に仕立てても、計画した奴は第2、第3のテロを画策するために必ず生き延びようとする。そいつ、またはそいつらはNY近郊にいない。万が一にも巻き添えをくうことを避けているはずだわとマリーは考えた。



「ちがう! 計画した主犯者は核爆弾から離れ過ぎている。今、その筋を探っても徒労に終わるわ。FBIなど捜査当局から支援者が捕まっても、爆弾を持ち去ったなにがしかに決してたどり着かない様にするには──」



「回教徒ではない、若しくは元イラク軍ではない者を使う」



 ルナが引き継いだ時、彼女にフローラを除き着座している者達の視線が集まった。



「外部の者を使ったんだ。それも1度きりの。依頼された者は何を運ぶように頼まれたかすら知らないか、違う事を知らされている」



 座っている中のロバート・バン・ローレンツ、元SAS中佐がそう嫌な事をはっきりと指摘した。



「彼ら実行犯が出入りしていた店の店員やカフェテリアのウエイトレス──何でも。接触を持った知人未満の人物、若しくは知人全て。誰が核爆弾の設置を請け負ったのか、ただ────運送業者は避けるはずだわ。捜査の眼が入ったなら真っ先に調べられるでしょうから」



 マリーは皆に説明したが、それでもパティの探る者達が多すぎると思った。絞り込み、まずは実行犯の4人に接触した者から始める。3人が潜伏してるのなら、近づいた者は少ないはずだし、この者達はウェスト・バージニア州のウィールズとテロの現場から関わるには遠い。彼らがニューヨークに近づく日がテロの直前のはず。ならニューヨークに来ている1人は何の為に、とマリーは意識してパティに問うた。



「パティ、イズゥは今日ここに何しに来たの? 他の実行犯はいつニューヨークに来るの?」



「3人は今ニューヨークに向かって来てます。イズゥは姪のミュウ・エンメ・サロームに会いに来ました」



 パティの返事にマリーはホワイトボードのイズゥの名の横にマーカーでミュウなんたらの名前を走り書きした。



「ただ会うだけ?」



 もう1度マリーはパティへ顔だけを向け尋ねた。



「いいえ、彼は頼みごとをしにきたの。エレベーター修理工の代わりにミュウに港湾倉庫からエレベーターの部品を運ぶ様に────」



 マリーはパティが話している途中にボードへ顔を戻すとミュウなんたらの名前を線で囲み、頭に大きな星印を書いた。これだわ。この娘だわ。運んだのは部品なんかじゃない!



 彼女の直感がそうささやいていた。











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