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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #9
37/155

Part 9-4 Reasoning 推論

W.30th ST.-8th AV. Midtown Manhattan,NYC 11:35

午前11:35 ニューヨーク市 マンハッタン ミッドタウン 8番街30丁目



 NSA・NY支局副主任捜査官ベリーズ・リーサウェイは、指揮を引き継ぐと言いながら機動車両に乗り込んできたマーサ・サブリングスに同伴のララ・ヘンドリックスが乗り込む前、主任へ向けて開口1番謝罪した。



「済みません、主任。配置にミスが有りました」



 マーサは表情を変えずに向の席から副主任を見つめた。



「仕方ないわ、ベリーズ、もう1度逃した魚を網に追い込みましょう。で、ウルフ(・・・)をロストしたのは何分前?」



 配置に手違いと言っただけなのに容疑者を逃がしてしまったというミスまで主任が理解し、それでも叱責の無い事にベリーズは開き掛けた弁明の為の口をそのまま報告の為に動かした。



「3、4分前です。8番街にあるペン・ステーションから逃走しました」



 マーサは副主任の前にあるノートPCを自分の方へ向けるとパッドを操作し直ぐにその駅を中心にもってきた。そして彼女は地図をズームダウンさせると南側に連なる駅をじっと見つめ口を開いた。



「長距離を、駅が手配される可能性のある路線で移動するとは考えられないわ。ベリーズ、ウルフ(・・・)があなた達の追跡を察知したとして、逃れる為だけにサブウェイを利用したと思う?」



 マーサはあえて失態を犯した副主任に1つの事実を突き付け尋ねた。ベリーズは指摘され即座に思いついた事を述べた。



「いえ、主任。奴は市内を見回っていたというより、どこかへ向かっていたと思います」



「そう──理由はなんであれ真っ直ぐにロウアーマンハッタンを目指してたわ。適当に飛び乗ったのでもない限り、支線に沿ってマンハッタンを出たとは思えない。なら──」



 マーサは言いながら、それらの駅に沿って周辺の主要な建物の名を流し見た。ウルフ(・・・)はこちらへ来て日が浅い。地理なんて頭に入ってないだろう。だったら目的地は簡単に分かる場所でないと行き着けない。世界的に知れ渡った場所──WTC。彼女はそのアルファベット3文字を捉え、しばしスクロールが止まりじっと見つめた。



「これだわ。誰もが知っている場所がある」



 マーサがそうつぶやくとすかさずララが引き継いだ。





「ワールド・トレード・センターですか?」





 ベリーズが端的に思いついた場所を口にした。



「12ある追跡班をWTCを中心に北側から時計回りに各通りへ分け捜索させます。でも──」



 マーサは無線担当の職員にそう指示し場所を告げると考えたくない可能性をつぶやいた。



「間違っていたら、市警察の市内監視網を再度利用しなければならなくなる」



 途端にララがマーサに不満をもらした。



「主任! またあの意地汚い署長に会うんですか!?」



 ララの本心を耳にしてマーサはノートPCの液晶画面を見ながら苦笑いし、私だって嫌だと思った。そしてこれが読み誤っていないかと考えた。



ウルフ(・・・)は市内の大きい通りをわざわざ徒歩で南へ移動していたわ。サブウェイを最初から利用すれば北のアッパーダウンタウンから南のウォール街まで半分の時間もかけずに余裕で移動出来る。やはり市内中心地区を観察しながら中部か南部で誰かと接触しようとしていたのよ」



 マーサが考えたくはない選択肢をあげた。ここで第3者が登場すると事態はよりいっそう混迷を深めてしまう。同時に2人を追うため追跡チームを2つに分け別な指示を出し続ける事は可能か。いや、無理だわとマーサは即座に判断した。そうして液晶画面の上角に表示されている時間を見た。



ウルフ(・・・)をロストして既に10分。手配したWTC周辺に居る可能性は低いかも知れない。それは会う相手との長引き方によるわ。これ以上、時間をおいてはダメだということ」



 誰へとなく主任に言われベリーズは眉根を寄せこの事態の責任は私にあると思った。でも本当に核爆弾を爆破させられたら、爆心地に近い我々は微塵もないだろう。副主任は叫びたい衝動にかられた。だがマーサが話し出した内容に意識は振られ彼女は集中し続けた。



「町角で小型爆弾を爆破し通行人や何かで集まった群衆を標的とするのとは違い、今追っているテロリストらが使おうとしているのは、街全体を破壊出来る物だわ。ならば、街に人のあふれる明日の感謝祭記念日を狙ってるのかもしれない。場所は街全体を呑み込める市内中心部で起爆させようと考えるのが正しいと思う。それまで奴は監視の目を逃れ続けようとするでしょう」



 ベリーズとララ、それに通信担当の若い男の職員は黙って主任の話しに聞き入っていた。



「犯行前日に実行場所をうろついて警備体制を敷かれる事は避けるはず。どこから手配書がまわってきてるか分からない以上、用心に用心を重ねるでしょう。下見は日を置いて行っているか、下見自体をやってない可能性すらあるわ。それなら────」



 今やベリーズの心臓は高鳴っていた。目の前のこの人が本部のクレンシー上官の眼に止まり支局主任捜査官として推薦された理由。正に彼女の推論の巧みさ。だが当のマーサはじりじりしながらテロ実行犯の主格になりきろうとしていた。



「やはり、今日ウルフ(・・・)は誰かと会うつもりなんだわ。これはその為の移動だったのよ。今ごろ9.11メモリアルで誰かと明日の算段でもしてそれが終わったらどうするの? 監視を引き連れているかもしれないと被害妄想を膨らませネグラに帰る?──違う──奴は軍人よ。大人しく明日を待つなんて出来はしない──いけない──皆が──」



 マーサがつぶやきを止めノートPCの液晶から顔を上げると3人が見つめていた。



「皆の武装は──?」



「全班員、拳銃は携行してますが、どうしてです、主任?」



 ベリーズはマーサの言おうとしてることをつかみかねて尋ねた。



「テロリストがハンドガンを乱射なんてニュースを耳にしないでしょう」



 それを聞いてベリーズとララは顔を見合わせ思い当たり「あっ!」とハモった。



「テロリスト達は明日の為にアサルト・ライフルかサブマシンガンを用意しているかも」



 ララはそう言うと生唾を呑み込んだ。



「全員に通達。対象発見時に──」



 マーサがそこまで言いかけたその時、無線機のスピーカーからとんでもない報告が入った。











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