Part 9-2 Blast 爆風
In the Sky, Neb. 17:15
午後5:15 ネブラスカ州上空
なんの警報も鳴らず、いきなりの衝撃の瞬間足をすくわれシールズのマイク・ガーランド大佐はコクピットの階段の最下段から操縦席の方へと吸い上げられた。
だが彼はとっさに前に立つドール・ジョージア中佐の左腕をつかんだ。
その刹那操縦席の様々な警報音が鳴り出し、それらを呑み込んだバンジーの叫びの様な風の唸りが彼らに襲い掛かった。中佐は反射的に上官の右上腕を左手で保持するなりカーゴルームからコクピットへ向かう通路出入口の両角に左右の足の甲を引っ掛け飛ばされまいと堪えた。そうしてカーゴルームの収納椅子に腰掛けていた数名のシールズ隊員が座席を蹴るようにして中佐の足に飛びつくと、中佐が急激な気流に吸い込まれないようにカーゴルームの方へ引っ張った。
「スリング!」
ジョージア中佐はガーランド大佐を引っ張りながらも、万が一の事を予測し、大佐を引き戻す為に部下達にラペリング用のロープを要求した。
直ぐに中佐を引き止めようとする3人のシールズ隊員の傍に3百ヤード(:約91m)のロープを手にした隊員が吸い込まれない様に隔壁沿いに近寄ると、床の貨物固定用フックにカラビナを掛けロープを通すなりコクピットへと束を投げ込んだ。
ガーランド大佐は傍にロープが吸い上げられるなりジョージア中佐から手を放し2重になったロープの中間を余裕を持たしてつかみ両脇に回し、階段を登ると今や急勾配の先になりかかっている操縦席を見下ろし驚いた。
左の機長席には誰もおらず、その前方には同時に数人が吸い出されそうなぐらいの大きな孔が開いていた。
彼は気を失っている副操縦席の唯一のパイロットを見て、2つの操縦席の後ろにある予備座席の肩を足掛かりに先へ進み出ると消えてしまっている液晶パネルに足を掛け気を失っているその男の肩を片手でつかみに激しく揺さぶった。
数回の衝撃を受けるとパイロットが気を取り戻したのでガーランド大佐は孔から吹き込む風と警報音に負けないよう大きな声をかけた。
「しっかりしろ! 高度が落ちている! 立て直せ!」
気を取り戻したパイロットが朦朧としながら返事をした。
「何が────いったい──?」
マクハビー・ドイル中尉は呆然とした体で周りを見回していた。そしてどうしてシールズの将校が計器板に立っているのだと混乱し、機長席の正面に開いた孔を見つめ、誰もいない機長席へ眼をやり、自分の正面にあるHUD(:飛行情報を表示する顔の高さの半透明表示板)を見つめ目まぐるしくゲージの流れる高度計に気づくと慌てて操縦桿を引き始めた。
ガーランド大佐は予備の座席をつかむと副操縦席を足掛かりに操縦の邪魔にならない様に計器板から離れHUDのわずかに緑を帯びた表示を見下ろした。半透明のスクリーンに映し出される様々な表示の意味は分からなかったが、横にある数字が目まぐるしく減り続けておりそれが高度表示なのかと思いガーランド大佐は機を捨てなければならない可能性を考えた。
シールズ全隊員が降下用にパラシュートを用意していた。だがあまりにも高度が落ちれば全員が機外へ飛び出す時間がなくなる。それにこの様な角度で降下する輸送機からのパラシュート降下は隊の誰もが経験がなく機外に飛び出す事すら困難な様に思えた。
「立て直せるのか!?」
そう大佐が問うとドイル中尉が操縦捍を引いたまま振り向きもせずに答えた。
「なんとかしてみせます! まだ高度はあるから!」
ガーランド大佐は正面の窓から見える光景を眼にした。とうに雲海を突き抜け、夕陽に染まった地上が地獄の様でそこへ飛び込んでゆくのだと彼は感じたがその距離感はつかめなかった。だが大佐はわずかだが足下に掛かる力が増えている事に気づいた。その時、彼の横へロープを伝いジョージア中佐が降りて来た。
「ボス、我々に出来る事は?」
「全員に降下の用意をさせろ」
「ここで機を捨てたら、我々はニューヨークに間に合わなくなります」
中佐は小声で上官に進言した。
「仕方ない。大幅なロスになるが、国防総省へ連絡を入れ付近の不整地に別な輸送機を下ろさせ、そこからニューヨークへ目指すしかない」
大佐の方針に異を唱えるつもりのないジョージア中佐は頷くとロープをつかみ傾斜した床を素早く登ると右にある階段を下りカーゴルームへ戻った。それを確認してガーランド大佐はパイロットに尋ねた。
「中尉! 我々はリスクをおかすわけにはいかない。シールズ全員がこの地にパラシュート降下する。予備のパラシュートがあるから君も脱出できる。来たまえ!」
「そんな事をしたら、貴方達はニューヨークへ遅れます! 核爆弾テロを阻止しに行かなくてはならないんでしょう! この機を立て直しますから、まだ降下するのは待って下さい!」
「地上まで何フィートだ!?」
「今、高度2万(:約6096m)です! あと5千で水平に移れなかったら降下して下さい!」
「よし! わかった。出来ない時は君も連れて行くからな!」
ガーランド大佐はそう告げたもののドイル中尉が激しく振動し始めた操縦捍を懸命に引くばかりで返事はなかった。
「中尉! 君の名は?」
「私ですか──マクハビー・ドイルであります!」
「機長は機外へ吸い出されたと思う! 機が水平に戻せたらペンタゴンへ連絡を入れ捜索させる!」
「ありがとうございます、大佐! でも衛星通信機が使えるか、私には分かりかねます!」
ガーランド大佐は前方の窓から見えている地平線がかなり下がってきている事に気がついた。
「ドイル中尉、立て直せたとして、ニューヨークまで飛行出来るのか!?」
「なんとかなります! 多機能ディスプレイパネルの半分は生きてますから!」
言い切るなり中尉は操縦桿を胸元まで引き寄せた。
「大佐! 立て直しました! 高度一万六千」
言いながらドイル中尉はコンソールのスイッチ群を次々に操作し警報が1つまたひとつと黙り始めた。それでも会話には風の轟音に抗う努力が必要だった。マイクは前方のウインドウの先を見つめ、はるか下に地平線があることでようやく安堵した。
「ドイル中尉、他の航空機にぶつかったのか?」
「それはないと思います。接近警戒レーダーシステムは警報を出しませんでしたから」
「機に他の損害がなければ高度を上げられるか?」
ガーランド大佐は高度がある程度高い方が燃料も無駄にせず速力も速い事を承知していた。
「問題が1つあります、大佐」
「何だ?」
「何か着るものを──上着を貸してもらえないでしょうか?」
ガーランド大佐はその理由に直ぐに気がついた。吹きさらしのコクピットは今の高度ですら冷蔵庫の様に冷えきっていた。




