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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
★Chapter 1
3/155

Part 1-1 Quick Attack 急襲

Suburbs of Bologoe Russia, West 23:15 Nov.15th 2017

西暦2017年11月15日午後11:15 ロシア西部ボロゴエ近郊



 漆黒しっこくの闇の中を行く手も定かでなく進み続ける。一瞬にして怒濤どとうの様に流れ狂う何色とも判別のさだかでない雲海にも振動せず、一気に駆け抜けたその先には吹雪に途切れ揺れ動く小さな灯りの幾条が幽暗ゆうあんに抗い次第に大きくなった。それは地表に這いつくばり他に明かりのない闇の大地に列となると十数台の車輌の群れとして見えてきた。先頭の車をのぞき先に走る仲間を闇の中で見失うものかとでもいう様に、車間をつめヘッドライトのわずかにもたらす現実の中にトラックのはためく幌が幾つもの亡霊の様に浮かび上がりつつも、激しい風雪にそれは霞みがかっていた。



"Это не то, что делает солдат."

(:こんな事、軍人のやることじゃねえな)



 陸軍野戦服を着た二十代の男は大きなハンドルを身を乗り出すようにして握りしめていた。激しく動くワイパーの合間に前を走るトラックの幌を確かめたしかめハンドルを微調整してはいたものの、雪の積もる田舎道はぬかるみ軍用トラックをもってしても真っ直ぐに走ることすら容易ではなかった。



"О, да.Политики произвольно используют дипломатию для создания видимости, например, сокращения ядерных вооружений, поэтому военнослужащие кастрируются.Мы выглядим как идиоты, которые вынуждены делать это всю ночь с тягачом в конце дня."

(:ああ、そうだな。政治屋が勝手に外交とやらで核削減なんかと体裁をつくろうから軍人が骨抜きにされちまうんだ。あげ句の果てが運送屋紛いのこんな事を徹夜でやらされている俺らは馬鹿みたいだ)



 助手席に座るやや歳(かさ)の軍服の男が眠そうにまぶたをさげながら同じ分隊の部下にあいずちをうっていた。



"Что думает полковник? Разве вы не недовольны?"

(:大佐はどう思ってるんだろう? 不満に思ってないのかな?)



 運転している一等兵の男は伍長に尋ねた。



"Я не думаю, что он жалуется.Но, возможно, у него уже есть место в штаб-квартире партии.В его возрасте он не хотел бы иметь звание полковника.Он не хочет потерять работу из-за сквернословия."

(:不満に思ってないわけあるか。だけど案外、党本部にもう席が決まっちまってるんじゃないのか。あの歳で大佐やってられねぇだろ。余計な事を言って棒には振りたくはねえだろうし)



 こんな話は兵舎の中でさえはばかられる内容だった。党役員の誰かが聞きつけただけで降格どころかもっとも最果ての任地へ跳ばされるのが落ちだ。だが、キャビンには二人以外の誰もおらず、背後の荷台には人も近づきたがらない危険な物しか積んでいなかった。



"Если бы эту штуку можно было доставить сразу на вертолете ВВС, никому бы не пришлось не спать всю ночь, чтобы транспортировать ее на большие расстояния──"

(:こんな物、空軍のヘリで一気に運んじまえば、誰も徹夜してまで長い距離を運ばなくてすむものを──)



 轟々とした唸りが男の言葉尻をかき消し、運んでくる雪の塊が時折掃き捨てるワイパーに抗いフロントガラスにへばりついた。



"Видимо, они не смогли собрать Ми-24, которые сопровождают Миля.Миль Ми-17."

(:そのミルを護衛するのにハインドをかき集められなかったって話だ。殆どがバルトへ出戻っちまってるっていうからよ)



"Разве армия не отошла.Как долго начальство будет задействовано в Прибалтике.О, черт возьми! Я хочу выйти на поле боя и много стрелять."

(:撤退したんじゃないのか。上はいつまでバルト三国に関わる気だろう。ああ、くそっ! 俺も行って撃ちまくりてェ)



 一等兵は思いの丈を吐き捨てるとハンドルを軽く叩いた。所詮しょせん彼の思いなどその程度なのだったが、まるでそれが呼び寄せたとでもいう様に突然に前を走るトラックの幌が急激に迫った。次の瞬間、一等兵の男は目を大きく見開き慌ててブレーキを踏み込み激しくキャビンは揺れボンネットの目前に先行車輛のテールランプが食い込んだ様に見えた。



"Интересно что?"

(:何だ?)



 助手席の伍長はダッシュボードに手をついてガラスの先の灯りの中に何かを見ようと身を乗り出していた。彼が生唾を呑み込み何かしらの身の危険を感じて足元に立て掛けていたAKM自動小銃に手を延ばした刹那せつな、フロントガラスに指が入りそうな孔が穿うがたれた。



 運転席にいた一等兵はその孔が何なのか理解出来ないとでもいう様に伍長の方へ顔を振り向けた。



 彼はつい今しがたまで話していた助手席の男が座席にけ反り額に開いたどす黒いくぼみから血があふれ出すのを目にしその一瞬、ガラスにもう一つの孔が穿うがたれると運転席の男は横ざまに衝撃を受け背もたれにぶつかり伍長のひざに崩れ落ちた。



 二つの風穴から甲高い空気の立てる音がキャビンを満たし動く者がいなくなると、十秒ほどして運転席のドアがいきなり開き激しく吹雪が殴り込んだ。



 その乱れ吹き込む雪を背に一人の男が立っていた。男は雪上迷彩の戦闘服を着て白い眼だし帽を被り両眼に渡る暗視ゴーグルを掛けていた。ドアを引き開けた反対の利き手にはサプレッサの付いたCZ2000ラダが握られておりその銃口は用心深く車内に向けられ、わずかな間をおき男はステップに片足を掛け車内に身を乗り出すと2つのしかばねを見、喉元に付けたスロートマイクを左手で押さえくぐもったロシア語で報告した。



"Командование 6, шестой танк захвачен, взят под охрану."

(:コマンド6、六輌目制圧、確保)



 そうスロートマイクに告げるなり雪上迷彩の兵士はカービンをダッシュボードに乗せ片腕で運転席の死体を車外に引きずり出し自分が運転席に腰掛けドアを閉じるなりヘッドライトを消した。それでもその男の暗視装置の接眼レンズには前のトラックの赤いテールランプが雪よりも真っ白にハレーションを浮き立たせていた。











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