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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #4
22/155

Part 4-5 Flash Bang ! フラッシュバン

Caribbean Sea Offing 13:55 Jul.18th

7月18日 午後1:55 カリブ海 沖合



 兵士かとマリーは一瞬思ったが、その何者かは着崩れたジーンズに傷んだコンバットブーツを履いているのが分かった



 そして何よりもマリーを緊張させたもの、それは階下の人物が右手(かたわら)にさげたアサルトライフルだった。銃は共産圏の通称カラシニコフ──そのクローンはあまりにも多国に及び一見しただけでは型どころか生産国すら判別できない



 AK-47か74かすら距離がありすぎて分からなかった。ただスケルトン・ストック(:軽量化の為に銃床を肉抜きしてあるもの)が辛うじて見て取れた



 スタンダードなカラシニコフでないということはそれなりに訓練をしている可能性があった。昨日や今日銃器を渡されたわけではなさそうだ。その何者かはスリングで肩から自動小銃を吊り下げているものの、右手のひらはグリップを握りしめたままでおこたりなく周囲を警戒しているのが一目瞭然だった



 マリア・ガーランドにはどう見ても安全には見えないこの武装した何者かが、“接敵”した瞬間に狂ったように発砲しそうな気がした



 口と鼻を覆ったバンダナ以外に見える顔側面の肌は白色人種のものではなかった。日焼けとも思える褐色の肌をしている。もしも男が中東の人種だったら──イスラム教を信望している可能性が高く──その中のわずかだが、ねじ曲がった狂信的な信仰心を抱いて死をも怖れぬ覚悟をもっているやからかも知れなかった



 右の腰には拳銃のホルスターを付けており、左には小型のトランシーバーを所持していた。ということは近隣に同じ類いの危険な連中がいるということだとマリーは眼を細めた



 直後彼女は振り向き2人の少女に遅れをとった事に気がついた。ナイフ一本無くても階下の男を黙らせる事はできるとマリーは瞳を細めたまま冷やかに考え、次の瞬間にそれをかなぐり捨てた



 余計なリスクは常に回避しなければならない



 状況をすべて掌握してるわけではない時は特にそうだと過去が忠告していた



 それに今さら足を遠ざけた“闘い”に巻き込まれたくはないとマリーは思った。私が戦うことを止めてもう10年も時が流れているのだと。そうして彼女は階下の武装者に見切りをつけ音をたてないように2人の少女を足早に追った



 マリーが通路の角を曲がり少女達に追いついた時、前方の通路は観音開きの赤い扉に突き当たっていた。だが今度はアリスが内部の確認もせずに短機関銃を両手で構え銃口でいきなり扉を押し開け中へ駆け込んだ。後に続くパティも躊躇なくアリスを追い走り抜け開いた扉が反動で戻ってきた



 マリーは待ちなさいと言いかけ口を開いたが、パンプスを持った手で振り戻ってきた両方の扉を受け止め押し開けた。そして眼にした光景に彼女は唖然としてしまい大きく見開かれた瞳は状況を十分に視認していた



 部屋はホールだった。広さは先のレストランと同じぐらいかそれ以上あり、左右に窓が並び白い壁には等間隔にゴシック様式の柱が並んでいる。床は大理石で大きなトルコ絨毯じゅうたんが敷かれており、天井にはローマ様式の教会の様な天上画が描かれていた



 だがマリーの眼に飛び込んできたのはそんな部屋の有り様ではなかった。ホールの中央の1かたまりに集められた男女が座らされていた



 男らは様々なスーツ姿で中に数人白いターバンを頭から被った者もいるし船員風の制服の者、コックやウェイターもいた。ターバンの男と船員らを除き殆どが白人で何人かは上着を脱ぎシャツ姿の者もいた。女はカクテルドレス姿の者が大方だったが2人だけスーツを着てタイトスカートで座り難そうにしていた



 そして皆、憔悴しょうすいした顔をしている。誰もが縛られているわけでもないのに大人しく座らされていた。大人しく座っているしかなかった



 集団の周囲に立つのは覆面をしカラシニコフを手にした連中だった。武器を持っているのは六人の傭兵の様な男達



 もうこれはハイジャック(:船舶でもハイジャックという。シージャックとはいわない)以外のなにものでもない!



 マリーの虹彩が急激に動き、血管に噴き出すアドレナリンが彼女の思考を目まぐるしくかき回した。彼女は自分に何とかする手段はと考え、唯一の対抗武器は先に室内へ駆け込んだ少女達の手にする短機関銃しかないと瞬時に思いへいたった



 あの子らはどこへ、とマリーがハイジャッカー達を見すえた視野の中にパティとアリスの姿はなかった。馬鹿な事だと分かりつつマリーは本気で手にしたパンプスを投げつけてやろうかと怒りに任せて考えた。だがどうしてこの武装した連中はこの場に正面から乱入してきた私に銃口を向け誰何すいかや命令しないのだろうかとマリーが疑問に感じた刹那、何かの弾ける甲高い小さな音と共に彼女の背後から大理石に立つ足元に何かが転がって来たので彼女は視線を下げた



 右ストッキングの爪先のかたわらにゆっくりと転がるビール缶ほどの金属の筒。片側は平らで反対側には先程までセーフティレバーが固定されていたであろう突起物。その艶消しの黒い筒が何か。一瞬で記憶が手繰り寄せてきた可能性の名称



 マリーは反射的にフラッシュ・バン! と叫びそうになり口を閉じ声を圧し殺し素早くパンプスを投げ捨てながらまぶたをしっかりと閉じた。そして彼女は瞬時に両手で耳を塞ぎ顔を天井へ向けた











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