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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #4
19/155

Part 4-2 Get Nervous 緊張

Caribbean Sea Offing 13:45 Jul.18th

7月18日 午後1:45 カリブ海 沖合



 船内通路の長々と続く赤いカーペットは毛足が高くかなり値が張る物だとマリーは思った。



 彼女は短機関銃を構えながら中腰で素早く先行するアリスとその後ろから少女が見ていない角度へ銃口と視線を振り向けカバーしながら進むパティの直ぐ後から2人の様に足音を殺してついていた。



 マリーは通路に入りまず奥まで伸びたカーペットに不安を感じた。確かに自分達の足音は消える。黒いトレッキング・シューズの様なブーツを履いている少女2人の足音が消える事は願ったり叶ったりだとマリーは思った。自分もどのみち素足に近い状態だと両手にパンプスを持ちストッキングで歩くマリーは極力物音をたてないよう気を使っていた。



 だが、このカーペットは2人が警戒してさらに銃口さえ向けようという相手の近づく足音も聞こえなくする。その事にまるで熟練した特殊部隊員の様に見事に行動する少女達は気がついているのかとマリーは不安がよぎり、同時に封印したはずの10代中で高度に発達した警戒心が蘇り少女達が気がつかぬ遭遇をいち早く察知しようと痛いぐらいに気が張りつめていた。



 角を曲がる都度にその前に曲がり先をミラーで確認するアリッサと、その間不意に立った相手と出くわしても良いように敵の胸の高さへ短機関銃を向けるパティ。



 マリーは2人の背中を見ながら、やはりポイントを押さえて用心はしている印象を受けた。いったいこの子らが警戒している相手が何者なのかと彼女は考えながら周囲を見回し、壁に金や銀でレイヤー状の模様が入れられていることに改めて気がついた。



 何という成金趣味。このメガ・クルーザーが中東の王族の持ち物なのかも知れないとマリーが思ったとき通路の途中の壁にレリーフで派手に装飾を施された両開きの赤い扉が見えてきた。



 またパティが周囲を警戒しながらアリスが中を確認し、今度は片側の扉を左手で大きく開けた。マリーが2人の背後から室内をのぞくとそこは丸テーブルが不規則に並んだテニスコートほどのレストランになっていた。全部で10テーブルほどある間隔は広めにセッティングされてる。



 2人の少女達に続き中に入ったマリーは神経を逆なでされるような不安にさらされた。奥にはディナーショーを行える様に小さなステージがあり、そこから角1つ隔て厨房の入り口だと思われる扉が見えていた。だがその室内の何処にも客どころか給仕さえいない。人の気配が全くなかった。



 それでも各テーブルには料理が乗っていた。一見して食事の途中で皆が食べる行為を慌てて破棄したことが丸分かりだった。フォークやナイフそれにナプキンが雑にテーブルの上に放り出されている。その状態が自分を不安にさせているのだとマリーは気がついた。



 椅子とテーブルの料理の数から食事をしていたのは20人程ではなかったかと彼女は推測した。何処へ行ったんだというより、何があったんだという事の方にマリーは気を取られた。



 アリスがパティとアイコンタクトをとり、パティが一度細いあごを横に振ったのでアリスは早足で入ってきたドアから通路へと出て行った。パティもそれに続き、マリーは最後にレストランを後にして再び少女たちを追い通路を進み出した。



 マリーの疑問は膨れ上がっていたが、先を行く少女たちに質問もせずに後についていた。2人の少女、パティとアリスの無言で放つ緊張感がマリーに言葉を出すことを躊躇ためらわせていた。



 今はブリーフィングタイムではない。作戦行動中なのだという現実に忌々(いまいま)しく蘇ってくる感覚から彼女は胃が痙攣けいれんしそうだった。



 そう──私はこんな事を10年前に拒絶したのだ。あの2人の少女たちと同じ世代のあのとき、ベカー高原から逃れるSOAR(:米陸軍第160特殊作戦航空連隊.通称Night Stalkers)のヘリの中で最後の弾倉に1発だけ残されたM4A1カービンを胸に抱きながら食いしばったあごから力を抜けずに────。



 1つ曲がり角を進むと通路に平行して細い下り階段があった。通路に身を隠したままアリスは直に階下をのぞき確認した。急に少女の小さな身体が強張り下から頭が見えない様に素早く身体を退けた。



 アリスは左手の手首から先を肩の上に突きだし拳を握り締めた。そして人差し指を立てると直後に後ろからパティがアリスの左肩に触れた。階下に誰かいるのだとマリーは理解して、まさかこの子らがその誰かを殺すのかと顔を強張らせた。



 アリスはパティが肩に触れるとソバージュの髪を揺らし右手に握り締めた短機関銃を大きく横へ振った。階段から離れた通路際を進めというのだ。マリーはその判断に心の底から安堵した。



 階段横を少女達が通り抜けしんがりのマリーが通過しようとした時、彼女は好奇心から気配を殺し階下を覗き込んだ。そこに立つ人物を眼にしてマリア・ガーランドの瞳孔が急激に収縮した。



 階下のそこにはバンダナで鼻から下を被った迷彩柄のタクティカルベストを着た男がいた。その何者かは肩からアサルトライフルを吊り下げていた。











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