Part 37-5 Impulses 衝動
NSA Branch office, NYC Day after 17:20
その数日後の午後5:20 ニューヨーク市 NSA支部
もう何日目だろう。こんなに報告書を書かされたのは初めてだわ。
シールズを制圧しかかったあの謎の特殊部隊をいったいどうやって記述したらいいの──今日はこれぐらいにしないと目眩がしてきそうと思ったその時、ドアをノックされ執務デスクに向かうマーサ・サブリングスは、核爆弾テロの事件報告書を表示させているモニターを見つめキーボードに手を置いたまま「どうぞ」と返事をした。
彼女に与えられた執務室に入って来たのは、今回の事件で共に行動し、それ以降妙に人懐っこくなったララ・ヘンドリックスだった。
彼女は胸にオーブントースターを二列に並べたほどの小包を抱えていた。
「主任、あなた宛に届きました」
「誰から?」
マーサは顔をモニターからララへと振り向けた。
「さあ、それが──差出人欄にMaryとだけ。住所不定で、配達時間指定です」
言いながらララは小包をマーサの執務デスクの上にポンと置いた。
「マリー? 心当たりがないわ」
マーサは一瞬眉間に皺を寄せ小包を見詰めた。包装紙からして上等な物が使われている。いったい何かしら? と、彼女はペン立てからレターオープナーを手に取り箱の外装を止めるテープに走らせた。
そうして包み紙を剥がし、出てきた厚紙の箱の蓋を開く瞬間マーサは急に大きな声を出した。
「どっか~ん!」
ララは驚いて両腕を振り上げながら跳び退った。
「あはははっ、冗談よララ」
マーサは微笑みながら蓋を開き中を覗き込んだ。箱の中には一通のラピス・ラズリの封筒が一番上にあり、その下には一面小指ほどの灰色をしたクッション材がぎっしりと詰まっていた。
「何ですか、主任?」
言いながらララは机に歩み寄った。
「さあ? 壊れ物の手紙かしら」
ララが笑いをこらえている事に気が付きながら手紙一つを? とマーサは思い、右手を緩衝材の細かなスポンジの中へと探る様に差し入れた。すると直ぐに指先に何か大きな固形物が触れたのでそれを引き出した。
彼女が手につかんでいるのは一対の綺麗なワインレッドのパンプスだった。
「主任、マリー商会に通販で靴を? それも高価そうな」
「いいえ。マリー商会なんて知らないわ」
手にする靴をよく眼にしてマーサは驚いた。
それはパンプス風に見えるデザインのスニーカーだった。靴底はラバーでしっかりと滑り止めの凹凸模様があり、わずかにヒールが高めに作られている。
マーサはもしやと考えてサイズを見ようと靴を表へ反し中を覗いた。中底に印字されている文字を見つめ瞳を丸くした。
“6”!
大きさが私の足のサイズと同じ!?
その片側に何かが入っている事に気付き彼女はドキドキしながらそれを引き出した。つかみ出したのは一組の軟らかいバックスキンの手袋だった。
濃いベージュの薄手の物!
彼女は一瞬にして、“ウルフ”を追い雪の積もり掛かった高速道路の緑地をパンプスで転びそうに駆け抜け、氷の様に冷たいフェンスに素手で跳び付いた事をまざまざと思い出した。どうしてあの時の事を──!?
マーサはまるで少女だった頃の誕生日のプレゼントを開ける様に胸を高鳴らせ、急いで封筒を手に取ると封をされてない蓋を開き僅かに震え出した指先で一枚の便箋を取り出しそれを開いた。
眼にしたのは優美な女性の筆跡だった。
危難に挑む貴女が望み呟いた二つの物を贈ります。どうか転ばずに悪人共をその手で捕らえ続けて下さい。でも職務も程々に。デスクワークに向かう今の貴女は顔色があまり良くないようですから──。
世界を救いたい新任チーフより
読み終えたその一瞬、マーサは文脈にない彼女の訴えを耳にした様な気がした。
私の名はマリア──傷つきやすい闘いの天使。
それは貴女もよ──マーサ。
「どうしたんですか、主任?」
ララに尋ねられながら彼女は素早く椅子を回し背後の窓を振り返ると、夕焼けに染まる摩天楼の街並みをじっと見つめた。その無数の窓の何処かで何者かがたった今視線を外した様な気がしてならなかった。その誰か──あの特殊部隊を率いていたリーダーだわ! とマーサ・サブリングスは唐突に思いながらぽつりと呟いた。
「衝動を感じたの」
It Continues.
☆謝辞☆
衝動の天使達 1─容赦なく─を最後までお読みくださりありがとうございました。
続きは────
衝動の天使達 2─戦いの原則─
魔法vs現代兵器戦、現代人vsエルフ、全米規模の大規模テロ、マリーを狙う屈強な暗殺者、そしてとんでもない怪物がSTARSと対峙、海洋戦とM・Gが対処しなければならない問題が同時期に嫌がらせのごとく山積し彼女の手腕とタフネスさが試されます。
─容赦なく─よりさらにボリュームアップ!
次作もお楽しみくださいませ。
後の作品に活かせますようお読みくださりましたご感想を頂けましたら幸いです。
それでは読者の皆様 Au revoir m lecteurs alors.