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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #37
154/155

Part 37-4 The Silver Feathers 白銀の羽根

Roof Heliport NDC HQ Bld. Chelsea, NYC 19:20


午後7:20 ニューヨーク市 チェルシー地区 NDC本社屋上ヘリポート



 パティはチーフを探し屋上のヘリポートへ続く階段を登っていた。



 少女は彼女の意識を読んだわけではなかったが、チーフが皆から一時の息抜きをするならここだろうと思った。だけど風が強くこんな寒い夜に果たして吹きさらしの場所にいるだろうかとも思った。



 まあ確かめるだけ確かめようと少女はダウンジャケットの襟に首を縮めヘリポートが見えるまで登ると足をじっと止めて眼にした光景に見いられた。



 チーフが背を向けてヘリポートの中央に立っていた。



 袖を通さずに腕組みしたまま肩に掛けただけヴィクター&ロルフのコートが風に波打つ様に左右に踊っていた。



 何をしてるんだろう?



 そう思いパティが静かに見ているとチーフが夜空を見ているのがなんとなく分かった。その視線の先には澄んだ空気にくっきりと見える月があった。



 就任パーティーで多くの人に声を掛けられ社交辞令でも一人ひとりに丁寧に応対していたから、疲れて気持ちを休めているのかも知れないと少女は思いなんとなく声を掛け辛いと少女は感じた。



 その瞬間、少女が眼を細めてしまうほど風が強く吹いた。



 チーフの肩に掛かったコートが大きく左に揺れた一瞬右に叩かれ肩から剥ぎ取られると瞬く間に仄かな明かりが満ちるマンハッタンの空に吸い込まれてしまった。



 それでもチーフは身動き一つせずに月を見続けている。



 パティがそんなに一心にどうしてチーフは月を見つめているのか知りたくなった。



「パトリシアでしょ──いらっしゃいな」



 急にチーフから声をかけられパティはなんて勘の鋭い人だろうと一瞬苦笑いしてヘリポートへ上がった。



「いつから分かってたんですか、チーフ?」



「あなたが屋上のテラスハウスの扉を出たときからよ」



 少女が傍に歩いて行く間も、チーフは背を向けたままじっと月を見つめていた。



「クールダウンなの?」



「いいえ、そうじゃないわ。STARSの行く末を見つめていたの」



「私たちの?」



 少女に問われマリーは、私が築いたケルン(山頂や山道に石を積み上げた物)は頂ではないと感じた。まだふもとなのだ。



 これからが苦しい日々の連鎖になる。それを覚悟してまるで語りかけるように輝く白銀の月を見つめていた。



 マリーはこのさやかな月の光のように導いてゆかなくてはならぬ部下たちのことを思いその責務を噛みしめた。その為には私自身が潔白であらねばならない。



 彼女はわずかに胸が締め付けられると流れてきたわずかな雲に月は覆い隠された。その瞬間、天空を満たした星空にマリーは圧倒され胸が熱くなった。



 STARS──単なる偶然とはいえ月を取り囲む星々の輝きのなんと美しく鋭いことか。



 私は負けない。



「そうよ、あの月みたく周りを数多の星々が取り囲む様にこれからも皆が私の傍にいて欲しいと願っていたのよ」



────それにパトリシア──あなたにはこの能力の使い方をもっと教わらないといけないわね。



 マリーの意識が流れ込んできた瞬間、パティは驚きやっぱり彼女は私のテレパスの力を身につけてしまったのだと気がついた。



 それだけではない。私の力だけでなく、アリスやレイカ、それにケイスの能力さえ身につけてしまった。



 たった数時間で。そう、ミュウを助けようとしてあの真っ白な何もない世界に引きり込まれてしまったあの時、マリアがつかみ引き戻した私の手に与えた白銀の羽根の焼け付くような熱さに気づくべきだったのよ。





 この人は私の理解を遥かに超えたいただきにいる。





────60点ですね、チーフ。



────厳しいわね。どうやったら相手に意識を絞り込めるかまだ全然感覚がつかめないわ。



「大丈夫よ、マリー。あなたはすぐにコツを身につけてしまうから」



「それが心配なのよ。貴方達、私を引き入れた事をきっと後悔するわよ」



 マリーは横に並ぶパトリシアに自嘲すると少女が微笑み返した。



「よかった。もうあなたは叫び声をあげて目覚めたりしないわね」



 マリーはパティの底知れぬ力に敬服した。



 確かに私はあのシリア軍との戦闘で心がボロボロに傷ついた。でもあの経験があるから今の私はいるの。少女の言う様に安らかな眠りにつけるのは近いかも知れない。



 マリーが微笑むとその途端娘の顔が険しくなった。



「チーフ、明日ケネディ国際空港発のエアーライナー207便八時三十分発がハイジャックされます」



「分かったわ。私達が対応しましょう」



 少女は新任チーフの即答に驚いた。そこには何の躊躇いも感じ取れなかったからだった。



「パトリシア──」



「なに、マリア────」



「終わったら貴方とアリッサの三人でお買い物をしましょう。買いたい物が二つあるから。付き合ってくれたら貴女達に服を買ってあげるわ」







 その言葉を耳にした途端パトリシア・クレウーザは破顔した。少女はまた少しだけ新任チーフの意識を覗き込んでいた。







 この先あなたの傍にいて間違いないと思いながらときめき、そうしてパトリシアはマリーに歩み寄ると彼女の片腕に自分の腕を回し身体を寄せて月を見つめた。












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