Part 36-1 Special Training 特訓
In the Sky, NYC 20:40
午後8:40 ニューヨーク市上空
第3と、5セルを除き皆を回収し終わったNDCの対地攻撃輸送機ハミングバードはマンハッタンを挟む西側のハドソン川上空をロウアー・マンハッタンへ旋回しながら加速し始めていた。
カーゴルーム前方の隔壁間際の折り畳み椅子に腰かけたパティとアリスは二人とも瞼を閉じ片手を握り合っていた。
パティ、見てる?
ええ、信じられない。あれが人の動きなんて。
パティはアリスが遠視したマリーとイズゥの闘う様を見つめていた。
闘うと言ってもチーフが防戦一方の様に思えた。それなのにほとんど身動きをしていないチーフに対しイズゥのくり出すナイフが彼女に掠りもしない事がパティには信じられなかった。
そしてチーフがわずかに左手の甲や腹で迫る刃を叩き流している事に気がつき驚いた。少しでもタイミングを間違えば、指や手のひらを切り落とされかねなかった。
アリス、あんなこと、フローラや、ましてやアンにすら出来ないわ。
そうね。アンにもムリムリ。でもわくわくしない、パティ?
ドキドキよ、アリス。あの人、いったいあんな事どうやって練習したのかしら。
ウーン、たぶんあれよ。
アリスがそう考えて瞼を開きパティへ顔を向けると、パティもアリスを見つめていた。二人は眼が合い口を揃えた。
「特訓よ!」
二人の少女の会話を耳にしたルナが問い掛けた。
「特訓? 何が?」
パティはルナへアリスの遠視イメージをリンクさせ、途端にルナは顔から血が失せ少女達の横に空いた席にへたり込んだ。
「大変だわ──チーフを助けないと!」
ルナはそう呟いた瞬間、テロリストの男が突き出した大型ナイフへマリーが無防備に飛び込んだ様に見えた。