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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #35
144/155

Part 35-6 Beyond the Overwhelming Power 圧倒的な力の先に

Quay Promenade of Battery Park Lower Manhattan, NYC 20:41


午後8:41 ニューヨーク市 ロウアー・マンハッタン バッテリー・パーク 波止場遊歩道



 イズゥは女が身体を──左の二の腕までをまったく動かさずに殆ど手首の動きだけで刃を逸らしているのが受け入れられずに奥歯を噛みしめ、右へ振り切った腕の手首を返し女の腕を、それが無理でも手のひらなら、指ならば切り落とせるとありったけの力を振るいそれまで以上の速さで刃を繰り出した。



 直後、またハンドルを握りしめた手に衝撃を受け半月刀(シャムシール)を左斜め下に流された。



 唖然としたままイズゥは咄嗟とっさに右腕を身体の横に引き戻しサヒーラの顔の中心を目掛け、握りしめた凶器で凄まじき雷光を放った。



 その瞬時、女が初めてわずかに左の二の腕を上げ、まるで顔の前で舞う羽虫を払う様に手のひらを横に弾き彼は堪えられないほどの打撃を感じナイフを手放してしまった。それをサヒーラはかわす事もなく横髪をかすり後ろへと飛ぶにまかせた。



 何をされたのかさえわからずに茫然としたが彼は何もない手を我が身体に引き戻し手元を離れた刃に襲い掛からせる隠し手を繰り出した。そのイズゥの手から離れた半月刀(シャムシール)が女の背後で急激に向きを変え背後から牙をむいたのを彼は確かに目にした。









 ケイスがナイフ・マーシャル・アーツの経験者だった。本来ならランヤードという拳銃やナイフなどを紛失したり敵に奪い盗られない様に身体の着衣につなぐ編みひもを利用し、腕の外へリーチのわずかに及ばぬ敵へとナイフを襲い掛からせるタクティカル・ナイフ・ファイティングだった。



 だがマリーは男がそんな太い編みひもなど使ってない事が直ぐに分かった。



 男の右手から弾き飛ばした刃物へとまるで蜘蛛が尻から伸ばす糸のごとく細い光がなびき伸びたのを流し見ていた。





「くだらない──」





 あんなに恐れ困惑したのに、魔術や妖術ではなかったのだと落胆しマリーはつぶやき、左手をわずかに振り動かし、伸ばした人差し指の先で小さな渦を描いた。



 そうして指先をゆっくりと自分の鼻先へ持ち上げた。その動きを追う様に彼女の脇を通り過ぎ胸元に切っ先を下にしたままの半月刀(シャムシール)がぶら下がり揺れ浮いていた。


 そのハンドル後部から曲げた指の腹に伸びた光る線をマリーは見つめた。





釣糸(テグス)──」





 テグスを使ったトリッキーな技術に過ぎなかった。マリーがその視線を男へと向けると右腕を引き戻したままテロリストの男が固まっていた。



 その丸くした瞳を一(べつ)し、左手指に引っ掛けたテグスを振り回す様に左腕を男へと振り切った。一瞬で彼女の胸の脇から打ち出されたミサイルの刃が男へと襲い掛かった。



 テロリストの男は顔面目指し向かってくる刃を狼狽える様にかわした直後、その刃物が背後に落ちアスファルトにぶつかり金属音が響いた。



 男はまるでその音に目覚めたとでもいうように我に返ると素早く後ずさり己の武器を壊れてないか確かめる様に拾い上げた。そのさまを見つめ続けマリーは、このテロリストをミュウ・エンメ・サロームへ謝罪させる方法を思いついた。



 そう、これくらいしか、もう仕方ないのだ。これ以上はただの煩悶はんもんを相手に与える意味のない屈辱に過ぎなかった。しかも周りへ招かれざる者達が大挙して来そうな予感がしていた。刻はないとマリーは受け入れ、男へとアラビア語で告げた。



「聞きなさい、イズゥ・アル・サローム。貴方のその刃を私が腕を使わずに折ったなら、貴方──ミュウの元へ謝りに行きましょ──」



 彼女が言っている矢先にまた男が刃物を振りかざし襲い掛かってきた。その振り下ろしてくる凶器をマリア・ガーランドは哀しみをにじませたラピスラズリの瞳で見つめかわすつもりはなく自ら進み出て身体をさらした。









 埠頭に面した公園内を疾風のごとく駆け抜け、わずかな街灯の灯りの下で男と対峙する少佐を見つけたアンは、彼女が殺され天から迎えが来たのではなかったとまず安堵し、次に瞳を耀かせた。



 少佐が大型ナイフを振り回すテロリストの男をあしらうさまにアンは魅了されてしまった。あれほどに刃物で攻められながら、少佐は素手の左腕一つをわずかに動かしているだけでまったく身に寄せつけていなかった。



「すげェ! やっぱり只者ただものじゃァなかったんだァ!」



 興奮にアンは口をあんぐりと開いたまま少佐を見つめ続け、鷲づかみにし少佐の魂を絶対に他の誰にも渡さないと決意した。



「そいつを指一本でェ喰っちまェ!」



 興奮しアンは握りしめたブロウニングHPを奮わせ吐いた言葉が少佐に届いていると信じて疑わなかった。



 だが、誰が降臨したのだと宿敵を求め辺りにその気配を感じ取ろうとしたが、まばゆいばかりのマリア・ガーランドの存在感にかすんで大天使一人を見逃していた。












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