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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #35
143/155

Part 35-5 Everything なにもかも

Trinity Church 75th Broadway Lower Manhattan, NYC 20:40/

Quay Promenade of Battery Park Lower Manhattan, NYC 20:40


午後8:40 ニューヨーク市 ロウアー・マンハッタン ブロードウェイ75丁目 トリニティ教会/

午後8:40 ニューヨーク市 ロウアー・マンハッタン バッテリー・パーク 波止場遊歩道



 二つ目のクレイモア対人地雷が空中で爆発しカーゴトラック後部から攻撃していたシールズ兵六人に襲い掛かった直後、アンはSUVのフロントに隠れ南のバッテリー・パークを見つめ丸かったオーシャン・ブルーの虹彩が紫から夕陽の様に赤く変わりまるで爬虫類の眼の様に縦長に伸び上がった。



「マジかァ!? 誰か二人も降臨しやがった!」



 直後、彼女はあごを引き真っ赤な唇を吊り上げ上目遣いににらみすえると戦域を放棄しブロウニングHPを握りしめたまま腕を振りブロードウェイを南へ駆け出した。









 渦巻きうねり荒くれる波濤はとうが互いを呑み込み崩れ落ちる様に、何千、何万、何億という雪の複雑な一つひとつの動き、漸次ぜんじ移り行くさまをすべて見つめて、舞い吹雪く細かい氷の結晶膨大なそれら一片ひとひらすべてを理解できた。



 皆が唯一、一つの法則で恐ろしくゆっくりと動いている。その中に立つ男が一人。



 満身創痍の男が静かな息づかいでこちらを見ていた。その瞳孔は開き、中から深い怯えと困惑が止めどなくあふれ出している。



 男の胸の中では筋肉の四つの房が痙攣さながらに膨張と収縮を繰り返し、送り出される濁流が管の中で酸素を満たした血紅素にあふれかえっていた。



 それなのに二つの呼吸器の中心となる物はひどくゆっくりと空気を貪り吐き出すことを繰り返している。それら総てが彼女には聴こえ感じていた。



 男の心臓の高鳴り、脈打つ流れが予想外に速くそれらを掌握しようとでもする様に男が意識してゆっくりと呼吸している事にマリアは微かに驚いた。かつてないほど、六勘以上の上位互換の感覚が恐ろしいほどに周囲三百六十度の球体の世界を絶えずスイープ(走査)してしまっていた。



 マリア・ガーランドは産まれて初めて呼吸する様に確かめながらゆっくりと鼻から息を吸い込み、冷えた大気を味わい大きく胸を膨らませると、わずかな間をおいて雪一つ揺らさぬ様にわずかに開いた唇から息を吐き出しつぶやいた。



“I feel...everything.”(:感じるわ──何もかもを)



 直後、彼女は理解した。あの男を戒慎かいしんさせるには、彼奴やつが手にする信条を素手で叩き折らなければならない。いいや、素手すら使う事なく。



 その永劫の刻にすら眼にする男がどんなに襲い掛かろうとも決して辿り着けぬ自分が何を手にしたのかまだ理解出来ないでいたが、それでもテロリストの男が手にする半月刀(シャムシール)くびを跳ねようと斜め下から振り上げてくる青白い帯が、小間切れの様に見えており、それを容易くかわせると知ったら、この男が何れだけ絶望するのかさえ手のひらにつかんでいた。



 男に対し右肩を退いて右腕は後ろへと隠し、胸の前に左手で作った手刀一つで対処する事すら大仰おおぎょうに感じた。だからかもしれない。内に曲げた手首を弾き出すようにそろえ伸ばした指を迫る刃へと跳ねた。









 身体を斜めに向け頭を傾げる様に見つめるサーヒラがまるで別な何者かに豹変した様な感覚に困惑を感じたが、彼は怒りを持って対処しようとした。



 イズゥの見つめるその女の表情の気だるさをあふれさす下げたまなじりに、まるで運命を受け入れ斬首を待ちわびる様に闘争心や生への渇望、恐怖すら消え失せてしまったと彼は感じた。



 イズゥは大きく脚を繰り出し一直線に女の左肩を目指し、その上に連なる白い首へと手にした刃物をあらん力の限り斜め下から振り上げた。



 次の一瞬、何が起きたのか彼には理解出来なかった。



 女が胸の高さの肩の先に構えていた左手で、その伸ばした指先を内から外へと揺らした様に見えた。





 直後、サーヒラの首へあとわずかに腕の長さよりも迫った刃が、がくりとあらぬ向きに弾かれ、彼は目を強ばらせ一瞬に手首を返し女から離れてしまった刃を今度は左から襲い掛からせた。





 だがまたもや手に衝撃を感じ青白い光跡が跳ね上がった。












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