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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #35
139/155

Part 35-1 Confused 戸惑い

Quay Promenade of Battery Park Lower Manhattan, NYC 20:35


午後8:35 ニューヨーク市 ロウアー・マンハッタン バッテリー・パーク 波止場遊歩道



『チーフ、CIAの準軍事工作部隊をこれ以上足止めできません。各人の弾薬が切れ掛かってます!』



 アイ・テンプ・ビルの屋上にいるルナが報せてきた。マリーはイズゥが自分に傾倒しており、直ぐに核爆弾のリモートコントローラーを使う様子がない事からルナ達を撤退させる決断した。



 ルナ、迅速に撤退。核爆弾はCIAへ。



 即座にパティの精神リンクで副官へ指示を出し馴染まないルナの予備ブーツの右足の爪先を数回アスファルトへぶつけ、高跳びをする様に歩調を調整しながら、急激に繰り出す脚を加速させ身体を波に乗せきると男の半月刀(シャムシール)をつかんでいる右手へ向け弧を描きながら突進した。



 男が殺そうと意欲をあふれさせるのを痛いぐらいに感じていた。でも殺される危機感はまったく感じていなかった。



 そう、訓練の時でさえ硬質ラバーナイフを手にしたアザラシどもが殺意をみなぎらせ少女だった私に襲い掛かった。何度も、何度も、本当の修羅場で仲間を生き残らせるために吐き戻す胃液すら出なくなるまで、仮想の刃を腹に突き立てられた。



 そうして寄って集って皆が私に刷り込んだすべて。作戦を全うさせるために身体すべてを武器にする事を呼吸をする様に当たり前に仕込まれた。



 今、この時、対峙する眼の前の男すら私は素手で難なく殺せる。



"So, Born to be Parfcet Blooadsed Wapon."(:そう、私は完全殺傷兵器として生をうけたのだから)



 マリア・ガーランドは諦めの様につぶやくと間合いをつめきる間すら一時もイズゥ・アル・サロームの焦げ茶色の瞳から視線を外さずに彼が狙い突き出してくる刃に素手を伸ばした。









 サーヒラがあれほど切れ味のある己がナイフをどうしてさやに戻したのかイズゥには理由が分からなかった。だが素手で殺しに来ると見せ掛けよこしまな魂胆を内に隠している予感はあった。



 そうして女は、また半月刀(シャムシール)へ向かって来た。彼はまるで相手が獣の様な闘争心だと感じながら、刃を恐れぬそのサーヒラの額を叩き割ってやると、一度刃物を振り上げ左手を伸ばしかかった女の間合いに合わせ振り下ろした。その手で防ごうとも指ごと叩き切ってやる。



 その一念で細い青白の稲妻を落とした瞬間だった。



 彼が見ている女の顔が残像を残し白銀の髪を左に波打たせた。一瞬でイズゥの握る刃の右際へ顔をずらした女が、身体を右斜めにし伸ばしていた左手で彼の手首をつかむなり下から打ち上げる様に右手でひじまでつかまれそのひじを軸に手首を外へ大きく捻られた。



 彼は愕然がくぜんとしながら身体を斜め下へ落とし逃がすしか術がなかった。



 アスファルトに左(ひざ)を落としうめいた瞬間、脇腹を痛烈に蹴り込まれ、イズゥは女の手二つを振りほどき背後に転がる様に逃れ中腰になった。



 そうしてサーヒラをにらみつけながら、その女が素手で難なく組み伏せた事実を受け入れ、次はそうもゆかぬぞと奥歯を噛みしめ、サーヒラが再度挑んで来るのを待った。









 つかんだ手を振りほどき二撃目を喰らう前に男が退いたいさぎよさに驚き、素手でやられてすら殺意をみなぎらせている男のみなもとが何なのかと困惑した。



 もしもこの男が倒されても、倒されても殺しに来るのなら、永遠に倒し続けなければならない。それなら断ち切るために本当にこの男を殺めなければならなくなる。殺してしまうのがどんなに簡単な事だろう。





 あなたなら、何とかできるわ。だって彼女とわたしをあのなにもない世界から引き戻せたから。わたしは──そう信じて──疑う理由なんてないの!




 パトリシアの心の叫びがリフレインし見つめるエメラルド・グリーンの瞳にとって変わると、その虹彩の先に見えた男を何としてもミュウ・エンメ・サロームの元に連れて行きびさせなければならないと少女との約束に縛られ眉間にしわを刻んでしまった。



 だが眼の前のこの男に何を言っても耳を貸すなんて思えなかった。



"Goddamn !"(:くそっ!)



 神を冒涜する言葉を吐き捨て力ずくで出来ない事をどうしたらと思いながら、駆け出し男との距離を息つく間もなく低い姿勢で攻めた。それでも迷ってはいけないと刷り込まれた過去が激しく警告してるにも不拘かかわらず、つかみ掛かろうとしてしまった。









 サーヒラがまた駆けて来るのを目にしながら、イズゥは今度こそお前の首を跳ねてやると半月刀(シャムシール)の欠けた切っ先を横様に8の字で描き動かし、女がこの刃を弾き流すか、手首をつかみにくるしかないと見切った。そうして理解させないままにその華奢きゃしゃな首を背後から斬首してやるのだと彼は思い描いた。



 サーヒラはまた急激に間合いをつめると、髪を横へなびかせた瞬間、顔の残像を残し腕のリーチに入り込もうとした。



 その頸動脈目掛け、イズゥは捲き込む様に刃を送り込んだ。



 直後、女が鞭の様に左手を振るい手刀で手首を外へ弾いた。彼は弾き跳ばされた右腕の指を咄嗟とっさに開き半月刀(シャムシール)のハンドルを手放したその瞬間、目を大きく開き女の愕然がくぜんとする表情を見ようと構えた。



 腕の内に入り込んだサーヒラがイズゥの右手を叩き上げあごを狙ってきている刹那、いきなりその女が頭を急激に下げ立ち上がった銀髪をかすり回転しながら戻ってきたナイフのハンドルを彼は咄嗟とっさに左手でつかんだ。その寸秒、サーヒラはアスファルトに左手のひらをつき、大きく開いた脚を振り回し、イズゥは左足のくるぶしを捲き込まれバランスを崩しながらも後ずさろうとした。



 男の腕のリーチに入り込もうとしてまるで当たり前の様に単純に横から首を狙ってきたので、考えもせず反射だけでその手首を叩き流した。男がその衝撃で半月刀(シャムシール)を手放してしまったのが、見もせずに分かっていた。



 それなのに!



 背後の地面に音を立て落ちるはずだった刃が戻る様な信じられない感覚に男のあごを狙い叩き上げようとした右手を鈍らせ逆らう様に急激に左手を下ろしながら両脚を左右に大きく開き左手のひらを地面についた。



 直後落とした上半身の下で開脚したコンパスを力ずくで振り回した。その瞬間、浮き上がった髪の先端を男の刃が通り過ぎ男が左手にナイフのハンドルをスイッチしたのがはっきりと分かった。



 男が左足のくるぶしを弾かれバランスを崩し掛かったが、得体の知れない技に危機感を感じて急激に上半身を後ろに反らし引き上げた両脚の勢いを使い一気にバク転すると着地した一瞬に起き上がった顔の鼻先を、男の横へ生んだ青白い光が通り過ぎた。



 まただ!



 完全に奴の握る半月刀(シャムシール)の切っ先よりも外側に逃げていたのに!?


 得体の知れない怖気おぞけを感じたまま、勢いを殺さずに右斜め後ろへさらにバク転し飛び上がった。



 これだけの間合いを取りもしももう一撃あるなら、そのまま跳ね上げた脚を引き下ろしかかとで浴びせ蹴りを顔面に見舞うつもりだった。



 だが左の視野の限界近くの不鮮明な境界に何かが光り思いっきり身体を後ろへ仰け反らせた。その胸元をまるでブーメランの様に青白い刃が飛びすぎた。



 そんな!?



 この距離を?



 不可能だ!



 だが奴の初撃も背後から襲い掛かったのだと思い出した。ぱっくりと割れたハンドガン・ホルスターは腰の後ろに着けていた。リーチの遥か外にいるからと、油断するととんでもない場所から襲い掛かってくる。



 マリーは混乱しながら、仰け反らせた上半身の先で両手を地面につけ一瞬で身体を捻り横様に回転しながら、男の利き腕からとれるだけの距離をとった。



 そうして地面を後足で蹴り込み素早く後転し急いでアスファルトに左手をついて突き放す様に上半身を地面から離した。顔を引き上げ男の立ち位置を確かめると男は深追いせずに十フィートほど離れた場所に右手に半月刀(シャムシール)をつかんだまま仁王立ちしていた。



 どうやったらあんな魔術の様な事が!? まるでホーミング・ミサイルの様にリーチや腕の振りとは関係なく襲い掛かるナイフに混乱し続けた。



 眼を丸くしたまま立ち上がりながら、男をどうやって攻めたらいいのかと初めて防ぐ側に自分が立たされた事を理解した。












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