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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #34
138/155

Part 34-5 Conversation 会話

Battery Park Lower Manhattan, NYC 20:25


午後8:25 ニューヨーク市 ロウアー・マンハッタン バッテリー・パーク



 混迷の鉄火場と陥ったトリニティ教会前の通りから、テロリストの男を追ってクレンシー長官代理とマーサはマンハッタン島南端のバッテリー・パークまで来ていた。



 日中ならリバティ島の自由の女神像を観に行く観光客がフェリーを待っているので必ず人の姿が見られたが、雪の吹きすさぶ冷え込んだ夜に見通しを遮るものが少ない公園内には誰もいなかった。



 二人は公園の遊歩道を歩き中ほどまで来ると人の話し声に辺りを見回した。何かを説得するような若い女の声にクレンシーがフェリー乗り場へ歩き出して公園を抜けかかったその時だった。



「──をミュウ・エンメ・サロームの元へ連れて行き謝罪させる為に向かえに来たの」



 アラビア語を話している女が岸際に列なる遊歩道の街灯の灯りの下に立って誰かと話していた。



 クレンシーはそのセミロングのプラチナブロンドの髪をした女をじっと見つめ、女が黒いダイビングスーツの様な身体に密着したものを身につけコンバット・ブーツを履いており、ホルスター等を着けている事から一種の戦闘服であり教会前でシールズと一人で撃ち合っている金髪の女と同じだと判断した。ならあの狂った様に撃ちまくる女と仲間であり油断ならないと様子を見続けた。



「クレンシー、誰なんですか?」



 マーサが彼へ尋ねるとクレンシーは静かにと彼女を制すと遊歩道にいるもう一人の声がした。



「何者だ!? 貴様はなぜミュウの事まで知ってる?」



 アラビア語の男声だった。クレンシーが視線を向けると男が女から二十ヤードほど離れた街灯の灯りの際に立っていた。



 暗すぎ、しかも吹き荒ぶ雪に阻まれ顔を確認出来ないと彼が思った矢先にマーサが耳元で「“ウルフ”です」と教えた。



 マーサには見えるのかと驚き、アラビア語で何かを話し続けるならあの女兵士はテロリストの仲間なのかとクレンシーは二人の会話の意味を理解出来ない事に苛ついた。



 だが苛ついているのが自分だけでなく、街灯の灯りの際にいる“ウルフ”も圧し殺した声から苛ついているのだと彼は判断した。



「私が何者かだなんてどうでもいいわ。彼女は──ミュウは貴方に騙され核爆発テロに巻き込まれ大きく傷ついているのよ」



 クレンシーはアラビア語を理解できなくとも女の口調から何か切実な事をテロリストへ訴え掛かけているのだと感じた。だが同時に“ウルフ”が右手で掲げた赤いセルラー・フォンが何なのかとクレンシーは考え始めた。



「お前、そんな事までどうして知っているんだ?」



 “ウルフ”の声色から不安をにじませ女へ問い掛けている様だとクレンシーは理解出来たが、これは相談事などでなく、問答無用へ至る様な予感を感じた。



「私は──何だって知ってるわ。貴方の仲間の一人──フィラス・アブゥドがモサドの工作員で貴方達の妨害を命じられている事だって」



 クレンシーは女のアラビア語の中に確かにモサドという単語を聞き取った。あの女はイスラエルの工作員なのかとクレンシーは考え否定した。



 イランHISのカリフやイラク共和国親衛隊軍人らがテロに絡んでいながら、モサドのアセットがテロリストを説得などあり得ないと考えた。彼らは容赦なくテロ関係者をほふるだろう。彼らは現在と将来自国に及ぶ脅威を武力を持って排除してきた。



「クレンシー、あの女性、“ウルフ”を止めようとしているのではないでしょうか?」



 マーサに言われ彼も確かにその様だと思った。なら教会前の通りで暴れまわっているもう一人の女は陽動であり足止めなのだとクレンシーは判断した。



「貴方が八時間あまり前に駄賃に与えた航空券とホテルの宿泊費にミュウが何と言って喜んだか覚えてるでしょう“イズゥ叔父さん、ありがとう。覚えていてくれたんだ”と」



「お前だったんだな──俺に侵食して身体を奪った、サーヒラ!」



 銀髪の女が何かを“ウルフ”へ言った直後テロリストが急に声を荒げ始めた事にクレンシーは眉根を寄せた。“ウルフ”の荒げた言葉に女は急に自らの胸を右手で叩き、押し殺した声でテロリストへ何かを告げた。



「核爆弾なんかで私の心臓は髪の毛ほども傷つかないわ! 生き延びて、貴様の滅び掛かった母国の民すべてを、地獄へ導いてやる!」



 “ウルフ”は赤いセルラー・フォンをスタジアムジャンパーのポケットに仕舞い、大型の半月刀(シャムシール)を一気に引き抜き銀髪の女へ告げた。



「まず、お前の頭を切り落とす! その後に首に戻せない様に両腕を切り落とし、最後に二度と陸に戻れない様に両脚を切り離して海に叩き落としてやる!」



 “ウルフ”に冷酷に何かを告げられ女はうつむき震える唇を引き結んでいたがわずかに顔を上げ男をにらみすえ初めて英語でつぶやいたのでクレンシーとマーサは理解出来た。もはや話していた男女が決裂したのは間違いなかった。



しゃくにさわるわ──」



 そうつぶやき女が右手で脚のナイフをつかむとファイティング・ナイフを引き抜いた。距離をおいて見つめるクレンシーにすら刃からこぼれ散る様な月白げっぱくの耀きが見えており、初めて眼にするその刃物の材質が何なのか理解出来なかった。直後また女がアラビア語で“ウルフ”へ何かを言い放った。



「私をクロース・コンバット(:白兵戦)に引き戻した貴様を後悔させてやる!」





 刹那、女が恐ろしい速さで中東のテロリスト目掛け猛然と駆け出しクレンシーとマーサは息を呑んだ。












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