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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #3
13/155

Part 3-1 Senior staff 上級職員

NDC HQ Bld. Chelsea Manhattan NYC NY., U.S.16:15 Nov.22th

11月22日 午後4:15 合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル



 フローラは人差し指を緩やかに曲げオーク材でできた扉を軽くノックすると取っ手に掌を移しドアを押し開けた。



 中は秘書室もなく直接会長室となっていた。その部屋は広くサッカーグラウンドのクウォーターほどもあった。マリーはCOOの後に出入り口をくぐり後ろ手で扉を閉じながらいつもの癖で脅威と成りうるものが存在しないか視線を回らした。



 室内の照明は左右の壁の間接照明のみで薄暗かったがオフホワイトの壁紙で被われておりマリーはそれほどには感じなかった。それよりも部屋の広さの割りに調度品がわずかで、がら空きの室内にマリーは殺風景な感情を抱いた。



 その唯一ゆいいつの家具の一つは中央奥に置かれた大きな黒い両袖デスクだった。それから少し離れた前にはとても高級そうな白い革張りのソファーが1組。向かい合った長椅子の間には小振りの硝子テーブルが置かれていた。



 部屋には1人だけおりデスクの向こう側でシェードの降りた大きな窓に向かい合っていた。その人はすらりとした背丈でマリーより3インチ(:約7.5㎝)ほど背が高かった。後ろ姿から淡いグリーンのジャケットを羽織り、見える太股からジーンズを穿いているのがわかった。



 マリーはこの人が会長かと思い、超巨大複合企業(Exコングロマリット)の会長が安物ではないにせよ随分とラフな服装だと驚いた。



「ただいま、ヘラルド。ミス・ガーランドをお連れしました」



 フローラは例の唄う様な口調で背を向けた人物に声をかけた。



 その人がゆっくりと振り向いた。意外と若い。まだ20代中頃ではないかとマリーは心の隅で思いながら彼を見つめた。



 事あるごとに多くのマスメディアが世界最大の複合企業を取材し最も注目したのが美しきCOO──フローラ・サンドランだった。そしてそれとは対照的に今まで写真1枚さえ撮られたことのないNDCのC.E.O.──最高経営責任者兼会長。全株の九割以上を保有している実質的オーナーで謎多き創設者の彼はとても若いとの噂が絶えなかったが、それはどうやら事実でマリーには自分と同世代に見えるその男が途方もない資産数兆ドル以上を有するとはにわかに信じられなかった。



「紹介するわ。この方がナショナル・データリンク・コーポレーション会長、ヘラルド・バスーンです」



 だがマリーはフローラの紹介を上の空で聞いて1つの事に捕らわれていた。彼女の視線を釘付けにしているのは、彼の双眼だった。穏やかな部屋の照明と10ヤード(:約9m)ほど離れた距離でもはっきりと判る鮮やかなオレンジ色。自分のラピスラズリのような瞳も珍しい方だがこんな虹彩をした人が世の中にいたなんてと彼女は生唾を呑み込み写真を撮られたがらない理由がまさにその相貌そうぼうからだと納得した。



「お帰りチーフ。やあよく来たねマリー」



 彼の声はアルトサックスの様な女性の低音的な音色をしていた。マリーは初対面なのにいきなりファーストネームで呼ばれたにもかかわらず失礼だとはまったく感じなかった。代わりに口を開いて出た言葉は彼を敬う自然な挨拶だった。



「初めまして総帥。私はマリア・ガーランド、キンダリー証券株式会社のフロント・アナリストです」



 マリーの挨拶に彼は短かったが軽く微笑んだ。



「君の事はよく承知している。総帥なんて堅苦しくならずに私の事をヘラルドと呼んでかまわない。君をマリーと呼んでいいね。さあ御掛けなさい」



 彼はそう親しげに言って片側の長ソファーを左手で指し示した。マリーはその真ん中に腰かけると会長の方へ顔を向けた。



 ソファーはとても軟らかい革でできており腰が3分の1ほど沈み込んだ。フローラはコートを脱ぐとそれを手にマリーの向かいのソファーの端に腰を下ろして優美な脚を斜めにそろえた。



「マリー、急に連れて来られて正直戸惑っていると思う」



 会長は相変わらずデスクの向こうで立ったまま彼女に話し掛けていた。



「私を投資のためにお招き下さったんじゃないんですね」



 マリーは薄々と感じる予兆にストレートに念押しした。その時ノックの音がしてマリーが振り向くと扉が開いて先ほど黒装束で会った少女2人が入って来た。



「遅れました」



 そう言いながらフローラがパティと呼んだ子が会釈した。2人とも違和感のない少女らしい(ガーリー)服装に着替えていた。パティはクリーム色のブラウスの上に紺のカーデガン、下は煉瓦色れんがいろにも見えるテラコッタ色(:煉瓦の様な茶)の脹ら脛丈(ふくらはぎたけ)のプリーツスカート。アリスはパステルグリーンをした膝丈ひざたけのワンピースの上に胸から腰までの檸檬色(レモンいろ)のビスチエを重ね着していた。



「パティ、アリス、この方がマリア・ガーランドさん。マリー、紹介するわ。背の高い子がパトリシア・クレウーザ。もう一人の子がアリッサ・バノニーノ。2人ともうちの特務上級職員です」



 こんな子供達が上級社員ですって!



 COOの紹介にマリーは耳を疑った。2人の少女はスカートの端をつまむと左右に広げ片足を退いて腰を落としながら頭を下げた。



「どうぞよろしく、ミス・ガーランド」



 少女達は声をそろえ挨拶するとそれぞれ「パティと呼んで下さい」、「わたしね、アリスでいいよ」と言いながらマリーの腰かけるソファーに歩み寄り彼女の両隣に腰を下ろした。



「それじゃあ始めよう」



 ヘラルドがそう言い放ったのにマリーは彼へ振り向いて抗議した。



「待って、私まだほとんど何も説明を──」



 言いかけたマリーの横からパティが右手を伸ばすと混迷する証券レディの額に人差し指と中指を押し当てた。その刹那、NDC会長を見つめる彼女のラピスラズリの光彩が音をたてるかのように一気に縮んだ。











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