Part 32-5 Snowy Night Sky 雪降る夜空
37th-38th ST.-5th AV. Midtown Manhattan, NYC 20:20
午後8:20 ニューヨーク市 マンハッタン ミッドタウン 5番街37丁目─38丁目
数台の車の陰に身を隠しフローラ率いる第1セル六人とマーカス・テイラーがリーダーを務める第4セル六人は五番街の通りの南北から押し寄せた警察官達と凄まじい撃ち合いを繰り広げていた。
CIAの軍事工作部隊はSTARSと警官達に挟まれ撃たれた者を引きずり傍のビルに逃げ込んでおり、最後に指揮している女統括官が仲間の一人から引きずられる様にフローラの方を見ながらビルへ身を退いた。
フローラは今や増え続ける警察官達と撃ち合ってるのが消耗戦だと判断し第4セルのマーカスに無線で問い掛けた。
「マーカス、貴方達に負傷者は?」
『現在、損耗なし! ですが、こんなに撃ち合っていたらいずれ弾薬が尽きます!』
フローラはあと十分もたないと予測し撤退だと即断した。しかし問題は確保したモサドの工作員をどうやって連れ出すかだった。PFU(:個別飛翔装備)は二人の体重を負荷できるほどの出力がなかった。
緊急出力でもせいぜいビルの五階程度上昇した時点で動力がオーバーヒートするかファンネルのエラストメリック・ベアリングが焼き切れる。
それにそこへたどり着く短い時間さえ火線にさらされる危険が恐ろしく高かった。また警察官達を正面切って突破するかとも考えたが、負傷者が出るどころか、隊員の誰かが捕らわれる危険があった。
「くそう!」
警察官達は爆弾捜しに駆り出されていたのではなかったのか、とフローラは舌打して警官達の弾幕の厚い方へ威嚇射撃し他に打開策はないか辺りを見回した。
建物にはわずかな隙間しかなく通りから逃げ出す道がなかった。唯一の通りを挟んだ五階建てのビルが遠く感じた。
激しさを増している警察官達の射撃に数が増しているのは確実だった。彼女は、なら応援をと考えたが、一、二セル──十人程度増えたところで戦局が大きく逆転するような事はない思った。
ヴィクを呼び寄せ戦術攻撃輸送機で地上掃射させたかったが、20ミリ機関砲では警察官に多数の死人が出る。地上掃射どころか今ですら死者や重症者が出ない様に皆気を使い攻撃している。
あのどうしようもない女の下命を頑なに守り命のやり取りという鉄火場に!
その時、聞き覚えのある音が急激に大きくなりだした。独特の大型ファンネルの回転音──ハミング・バード! ヴィクを呼んだわけでもないのに、なぜだとフローラは顔を上げ雪を落とし続ける暗闇を睨んだ。