Part 32-4 Fight Over 奪い合い
I-Temp Bld. Midtown Manhattan, NYC 20:15
午後8:15 ニューヨーク市 ミッドタウン アイ・テンプ・ビル
その狭い屋上に着地した瞬間にロバート・B・ローレンツは脱ぎ捨てられたルナのPFU(:個別飛翔装備)ファンネルが変形しているのを目にし、開かれたままの屋上扉のデットボルトが入り込むコンクリートに多数のが弾痕があり、嫌な予感がしホルスターからP90サブマシンガンを引き抜いた。
見えた短い廊下の十ヤード(:約9m)先に別な廊下が行き当たっていた。ロバートが中に数歩入った時にヘッドギアの高精度集音マイクが拾った音をAIが判断し彼の見る液晶画面の左隅に警告を点した。
コーションマークの下に複数の大人の足音と解説が数回点滅し、彼は瞬時に左手で右手首のコントロールインターフェースを操作し電子擬態を作動させた。
その直後、突き当たった廊下の右横からカービンを持った男が銃口を振り向けわずかにテンポを遅らせ顔を覗かせ、開いた屋上出入口を見つめ気配を探ると、その背後から別なジャンパー姿の男が先頭の男の肩を一度叩き肩上から屋上出入口の先に銃身を向けながら姿を現した。
二人とも市販のスタジアム・ジャンパーにジーンズだったがロバートは彼らが軍隊の特殊部隊上がりだと即断した。その時だった。屋上に後から着地する数機のPFUの甲高い音が重なり急激に高まった。その音に二人の私服兵は緊張した面持ちになり曲がり角に下がりながら銃口を隠した。
ロバートは恐らくはルナが左の曲がった先の部屋におりそこがエレベーター機械室なのだと判断し、まだ何人いるか分からない私服兵らをその部屋に行かせる分けにはいかないとサブマシンガンを構えたまま腰の後ろから閃光手榴弾を一つ引き抜くとサブマシンガンを握った小指でセーフティピンを引き抜き正面の突き当たりに転がすと急速に後ずさり身体を床に倒した。
倒れる直前ロバートは閃光で目眩ましを受けても男らの数人がこちらに向けめくら撃ちしてくると予想し、液晶画面に視線を走らせコマンドアイコンの一つを選択しそこに視線を固定した。瞬時に背後にいる他の三人へ警告が発せられたその時連続した爆轟が立ち上がり明るくなりだした周囲の光量をAIが判断し減光し液晶画面の色合いが断続し変化した。
その爆発がおさまりきらない内に屋上出入口へ向け突き当たり角から猛然と射撃が始まった。
三番手で着地したジェシカ・ミラーはPFUを背負ったまま右手にP90を引き抜き屋上出入口へ入ろうと駆け寄った刹那、ヘッドギアの液晶画面隅に“警告”と表示が点滅し出入口の袖壁に身を隠した。
そうして彼女はときめきながら、両膝を曲げ姿勢を下げかかった瞬間に閃光手榴弾の連続した爆発音を聞き、間にフルオートの射撃音を耳にした。
音から短銃身のカービンで少なくとも二挺だと判断しながら、左手の人差し指の先を出入口へとわずかに突き出した。指先の小型CCDが画像を捉え、ジェシカの液晶画面を二分割にし廊下を映しだし、奥の突き当たり角から上下に二本出された手にカービンが握られておりそのブラストの度に電子シャッターが光量を加減した。
その時にジェシカの背後に後から着地したジャック・グリーショックと反対の袖壁にウォルト・マーチンがサブマシンガンを構え身を寄せた。
彼女は、リーダーは、と考え指の角度を変えると床に人の輪郭線が緑に表示され電子擬態化したリーダーが撃たれ倒れたのかと考えたが直ぐに否定した。輪郭線が動いており、リーダーが仰向けで出入口へ向け匍匐していた。
『ジェシカ、連中を引き付けろ! ジャック、ウォルト、奥の左へ曲がった先の部屋がエレベーター機械室だ! 二人で外壁を爆破し室内に突入。ルナを援護!』
無線に瞬時にジェシカの肩を一度叩きジャックが離れて行き、ウォルトも反対側の袖壁から離れると屋上の端まで駆け銃弾を浴びない位置から彼女の背後に回り込んだ。
ジェシカは画像を見ながら右手に握ったP90を低い位置に突き出すと、奥の突き当たりの壁へ向け派手に射撃を開始した。
最低で二人、それ以上の敵がいる事は想定していた。
突き当たった壁に高速弾が次々に命中し跳ね返った跳弾が曲がり角の陰に襲い掛かった。その途端にカービンの銃声が止み彼女はサブマシンガンを引いた。
さあ、お次は何だとジェシカがにやついて画像を見ている傍にリーダーが這い出してきて反対側の袖壁に身を隠した。
その瞬間に奥の角から手首が突き出されるとその手に握られていた何かが、スナップ一つで投げ出されたのを彼女は液晶画面に見ていた。
そうして出入口の外に転がったそれを眼にして、ジェシカはリーダーが強張ったの確かに感じた瞬間、奥目掛けて彼女は思いっきり手榴弾を蹴り返し唇を尖らせて舌を覗かせおどけた刹那、奥で爆轟が起きた。