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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #32
124/155

Part 32-3 Extreme Concentration 極限集中

One World Trade Center Bld. Lower Manhattan, NYC 20:15


午後8:15 ニューヨーク市 ロウアー・マンハッタン ワン・ワールド・トレード・センター・ビル



 赤い光点の先に見えたエレベーター機械室に置かれたアリスパック。そこから飛び出た核弾頭投射体の金属コーン。内部にダンパーに支持されたコアがマリーに見えたのは一瞬だった。



 もはや見えているイメージがアリッサのものではない事は分かっていたが、見えているそれらが幻覚かもしれないという疑いを押しやり、確信へと至り掛かった。それだけではない。レーザーの光点が不可視光であり、それが直接見えている時点で気がつくべきだった。レイカにレベル5でダイブし能力や記憶をかすめ取ったのがパトリシアのせいではないことも薄々感じていた。マリーは自分に起き掛けている転変をひとまず脇に押しやり狙撃に集中した。



 赤い光点がコアに対してずれている事は分かっていた。光点は上に4インチ、左へ11インチにあった。どんなにデジグネーターを微動させたところで精確な軸線上に光点を移動させるのは不可能だった。なら今の光点を基準に狙点を導きだすしかないと彼女は開き直った。



 マリーはエンパイアステートの遥か上にクロスラインをずらすと一撃目のトリガーを引き絞った。トリガー・フィールは典型的なダブルトリガーだった。



 一段目を絞り指先にシアが作動する直前をつかむ。息を吸うアップ・ブレスと息を吐くダウン・ブレスのどちらに自分が最も安定した集弾を出していたか思いだし、二度目の細く息を吐き出す瞬間にトリガーをわずかに引きシアを動かしストアーエナジーを解放させファイアリングピンを打ち出した。



 凄まじい轟音と共にマズルブレイクの周囲に流れ降る雪が逃げ惑い追い立てる様に火炎が膨らみ、バレルが一瞬に後退しマリーのほほに近いアッパー・レシーバーの反対側からエジェクターが彼女の親指よりも太い薬莢を豪快に吐き出した。



 音速の三倍近い最大速度の弾頭が2・5マイル先の壁に到達するまで数えて14秒弱──一発目が時速270マイル(:約435km/h)余りの速度にまで落ちて命中し外壁にコンクリート片が舞い上がった。



 すぐに埃が風に流されるとえぐられた弾痕が見えた。光点のすぐ傍に当たっていた。思った通りマガジンテンションが最大に掛かる初弾が狙いからとんでもない所に命中した。マリーはほんのわずかに左斜め上にストックを揺すり銃身を振ると二ショット目を放った。



 14秒後、今度は光点の下に4インチ、右へ11インチに陥没した弾痕が生まれた。



 どんピシャだとマリーは気を引き締め三弾目を撃った。舞い上がった埃の後に見えてきた弾痕は二つしかなかった。三弾目は正確に二弾目の弾痕に命中し壁が深くえぐれていた。



 たった三弾撃っただけなのに耳の中に鐘声が響き合う様な甲高い金属音が木霊していた。ノイズ相殺効果のあるヘッドギアを被るべきだったと後悔したがマリーはチークピースからほほを離し狙撃点がずれる事を嫌いそのまま四、五と撃ち続けた。



 弾倉が空になり、ほほ付けしたまま替えようしたが、大きすぎてそのままでは交換出来ないと分かると仕方なくストックを浮かし弾倉を差し換えボルトを解放した。どのみち一撃目は大きくずれ込む。そうやって二弾倉目の三弾を撃ち放った瞬間にレイカの意識がリンクしてきた。



────チーフ、ルナが核爆弾を抱えテロリストと格闘している!



 マリーが意識するとまるで報せてきたレイカの意識で見ている様な角度からイメージが脳裏に浮かんだ。アイテンプ・ビルのエレベーター機械室でルナがテロリストの一人と格闘していた。



「レイカ、そのままアリスにコアを見せてもらいながら照準し続けて! トリガーは私が貴女にダイブして引くから!」



 マリーはつぶやきレイカに指示を出した。最早、彼女とのリンクがパティによるものなのか自信はなかったが、意思の疎通ははかれていると確信があった。



────チーフ、ルナの左胸が照準線上にあるのよ! 分かって言ってるのか!?



 分かってるわよ。そんなこと!


「大丈夫よ。ビームを絞ればルナの心臓を1/4インチ外す事が出来る。それに──私はもう外壁を穿うがち始めているから」



 伝え終わりマリーは四弾目を放ったがまた大きく離れ着弾した。くそうっ、SAP(:特殊徹甲弾)の弾倉はあと三つしかないのにとマリーは奥歯を噛み締めた。



 マリーはルナを意識し動くなと命じると意識を狙撃に振り戻した。様々な事で動揺していた。駄目だ。心をいだ湖の水面の様に静めないと。マリーはもう一度ダウン・ブレスを意識しトリガーを引き絞るとかなり深くなった弾痕がさらにえぐれた。



 続いて五発目を放ちすり鉢の様になった弾痕のセンターに命中させると即座に弾倉を交換しながら、古いビルなのになんて強度のある外壁なのだと、意地の様に作り込んだ外壁工事師達を恨みながら、予備を残しあと二つの弾倉、十発でなんとか壁を穿うがたないと後がないと十一撃目を撃った。



 その刹那、レイカが基準点を出すために放ったビームが数棟のビルを撃ち抜きルナの頭上五インチの高さにボールペンの軸ほどの孔が開いたのをマリーは意識し、ルナがもうもたないと意識からイメージを締め出し速射砲の様に狙撃銃を連射しだした。



 四つ目の弾倉から四発放ったそのブレットが外壁をつらぬきスピンし核弾頭のチタン合金製外郭に弾かれると、五発目にマリーは賭けた。弾着まで14と百分の32秒。恐らくは誤差百分の二秒以内。ビームが全ビルを貫通するのに1と30ミリ秒。13と百分の29秒ずらせば核弾頭同士が互いに起爆コードを送り合うタイミングとほぼ等しい。







 マリア・ガーランドはトリガーを引き絞り13と百分の29秒後に生まれて初めてレベル8で他人に──レイカへ浸透憑依(トランスフューズ)し彼女の指に触れたトリガーを引き絞った。












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