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衝動の天使達 1 ─容赦なく─  作者: 水色奈月
Chapter #2
12/155

Part 2-4 Zorluk 難詰(なんきつ)

21 Kasım, 18:30 Türkiye'nin Batı Asya'daki başkenti Ankara, Türkiye Milli İstihbarat Teşkilatı Genel Merkezi

11月21日 午後6:30 西アジア西部トルコ首都アンカラ トルコ国家情報機構本部



 薄暗い部屋の中央だけが照明に照らされ一人の男が手首をロープに引かれ両腕を頭上に広げていた。その腕に自らの体重を支え辛うじて床に爪先立った両脚は細かく震え男は荒い息を続けていた。



 男が身につけているのは胸にパッドで貼り付けられた数個の電極だけでそこから伸びた数本のコードが床に垂れ下がり男が漏らした汚物から逃れる様に周囲の暗がりに伸び消えている。その陰の中には数人の人の気配があった。その1人は軍服を着た女だった。気温の低いその部屋にいながら女は汗ばんでいた。



"Ne düşünüyorsun? Kalbin durmasının acısı çok iyi olurdu. Daha fazlasını yapmaya devam etmemi ister misin? Ne düşünüyorsun?"

(:どうだ。心臓が止まる苦しみは格別だろう。もっと続けて欲しいか? そうだろ?)



 暗がりの中から男が意地悪く話し掛けた。途端に吊るされた男はうめき身体を大きく震わせた。



"dur──ver bana──bilmiyorum──bilmiyorum──."

(:止めて──くれ────俺は何も知らない──知らないんだ────)



 話すのも苦痛といったていで男は途切れとぎれに懇願こんがんした。



"Anlamadığınız için, aynı şeyi tekrar tekrar acı çekiyorsunuz."

(:聞き分けがないから何度も同じ苦しみを味わう)



 暗がりの中で何かのダイヤルを回す音が聞こえトランスのうねりが高まった。途端に吊るされた男は叫び声を上げ仰け反り10何度目かの失禁をしたが出すものなど殆どなかった。その直後トランスのうねりは消え失せ、吊るされた男はもつれる舌で懸命に話し出した。



"Kes şunu! Örgütümüzün aracılık etmeye çalıştığı nükleer savaş başlığını yağmaladınız!"

(:止めてくれ! うちの組織が仲買しようとした核弾頭はあんたらが略奪したじゃないか!)



"Evet? Öyleyse neden bir savaş başlığı söküldü? İçerideki yeniden giriş mermi fırlatıcısında iki boş alan vardı. Savaş başlığında yalnızca sekiz mermi kaldı. Rusya böyle bir şey yapmaz."

(:ほう? ではなぜ解体された弾頭が一つ混じっていた? 中の再突入投射体ランチャーに2基分の空きスペースがあった。弾頭に投射体は8基しか残ってなかった。ロシアはあんな無駄なことはしない)



 言い切るなり考える暇も与えず再び凄まじいアンペアの電流が流され絶叫がほとばしった。吊るされた男は身体を硬直させバケツで水を浴びせられたように多量の汗を吹き出させた。そして電気が断たれ数10秒あえぎ続けた男は泣き始め嗚咽おえつの合間に途切れながら話した。



"Mermi fırlatıcı nedir? ────Böyle bir şey──Nedenini bilmiyorum────."

(:投射体ランチャーって──なんなんだ? ────そんなもの──俺に分かるわけが────)



"Duymak istediğimiz bu değil. Görünüşe göre samimiyet henüz yeterli değil. Voltajı 100V artırmalı mıyım? Yoksa 10A akım eklemeli miyim?"

(:それは我々が聞きたい話じゃない。まだ至誠が足りないようだな。100ボルト上げるのがいいか? それとも10アンペア上乗せしてやろうか?)



"Lütfen yapma──çünkü alıcı iki yanan kavanoz göndermek istiyor──korumalar bizimkiler──gerisini siz yağmaladınız--satıcı olarak ben bile bundan fazlasını yapıyorum ────."

(:やっ、やめてく──2つの──灼熱の壷を船で運ぶというから──護衛をうちの者が──他はあんたらが略奪したじゃないか──それ以上のことは売人の俺でも────)



"Iki? Kavuran çömlek nedir? Geminin adı ne? Kimlikleri ne?"

(:2つ? 灼熱の壷とはなんだ? 船の名前は? そいつらの素性は?)



 矢継ぎ早に繰り出された詮索せんさくが、吊り下げられた男の頭の中に同じ言葉となってリフレインの様に何度も響き渡った。問われている事を尋問している連中が既に知っており、何を今さらと自らを売人と名乗った男はあえぐ口で空気をむさぼりながら思った。それでも責め苦を逃れたいあまりに男は思いつく言葉を垂れ流した。



"Esmeralda──bir Brezilya gemisi olmalı. Limana taşıdık────ve tencereyi teslim ettik. SS-N-32──savaş başlığına çömlek────adını verdiler. Senin öldürdüğün──insanlarla birlikte öldürüldükleri için işkence edilemezler────ama şehri tencerelerle harabeye çevireceklerini söylediler. onlar müslüman. Şeriat kitabı olduğunu gördüm────."

(:エスメラルダ──ブラジルの船に違いなぃ──港まで俺らが──しゃ、灼熱の壷は手渡したSS-N-32の分離弾頭──その二つを買い手が積み込む時に──そう──そう、お前らが殺したうちの者に混じって奴らも殺されたからな──拷問ごうもんはできないだろうが、奴らは灼熱──のつぼで街を妬きつくす──と──奴らムスリムだ──シャーリア派の経典を持っていやがっ────)



 船名や核弾頭のコードが分かった。だがやはり奪回からすり抜けたのは2基だという事実を補完する新たな自白に暗がりの者達は軍服を着た女の顔をうかがった。



"Görünüşe göre hâlâ bizden saklayacak bir şeyin var. seni tekrar öldür ve dirilt."

(:まだ隠してることがありそうね。もう1度殺して蘇生)



 軍服を着た女はそう指示するときびすを返し出入口のドアへ向かった。背後で叫び声がほとばしるのを気にも止めず彼女は外へ出て厚いドアを閉じると静粛に包まれ、そうして照明もまばらな廊下を歩み始めた。



 廊下の冷気が額に浮き出た幾つも汗を冷たい滴に変えたが、白い肌からはまだ次々に汗が吹き出していた。



 女はケイラ・タイス。トルコ陸軍情報局大尉──彼女は5日前のある戦闘を意識して苦々しい思いを感じ奥歯を噛み締めた。その作戦はアメリカ主導の元、デルタフォースとトルコ陸軍特殊部隊の合同部隊による強襲作戦(DAO)だった。



 アメリカの情報局からもたらされた情報通り、トルコに拠点を置く武器商人の倉庫に9基の大陸間弾道弾の弾頭が隠匿されていた。数はアメリカが知らせてきた情報に誤りがなかった。だが押収した内の1基に問題があった。外郭パネルが剥がされた状態で保管されていた。



 デルタに随行してきた軍のエンジニアの説明では、通常、成層圏に入る再突入前に数枚のパネルが爆破されMIRV(:個別目標用再突入体)と呼ばれる投射体が周囲に解放され個々が最終目標へ向かい落下してゆく。その全長40インチ(:約101㎝)余りの弾頭が凄まじい破壊力を有している。



────Bir kavanoz ──── ile şehri yakmak

(:──のつぼで街を妬きつくす──)



 うわ言の様に武器商人がらした情報が事実なら、とんでもない!


 タイス大尉はエレベーターに乗ると最上階のボタンを押した。日中と違い早朝のこの時間にエレベーターを利用する者などいなかった。その静粛がかえって大尉には苦痛となってむしばみ続けた。



 最上階に着きドアが開くと無人の通路が眼前に続いていた。この通路の幾つかの部屋で我が国の強権的な対外政策の指針が振られていると思いながら彼女は足早に通路を急いだ。



 照明も明るく組織の優秀さをあらわしているかのようなのだが、そのMIT──トルコ国家情報機構、対外的には政府直属の政策運営アドバイザー機構となっている実態は職員の大半を軍属が占める軍情報局だった。



"Nükleer savaş başlığına sahip gibi görünen silahlı bir gruba karşı ne yapabiliriz────"

(:核弾頭を手にしたと思われる武装集団に対し我々が何を出来るのか──)



 そう彼女はつぶやきながら、廊下に立ち並ぶドアの1つの前に立ち無意識にプレートを確認した。そこには“チャコダ・ホロゥイ”と表記されていた。



 状況はあまり進捗しんちょくしていない。何らかの叱責しっせきがあるかもしれない、と大尉は陰鬱な気分でドアをノックした。直ぐに入るよう中から声が聞こえ、タイス大尉は室内に入るとすばやく敬礼をした。



"Eapor.Sonuçta, ayırma savaş başlığının çıkarıldığı konusunda hiçbir şüphe yok gibi görünüyor.Sonra nükleer savaş başlığı taşıyan bir gemi bulduk. Esmeralda.Brezilya kargo gemisi."

(:報告します。やはり分離弾頭が抜き取られていることに間違いはないと思われます。それから核弾頭を乗せた船が分かりました。エスメラルダ。ブラジル船籍です)



 部下の知らせにホロゥイ大佐は書きかけの書類から顔を上げた。



"Geminin varış yeri neresi?"

(:目的地は?)



"Henüz emin değilim ama yakında araştıracağım. Kesinlikle İran değil. Çünkü açık okyanusu geçiyor. Ardından, nükleer savaş başlıklarının yeniden satılmaya yönelik olmadığı korkusu geldi."

(:今のところ不明ですが早急に調査します。とりあえずイランでない事は間違いありません。外洋を渡るのですから。それから核弾頭は転売目的ではない恐れが出てきました)



"Neden mi?"

(:なぜだ?)



"Alıcılardan ikisinin, Delta tarafından vurularak öldürülenlerin bir şekilde kullanacağını silah tüccarlarına sızdırdığından şüpheleniliyor."

(:買い手の2名が──デルタにより射殺された者らが何らかに使用すると武器商人に漏らしていた疑いがあります)



"Öyle mi. Terörizm veya paramiliter amaçlar için kullanılabilir. Gemilerin yanaştığı yer ikincil bir sorudur, ancak asıl mesele ikisini kimin ve neden istediğidir. Onu alanların şantaj için olduğuna inanmayın."

(:そうか。テロか準軍事利用の可能性があるな。どこに寄港するかは2次的な問題だが、肝心なのは誰が何のためにその2基を欲したのかだ。手にする連中が脅迫や威嚇の為だとは信じぬ方がいいぞ)



 大佐は言い聞かせるように話していた。だが話の成り行きにタイス大尉は顔を強張らせた。



"Ancak kaçakçı ayrıntılar hakkında hiçbir şey bilmiyor. Daha fazla zaman harcasanız bile muhtemelen hiçbir şey elde edemezsiniz. Sonra başka biri var."

(:しかし細事に関して密売人は何も知りません。恐らくはこれ以上時間を費やしても何も獲られないと思われます。それからもう一つ)



"Nedir bu, Kaptan?"

(:なんだ、大尉?)



"Alıcı O'nun - Müslüman Şeriatı olabilir. Silah tüccarının verdiği bilgiye göre, alıcının saldırı sırasında yakalanıp öldürüldüğüne şüphe yok."

(:買い手はHIS──イスラム教徒シャーリア派の可能性が出てきました。武器商人の情報では襲撃の際に買い手が巻き込まれ殺されたのは間違いはないものと)



"Peki ya Şeriat hizbi? ──Vurulanları inceleyin ve onları tanımlayın. Para yatırma yollarınızı yeniden yıkayın. Ceset torbasındaki insanları tanımlayın──bu aşırılık yanlısı ideolojinin üyeleri. Birim başına 300 milyon dolar en ucuzudur. 600 milyon bile nakit parayla hazırlanamıyor. Orada bir bağlantı görebilirsiniz."

(:シャーリア派だと──射殺された者達を精査しその者を特定しろ。入金ルートを洗い直せ。死体袋に入れられた連中を──その過激思想のメンバーを特定するんだ。1基3億ドルが最安値の物だ。6億もキャッシュで用意はできない。その辺りにつながりが見えるかもしれん)



"Bir terörist için hazırlanabilecek para değildir. Bir Asya ülkesi değilse, Afrika'da siyasi olarak istikrarsız bir ülke mi? Orta ve Güney Amerika da düşünülebilir."

(:一介のテロリストに用意できる金ではありません。アジアの国でなければ、アフリカの政情不安定な国でしょうか? 中南米とも考えられます)



"Yargılamamak ve araştırmamak daha iyi olur. Nihai alıcının arkasında büyük bir güce sahip olmak garip olmaz. Aşırılık yanlısı bir gruba mensup birini İran'ın yardımı olmadan destekleyen birçok ülke var."

(:断定して調べない方がいいだろう。最終的な購買者の背後に何処かの大国がついていてもおかしくない。イランが手を貸してなくとも過激派集団に属する某かを支援する国は数多くある)



 その1つの方針にタイス大尉が緊張した。



"Anladım Arka planı temizlemeye çalışacağım. Sonra Albay. Belirli bir nükleer savaş başlığının adını biliyorum. Bu yanan bir çömlek."

(:分かりました。洗い出してみます。それから大佐。なにがしの核弾頭の呼称が分かりました。“灼熱のつぼ”です)



 タイス大尉が再び敬礼をして部屋を後にするとホロゥイ大佐はつぶやいた。





"Yanan bir tencere mi? ──Ateş toplarını kastediyorsan caydırıcı değil──Zaman daralıyor. beş günümü boşa harcadım."

(:灼熱のつぼだと?──抑止力ではなく、火球を意味するのなら──時間は残り少ない。もう5日も無駄にしたのだ)











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