Part 29-4 Alternative Proposal 代替案
2OWTC(/One World Trade Center) Bld. Lower Manhattan, NYC 20:10
午後8:10 ニューヨーク市 ロウアー・マンハッタン ワン・ワールド・トレード・センター
ワン・ワールド・トレード・センターの吹きさらしの円形展望台屋根に立ちマリーは直後にパティが伝えたいくつもの状況に目眩を感じ片膝を屋上についた。
「おい、少佐、高所恐怖症だなんて言うなよ」
言いながらアンなりに気遣い肩に手を掛け彼女はマリーの顔を覗き込んだ。
「冗談じゃないわ──核爆弾がもう一つあるじゃない!」
マリーが苛ついた声を絞りだした。
「何だって!?」
ケイスがマリーの前で片膝を屋上について彼女の顔を覗き込んだ。
「二基の場所が分かったんだけど。どちらか片方を解除するともう一つが起爆するかもしれない」
そうマリーは二人に言いながらルナを意識した。
ルナ、核爆弾がもう一つあるわ。突入体外部に付いている携帯電話を見た?
瞬間にルナが意識を返してきた。
『はい、チーフ。まだ手を出していません。三つの携帯電話の意味を考えていました。解除手段を考察中です』
一つずつ携帯電話を切り離したらどうかしら?
『こんな仕掛けを弄する輩です。それは考慮して対策を仕掛けてあるでしょう。携帯電話から突入体のケースに入ってるパラレル・ハーネスの六本線は携帯電話三組とも共通です。三つ一組が相互干渉するようにするなら、ハーネスの四本はトラップの危険性大です』
ルナの言っている意味すべてが彼女から得た知識で重石となってマリーの心にのし掛かった。時間がなかった。リモートコントローラーである携帯電話を持った四人がそこまで来てるのだ。
『チーフ、一つ方法を思いつきました』
何を、ルナ!? マリーはすがりつく様に尋ねた。
『コイントスになりますが、コアを直接起爆不能に──』
確率五十パーセントと言われ彼女の意識する水素爆弾の構造がマリーの意識にも浮かび上がった。
そんな事が可能なの? そうマリーが問い掛けた直後ルナが説明した。
『ええ、水爆を起爆させる為の外郭の原爆の圧縮用合成爆薬の数十枚の内一枚を取り除ければ、均等な爆縮が起きず確率フィフティで水爆も起爆出来なくなります。ただ、その為には突入体のパネルを開かないと合成爆薬に細工が出来ません』
直後困惑するルナの感情が尾ひれとして流れてきた。その意味がマリーには瞬時に理解でき、ルナに問い返した。
パネルに細工がしてある可能性が高いと?
『ええ、チーフ。私ならスクリュウ一本でも抜いた時点で起爆する様に細工します。そこで相談なのですが、コアを銃でパネルごと撃ち抜くというのはどうかと?』
そのルナの提案にマリーはどきりとして副官に問い掛けた。
本気で水爆を銃で撃ち抜けと言ってるの!?
『本気です。ただし我々のP90やFive-seveNでは駄目です。使う小型高速弾はプレートは撃ち抜けますが、コアに届く前にスピンするでしょうからコアの合成爆薬を剥ぎ取れるほどには破壊効果が得られません。それに二人の人間が操る普通の銃では完全な同期がとれませんから、射撃システムをリンクさせたビームライフルで二基のコアを同時狙撃したらどうでしょうか? それですと破壊差は最大でも一万分の数秒しか起きませんから相互起爆装置が作動するであろう千分の数秒よりは一桁速く解除出来るかと』
それは駄目よ。今しがたハントのビームライフルが作動不良で規定の出力値が出ないと言ってきたの。
『★σ▲§』
一瞬、ルナのわけの分からない歪んだ意識が流れ込みマリーはルナが絶句したのだと思った。
『チーフ、イズゥがトリニティ教会の前に。今、止めに入らないとNSAや海兵隊リーコンズが近くまで来てる』
いきなりパティに教えられマリーはウォール街の西端にあるトリニティ教会ってすぐ近くじゃないかと思い立ち上がった。テロリストらが追いつめられたら、リモートコントローラーを操作するかも知れない。核爆弾解除は諦めてコントローラーの強奪確保を優先させなくては、とマリーは考えながらアンとケイスを見やった。
「時間がなくなったわ。ケイス、アン、二人でNSAと海兵隊リーコンズを阻止して。その間に私がイズゥからコントローラーを奪い──」
言い掛けマリーはケイスが肩に担ぐバレルの縮んだ狙撃銃GM6 Lynxを見ながらとんでもない事を思いついた。そう、これなら危険をおかしてコントローラー奪取に血眼になることはない。
「そちらの一基をレイカがビームライフルで、一基は私が狙撃し破壊するわ!」
そう声にしてルナに伝えると彼女が戸惑いながら尋ねてきた。
『マリー──狙撃って!?──どのビルなんですか!?』
「エンパイアよ」
答えながらマリーはレイカの能力を受け継ぎ私が狙撃銃で核爆弾のコアを撃ち抜くと決意した。
だがマリーがそう意識した刹那、ラピスラズリの虹彩が一度開き切り急激に収縮すると彼女自信予期しなかった事が起き始めた。
まだパティに命じてもいないのにどうして、とマリーは戸惑いながら螺旋に落ち込む様にレベル・5でレイカ・アズマとシンクロしてしまい、後ろから頭を殴られた様な衝撃を感じ、またあの濁流の様に恐ろしい量の知識や経験が流れ込み始めた。